第49話 王都③

 エメラーダ達の働きにより、ウォノマ王国は形勢を立て直すことに成功した。

 それでも王国内はグールだらけになっているという現状は相変わらずだが。


「これでいいのか」


 マックスは捕縛したグールをマーリンの元に連れてきた。

 研究の為にと、マーリンは特別に城の一室を宛てがわれたのである。


 グールは腕を体に固定するように縄で縛られ、口には猿轡さるぐつわがはめられている。戒めは固いので自力で解くのは無理であろう。にも関わらず、グールは戒めをとかんと体をよじらせていた。


「ご苦労。では早速採取するぞ」


「引っこ抜いたら死んじまうぞ」


「わかっておる。全部は取らぬぞ」


 マーリンはナイフを手に取ると、傘の一部を切除した。

 グールは呻き声をあげるも、猿轡のせいでくぐもった声しか出せない。


「傘だけでも痛そうにしておるな。まったく理解の範疇を超えとる」

 マーリンは切除したローブフングスをまじまじと見つめながら言った。


「ところで、こいつには冷気は効かぬのか?」

 調べていたローブフングスを卓に置くと、マックスの方を向き直った。


「えーと、確かローブフングスはくっついてるやつから栄養を取るから熱エネルギーを吸収する必要がないとかなんとか……普通に燃やせるぞ」

 マックスなりに説明をしようとしたが、面倒くさくなったのか途中でぞんざいになった。


「なるほどな。ひとくちに植物と言ってもアナセマスのはずいぶんと多様性があるとみえる。ローブフングスを植物に入れるのは不適切だが」


「ローブフングスは動かないし、生えてるものだぞ。植物じゃねぇのか?」


「お前さん、小難しいことを言うけど受け売りなのか。聞いてることを理解してるようには見えんが、それでも覚えておるというのは大したことだ」

 マーリンは感心するようにマックスを見た。


「うるせぇな! どうせ俺は馬鹿だよ!」


「褒めたつもりなんだがな。ところで、エメラーダはどこにいるんだ?」


「エメラーダか。グールをニンゲンに戻すのにかかりきりになってるぜ。だから俺だけで連れてきたんだ。他のやつじゃグールを抑えられないし」


「なるほどな」

 マーリンは納得したように頷いた。


「こいつをエメラーダのところに連れていいか?」

 マックスは捕縛したグールを指差しながら尋ねた。


「連れていっていいぞ。ローブフングスは採れたからな。ご苦労であった」


「んじゃ、戻るとするかな」

 マックスはグールを掴むと、そのままエメラーダの元に連れていった。



***


「グールをマーリンのところに連れてきたぞ」

 マックスはグールをエメラーダに引き渡した。エメラーダは城内に運び込まれた負傷者を見ていたところである。


「ありがとうございます」

 エメラーダは蒼き剣を取り出し、発光させる。すると、グールの首元に生えているローブフングスが消失した。


 グールはがくりと項垂れたかと思うと、その場に崩れた。


「ローブフングスを傷つけたせいか? どうにも弱ってるような気がする」


 マックスは気を失っているグールだったものを見た。壮年に見えるその人物は気を失っている。息はあるものの、顔色は悪い。


「完全に取らなきゃいけるかと思ってたが、どうやらそうでもないようだ」

 マックスは考え込むように、顎に手を当てた。


「マックスさん、責任を感じておられるのですか?」

 エメラーダは機嫌を伺うように、マックスの顔をのぞき込む。


「責任、ねぇ」

 マックスはエメラーダと目を合わせる。エメラーダの目には、動揺の色が見えるような気がした。


「俺に責任を感じて欲しいのか? グールを叩き切る俺に?」

 マックスは真顔で答えた。


「いや、そういう訳では……」


 そもそも「グールを生け捕りにしろ」という無茶な命令を下したのはエメラーダの方だ。

 マックスはマックスなりに、その無茶に答えているのだ。それなのに「責任を感じろ」などという方が無責任ではないか。


 頭ではわかってはいるのだが、どうしても気持ちが追いつかなかった。


「マーリンだったらなんとかしてくれるだろ」

 エメラーダの気持ちを知ってか知らずか、マックスはこんなことを言い出した。


「そ、そうですよね。マックスさん、ありがとうございます」


「礼を言われるようなことは言ってないがな」


 エメラーダは謝意を示したが、マックスの返事は素っ気ないものだった。

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