第26話 疑念①

 カレドニゥスはヌイグルミの襲撃により、大きな打撃を受けていた。

 クラウディオは、家臣と共に復旧作業に全力を尽くしている。


「エメラーダ様、城にいなくていいんですか」

 マックスは、瓦礫の中から木材を持ち上げていた。隣にエメラーダがいたので、話しかける。


「皆様は復旧作業に尽力を尽くしています。それなのに、私だけ城でくつろいでいるわけにはまいりません」


「そうは言いますけどね。そのせいで、俺は作業を手伝わされることになったんですけど」


 マックスは手伝わされたと言っている。けれど、エメラーダは見ていたのだ。


 本当は、兵士らが作業に手こずっているところを見かねたので、代わったところを。


「ふふふ」

 エメラーダの口から笑みがこぼれる。


「なにがおかしいんですか」

 マックスはぶすっとした。


「申し訳ありません」

 そういうも、エメラーダは相変わらず楽しそうである。


「ところで、ルシエルさんのことですけど、なにか進展はありましたか?」


「ルシエルか……さっき、姿を現しましたね。『ここにヌイグルミが現れた時にも、時空の歪みが見られた』とかなんとか言ってたような気がします」


「時空の歪み……ですか……」

 エメラーダは、ラプソディアで起こった出来事について思いを巡らせていた。


 そもそも……。

「時空の歪みってなんでしょうか?」

 エメラーダは「時空の歪み」というのがいまいちピンと来なかった。


「俺に聞かないでくださいよ。こういうのはディーダの専門なんだから」

 マックスは肩をすくめる。


「……ディーダさんというのは……」

 エメラーダは首を傾げた。

「そういえば、エメラーダ様にはアナセマスにいた時の記憶がないんでしたっけ」


「はい……この度は、すごいご迷惑をおかけしたと聞きまして……」

「謝らないでください。もう過ぎたことですから」


 それを聞いて、エメラーダは、ますます申し訳ない気持ちになった。


「ところで、ディーダさんはどういうお方なのでしょうか?」


 エメラーダはディーダのことが気になってきた。そこで、思い切って尋ねてみることにした。


「そういえば以前、ヘッジの野郎が俺の事を『白い悪魔』だって言ってたことがありましたね。


 以前は、村という村をそれこそ片っ端から荒らし回ってまして。いつの間にかそう呼ばれるようになったんです。


 ある時、いつものように村を襲撃しようとしてた時の話です。そこにヒガンナの傭兵団が来て、俺らとやり合ったんです。


 それがまぁ、滅茶苦茶強くて、手酷くやられまして。最終的には戦ってるのは俺だけになって。


 でも、ヒガンナの連中は俺を殺さないで、ヒガンナに連れていったんです。


 俺に『ヒガンナから出るな』って条件を出したものの、随分とよくしてくれました。でもまぁ、俺は距離を置いてましたが。


 そんな中、孤立してる俺を見かねたというので、声をかけたのがディーダだったんです。


 最初は『鬱陶しいから付きまとうな』って言ったんですけどね。でも、あいつもなかなかしつこくて。そうこうしてるうちに、いつの間にかよく話すようになったんです」


 エメラーダは、ディーダの話をする様子を興味深げに聞いていた。心なしか、嬉しそうな顔をしていたからである。


「ふふふ」

「なんで笑ってるんですか」

 含み笑いをするエメラーダに、マックスの目線が鋭くなる。


「申し訳ありません。いつもは無愛想なのに、ディーダさんの話をしているときはなんだか嬉しそうで。本当に、ディーダさんのことが好きなんですね」


 鋭い目付きになっていたマックスだったが、今度は顔が真っ赤になった。

「からかうのはやめてください!」

 マックスは慌てふためいている。


「これは、失礼いたしました。マックスさんがアナセマスに帰れるよう、私、尽力いたしますね!」

 エメラーダは力強く宣言した。顔は笑顔だが、眼差しは真剣になっている。


「尽力いたします、って……時空の歪みとやらはなんとかできるものですかね」

 マックスは皮肉っぽく言ったが、その顔は笑みが浮かんでいた。


「と、長々と話してる場合じゃなかった」

 マックスは復旧作業に戻った。

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