第9話 長安出兵と再出仕
またしても、俺は出兵を見送った。俺も前線で指揮したいのね~。
今回も俺は、漢中でお留守番になっちゃったよ。
総大将は、王平君とした。張翼君と廖化君は上庸のお留守番だ。
王平君は、文字も読めない欠点もあるけど、土地勘がある。参謀に司馬昭だ。それと、蜀漢国で登用した、他の雑将軍も同行させる。
糧道の確保に、
「う~ん。大丈夫かな~」
まだ少し、心配だ。
戦争って自分が指揮するよりも他人に任せる方が、不安になる。裏切りはないと思うけど……。勝てっかな~。
負けてもいいけど、将兵の損失は避けたいのが本音だ。
「我も行きましょうか?」
魏延君を見る。
こいつ、命令違反すんだよな~。戦端を広げ過ぎると防衛が薄くなり過ぎる。
それに、父の劉備は、魏延を守備の要にしたのもある。守備の名手なんだよね。
「一応、援軍の準備をしておいてね~。臨機応変に出て貰うから~。子午谷道からの電撃戦もありかもね~」
「はっ!」
嬉しそうだな~。でも、漢中の安定には、魏延君が最適なんだよね~。練兵も上手いし。だけど、出兵は……、ないかな。
◇
王平君たちを見送って、数日が過ぎた。
雑務を熟していた時だった。
「うん? 謁見の申し出? 朕に?」
「はっ! 昔、先帝に仕えていた方です」
劉備時代の人? 誰だろう?
まあいいか。とりあえず会ってみようか。
その人物が、部屋に入って来た……。
「……李厳将軍」
確か、『李平』に改名していたけど、李厳の方が分かりやすいので、李厳で通す。
「面会の機会を頂き、この上ない名誉です」
この人は、蜀で『勇者』と呼ばれた人だ。
父劉備は、亡くなる時に、内政を諸葛亮に、軍事を李厳に任せた経緯がある。
だけど、南蛮遠征の時に、諸葛丞相に軍権を奪われていた。
本来であれば、戦場で矛を振るう人だったんだけど、食料長官に任命されて、不作の時にヘマをして解任された人だ。
李家は、その後、子供の李豊が家長になっているみたいだ。
李厳を見る。もう、初老を通り越して、老人だ。
史実では、諸葛丞相と同時期に死亡していたことになってたけど……、生きていたんだ。
「劉禅陛下……。今一度、先帝に報いる機会を与えて頂きたい。このままでは、死んでも死に切れませぬ。兵士を指揮したいのです! どうか、どうか……」
李厳は、涙を流しながら訴えて来た。
俺は、玉座から立ち上がり、李厳の前まで歩み寄った。李厳の手を取る。
「良く来てくれたのよ~。とっても嬉しいのね~。兵権を預けるので、長安まで行ってくれる?」
「うおおぉ……」
李厳は、大泣きだ。後ろに控える李家の人たちも、感涙している。
これ、下手すっと
まあ、第四次北伐の撤退原因を作った人だし、平民に落とされたら、蜀漢国でどんな扱いを受けるかは想像できる。
「李豊君は、兵士を集めてね」
名誉挽回の機会を与えてあげたい。
「はっ。李家の戦える者を集めております。千人程度ですが、何時でも出発できます」
うんうん。忠臣が、まだいたんだね~。
元の驃騎将軍に任命して、三千人で出兵して貰った。二千人は、俺からの加増だ。
「大丈夫なのですか? やる気は認めるのですが、もはや矛も持てないかと。馬も怪しいと思います」
魏延君からだった。
「どんなに歳を取っても、戦場での経験は重要なのよ。指揮官として、これ以上ない人物なのよね~。それに軍師でもいいし」
ボケていたら、面会になんか来ない。そして、瞳の奥に炎が灯っていたのを確認できた。李厳は、どんな若者よりも心に力が漲っている。将軍としては、これ以上ない人物だ。
父、劉備の徳がまだ残っていたんだな。嬉しい誤算だ。
だけど、魏延君には理解できないみたいだ。
◇
一ヵ月後、長安と潼関が陥落したと連絡があった。
「マジ?」
木簡を見て、驚いた。都を落としちゃったの? マジで?
そして……。
「なんだと? 李厳将軍が、討ち死にだと?」
李豊君が、報告に戻って来てくれた。
詳細を聞く。
「父李厳は、王平将軍の戦術に呼応して、奇襲を繰り返しておりました。討ち取った将兵は数えきれません。戦況が、蜀漢軍に有利に働くと、城門が閉じる前に長安に忍び込み、内側から城門を開ける手柄を挙げております。そして……、全身に矢を受けながら、長安の本殿に突入して、長安太守を討ち取りました……」
李豊君は、涙を流しながら、報告をしてくれる。
李家って、血の気の多い者が殆どだったらしい。唯一の例外が、李豊だったんだな。
「あああ……」
俺も涙が止まらない。
意気込みを買ったけど、そんな無謀な特攻を行うなんて……。
「父李厳の遺言です。先帝と陛下の徳を称え、李家は忠誠を尽くす様にとのことでした」
「うんうん……。李家には、恩賞を約束するのね。家を建て直してね」
「ありがたき幸せ。これから、李家を建て直してみせます。そして……、父李厳以上の忠誠をお約束いたします」
少し席を外させて貰った。外で長安方向を見る。
涙が止まらない。
「忠臣を失ってしまったのね……。失策だったかな~」
ここで、司馬師君が口を開いた。
「お慰めになるかもしれません。父の司馬懿の話をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
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