第25話 再襲②

「お前達は住民を避難させるんだ!」

 エメラーダの姿を見届けたあと、クラウディオは改めて兵士たちに命じた。


 エメラーダはヌイグルミの方に向かっていく。そんなエメラーダを意に返すことなく、ヌイグルミは宛もなくウロウロしていた。


「エメラーダ、どうしよう?」

 ロビンが尋ねる。


「そういえば、以前ラプソディアで戦ったとき、着地前に羽根を出して着地させましたね」

「そういえば、そんなことやったなぁ」


 エメラーダは、しばし黙り込む。考え事をしているようだが――


「そうだ!」

 なにかを閃いたらしい。続けて、エメラーダはこんなことを言った。


「ロビン、私の背中に羽根を生やして、飛べるようにできますか?」


「ええぇぇ?!」

 ロビンは驚きのあまり叫んだ。


「剣にはできたけど、それを、エメラーダに生やせるかというと……」


 エメラーダの提案に、ロビンは困惑している。

「きっとできる」エメラーダの目は、そう語っていた。


 根拠はどこから来ているのか、わからない。けれど、マックスを伴わなかったのは、そういうことだろう。――投げ飛ばされたくないだけかもしれないが――


「わかった。やってみるよ! ……えーい!」

 ロビンは掛け声を上げた。


 刀身が眩い光を放つ。そこから発した光はエメラーダの背中に移動する。

 そして、光は蝶の羽根の形を取った。


「背中に羽根が生えたみたいになってるけど……」


「本当ですね!」

 エメラーダは後ろを振り返り、背中の方を見た。


「動かしてみますね……」

 エメラーダは意識を羽根に向ける。すると、羽根はパタパタと羽ばたきはじめた。


「やりましたね! これなら空を飛べそうです!」


 エメラーダは助走をつけるように走り出し、地面を蹴って、跳んだ。

 同時に羽根を羽ばたかせる。身体が宙に浮いた。


 エメラーダは、そのまま羽根を羽ばたかせた。体はどんどん空の方に上がっていく。


「わあ、本当に飛んでいる……」

 エメラーダは、飛びながら感嘆の声を上げる。

「すごいや! これならヌイグルミをやっつけられるね」


「すごいのは、ロビン、あなたですよ。でもこれなら戦えますね。では、参りましょう」

 エメラーダは、ヌイグルミに向かって飛んでいった。


「気をつけてね!」

 ロビンはエメラーダにエールを送った。

「はい、ありがとうございます!」


 エメラーダは、ヌイグルミの近くまで飛ぶ。気配を察したヌイグルミは、エメラーダをたたき落とすように腕を降るう。


「危ない!」

 ロビンが堪らず声を上げる。エメラーダは間一髪で回避する。

 ヌイグルミの一撃は、建物に当たった。建物は崩れ落ちていく。


「ああ!」

 エメラーダは悲鳴を上げた。

「早く倒さないと、被害が大きくなってしまいます!」


「でも、無茶しないでよ」

「大丈夫です!それに私は一度戦ったことがあるんですから!」

 ロビンの心配をよそに、エメラーダは自信満々に答えた。


 エメラーダは剣を構えなおし、ヌイグルミの死角に入るように接近した。

「おりゃあああああ!!」


 剣撃が入るところまで飛んだ。エメラーダは、剣をヌイグルミの頭に振り下ろした。

 振り下ろした格好そのままで、下降する。ヌイグルミは真っ二つに切り裂かれていった。


「見ろ! 怪物が真っ二つになったぞ!」

 それを見た兵士達は驚きの目を向けた。


「周りに何か飛んでいるような……エメラーダ様ぁ?!」

「呼びましたか?」

 ヌイグルミを倒したエメラーダは、兵士たちのところに飛んできた。


「エメラーダ!」

 クラウディオが走り寄ってきた。

「ご心配をおかけして、大変申し訳ありませんでした……私は、大丈夫です」


 エメラーダは着地した。着地と同時に、背中の羽根が消失した。


「よくやったぞ! エメラーダ」

「え、えぇ……」


 きっと、クラウディオに叱責されるだろう。

 そう身構えていたエメラーダだったが、逆に、褒められてしまった。かえって困惑を覚える。


「いいのですか? だって、私は世継ぎを産まねばならぬのに……」


「何を言っているのだ。戦場に立って、剣を振るっている。今の君の方が輝いているではないか」

 そのように言うクラウディオの目も、輝いていた。


 今のエメラーダは、高揚感に溢れている。街を破壊する怪物を倒したからだ。


 剣を振るうことこそ、ソーディアン家の本懐。

 ――そうだ。これこそが、私が求めていたものだ――。


「エメラーダ様、万歳!!」

「エメラーダ様は世界を救う英雄だ!」

 兵士達はエメラーダを賞賛する。その場は熱狂に包まれた。


「…………」

 人々が沸き立つ中、ロビンはひとり、ラプソディアでの出来事を思い返す。沈思する中、次第にやりきれない気持ちになってきた。

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