第47話 王都①

 負傷者をバジーリオの元へ預け、砦を出発したエメラーダ一行。


 王都に向けて歩を進めるも、道中、グールに襲撃される。エメラーダは無力化させることに成功するも、かなりの死傷者を出してしまった。


「こればかりは致し方ないでしょう。なにせ、向こうは我々を殺しにかかっているんだから」

 マックスはエメラーダにこう言い放った。


「わかっています……」


 グールを人間に戻す方法はある。だが、グールは構わずに襲いかかってくる。手加減したくてもできないのだ。エメラーダは悔しくてたまらなかった。


「生存者を安全な場所に運びましょう」

 悔やんでいても仕方がない。エメラーダは気持ちを切り替えると、従者に負傷者を運ばせて、再び歩き出した。


 それからしばらく歩くと、王都に続く街道へと出た。一行は、このまま歩き続けた。




***


 ――ウォノマ王国。王都。


「このままでは全滅です。陛下だけでもお逃げ下さい」


「民を見捨てろというのか! バカを言うな!」


「しかし……っ!!」


 王城の一室にて、二人のものが口論している。


 一人は痩せぎすで、神経質そうな雰囲気を漂わせていた。顔には年月の積み重ねが見られる。彼はファルゴン。ウォノマ王国の宰相だ。


 そしてもう一人は、引き締まった体躯を持ち精悍な顔立ちからは威厳が溢れている。歳の方は壮年期に迫るころといったところか。

 その名はジョービズ。ウォノマ王国の現国王である。


「ですが、もう限界です。食料も尽きております。陛下さえいれば、国は立て直せるでしょう」


「ファルゴンよ。逃げ出そうにも外はグールだらけだ。どっちにせよ、退路などない。ならば、最後まで戦おうではないか!」

 ジョービズは啖呵をきった。


「陛下……」

 もとより屈強な体躯にたがわず、屈強な精神を持つジョービズだ。「一人だけ逃げ出す」という選択肢はハナからない。


 ファルゴンはそんなジョービズの性格を理解していたが、それでも言わずにはいられなかったのだ。


 突如、バタンと大きな音が響く。扉が勢いよく開けられたのだ。


「失礼します!」

 一人の兵士が部屋に入ってきた。


「どうしたというのだ?」

 ファルゴンは兵士に尋ねる。


「援軍が、到着しました!!」



***


 ――王都に到着したエメラーダ一同。待ってましたと言わんばかりに、グールの大群が襲いかかってきた。


「おい、ここはグールが多いな!」

 マックスが襲いかかってくるグールを次々と切り伏せる。


「そりゃ、王都って言うからねぇ。住民が多いからでしょ」

 ヘッジも負けじと応戦する。


 エメラーダは蒼き剣を掲げる。剣から光が放射され、光の奔流となってグールを飲み込んでいく。

 グールは次々とその場に倒れていった。


「あらかた、グール共は片付いたか?」

 フォレシアが辺りを見回す。


「まだいるかもしれないねぇな。どっちにせよ警戒するに越したことはない」

 マックスが警戒を促す。


 蒼き剣の光の奔流を受けたグールはその場に倒れ込んでいる。

 その中のひとりが、意識を取り戻し、起き上がった。


「俺は一体……」


 意識を取り戻したものは、王都では一般的な服装をしていた。どうやら、王都の住民らしい。

 グールだった住民が人間に戻った。エメラーダは喜びの表情を浮かべた。


「ご無事で、何よりです」

 エメラーダは声をかけると、その者は驚いたように目を大きく見開いた。


「あぁ……。思い出したぞ! 俺はグールに襲われて……ダメだ。記憶が……」

 その者は頭を抱える。


「どこか悪いところはありますか?」

 エメラーダは再度尋ねた。その者は「いえ。大丈夫です」と言いながら首を横に振る。それを見たエメラーダは、安堵の表情を浮かべた。


「俺はフィンと言います。あんたはどこから来たんです? この辺りでは見ない顔だが」


「エメラーダと申します。ウォノマ王国からグール襲撃の報を受け、カレドニゥスから馳せ参じました」


 エメラーダの名を聞いた途端、フィンは驚愕の表情を見せた。


「すると、あなた様が『剣の奇跡使い』のエメラーダ様ですか! 馴れ馴れしい口を聞いて、申し訳ありませんでした!!」

 フィンは慌てて頭を下げた。


「剣の奇跡使い? 妙なあだ名がついたもんだな」


 マックスが茶化すように言う。エメラーダは恥ずかしさのあまり、穴があったら入りたくなってきた。


「えぇと、あなたも倒れている人たちを見てもらえませんか?」

 エメラーダは恥を忍んでフィンに頼む。


「分かりました」

 そう言うと、フィンはエメラーダ達と共に倒れた者たちを介抱し始めた。


「ご協力感謝いたします」

 エメラーダは丁寧に礼をした。


「いえ、当然のことをしたまでです」

 フィンは笑顔を見せる。


「倒れている者は、家来に任せましょう。あなたにもお任せしてよろしいでしょうか? 無理に、とは言いませんが」


「はい、喜んで!」

 エメラーダの頼みを快く受け入れたフィンは家来とともに介抱をする。


 エメラーダは、マックスとフォレシアとヘッジを連れて、城へと向かった。

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