第3話 撤退戦の劉禅

 さて、ここから本番だ。ここから先は、敵に遭遇しても不思議じゃない。

 本当の戦場に向かうんだ。気を引き締めないとね。


 陳倉道から、渭水へ出る。この道が一番近い。韓信の進軍経路だよね。諸葛亮と、魏国の郝昭・王生が戦った場所でもある。


『魏国が関所というか城を作ったんだけど、諸葛亮は破壊しちゃったんだよね』


 余裕ができたら、作り直してもいいかもしんないけど、道が細いので無意味かな?


 本当は、五丈原から漢中までの道もあるんだけど、整備してないので、危ない。ここからは、安全策だ。


 そして、ここからは、敵の領地だ。奇襲なんか受けたら命も危ない。

 五丈原は、まだまだ先だ。慎重かつ、移動速度を落とさずに進む。


「斥候を放ってね~。伏兵に気を付けて進んでね~」


「はっ!」


 ついて来てくれたのは、王都守備隊と楊儀軍・漢中軍だ。一応、エリート集団。数は……、一万人。

 少ないけど、五丈原には、六万人位いるはずだ。敵は、二十万人らしいけど。


「襲われたら終わりの兵力差だけど、元々詰んでる状況なのよね~」


 やらないよりも、やって後悔しよう。

 詰んでいる盤面だけど、今が最悪なんだ。動けば、それだけ良くなる。





 数日が経過した。

 注意深く進むと、味方の旗が見えた。こちらも旗を振って、援軍であることを理解させる。そして、合流できた。


「おお、王平将軍に姜維将軍!」


 第二陣だな。史実通りだ。魏延と馬岱を残して来たか。

 だけど、時間をかけると、魏延が物資を捨てて先回りして来る。魏延は、用兵が上手いんだよね。

 あ……、でも今回は道が違うか?

 もうこの時点で、歴史が変わっている?


「「え? 陛下? 何故ここに?」」


 考えていると、二人と話せる距離まで近づいていた。

 二人共に、慌てて下馬して、礼を尽くしてくれる。

 俺も下馬して、彼等の手を取った。


「今までよく頑張ってくれたね~。感謝しかないのよ~」


「「……陛下?」」


「そんで、魏軍の動きは? 流石に、追撃はあるでしょう?」


「え……。あ……、そこまで迫っています。しかし、大丈夫です。諸葛丞相は、策を授けてくれていますので。隙をついて撤退できます。お任せください」


「それだけじゃ、ダメなんだよ!」


「「えええ? 何で、秘策を知られているのですか?」」


 それと、張翼将軍は、頭を抱えていた。





 姜維の軍を崖の上で布陣させる。

 王平と張翼の軍は、山の中で待機だ。伏兵だな。


 待っていると、魏軍が来た。


「あの~、陛下……。兵が少ないんですけど」


「大丈夫よ~、王都守備隊もいるんだし。追手の魏軍も少ないからね~。奥の手は、まだ見せないでね~」


 魏軍の兵士数を知っているのは、大きなアドバンテージだ。そして、騎兵がほとんどだ。崖上の蜀漢軍と対峙するには、物資が足らないはずだ。なにより、梯子はしごなんて持って来ている訳がない。ここは、攻城兵器がないといけない場面だ。


 姜維は、不満なようだ。諸葛丞相は、戦いを避ける様に指示してんだもんね~。

 でも、今が千載一遇のチャンスなのよ。


 魏軍が、俺たちを視認すると攻撃して来た。何も考えずに、崖を登って来る。自信があるんだな……。

 姜維軍が、弓矢で迎撃するけど、進軍は止まらないな~。


「弓兵を下がらせて、盾兵を前に! 槍で押し返して!」


「はっ!」


 皇帝自らの指揮だけあって、士気が高い。諸葛丞相もいい兵を残してくれた。

 ここで、とっておきを出す。

 諸葛丞相に似せた人形だ。これは、【死せる孔明生ける仲達を走らす】の応用だ。


 違うのは、出すタイミングだけだけど、崖で魏軍が止まった。


 魏軍に動揺が見られる。よっぽど、怖い思いをさせられたみたいだ。

 そして……、退却の銅鑼ドラが鳴ったよ。

 計画通りだ!


「今よ~!」


 旗を振って貰う。

 魏軍の背後より、王平軍と張翼軍が突撃した。


「姜維将軍! 君も突撃して! 敵将を討ち取ってね! 今こそ、諸葛丞相の意志を継ぐ時よ~!」


「はっ! お任せを!」


 嬉しそうに、姜維軍が突撃して行く。

 俺の護衛は、百人くらいで十分だ。今が、千載一遇のチャンスなんだし。

 ここで失敗すれば、死ぬのが今か後かになるだけだ。

 三方向から攻撃されて、魏軍は大混乱だ。分断されて、各個撃破されている。

 いいね、いいね。兵法って感じだ。



 その日……、司馬懿が討ち取られた。

 そして、追手の魏軍が全滅した。





 今俺は、移動中だ。五丈原に向かっている。

 だけど、胸中は穏やかじゃない。


『司馬懿が、死んじゃったよ。歴史が変わってんじゃん。この後どうなんだ?』


 口には出せないけど、かなり動揺していた。

 最悪、転生特典の三国志知識が無駄になる可能性もある。未来が変わるからだ。


 考えながら、俺は、三人の将軍を連れて五丈原へ向かった。


「あの……、陛下。どちらまで行かれるのですか?」


 姜維君が、質問して来た。


「うん? 魏延将軍と馬岱将軍の陣よ~。遅れてるみたいだから、救援だね~」


「……諸葛丞相の密命まで、ご存じでしたか」


「あ、その命令はキャンセルね。味方で殺し合うのなしね」


「「「えええ?」」」


 三国志演義の被害者の一人。魏延を生き延びらせることが、俺の本当の目的だったんだ。

 だけど、司馬懿を討ち取るという、もっと大きな歴史の変化を起こしてしまったんだよね。

 どっちが副次的なのか、分からないよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る