第46話 グール②

「失礼いたします。どなたか、いらっしゃいませんか?」


 砦にたどり着いたエメラーダ一行。その門は固く閉ざされている。エメラーダが叫ぶように、呼びかける。


「何者だ!?」

 中から、男の声がした。


「私はエメラーダです。グールの襲撃の報を受け、カレドニゥスから救援に参りました。負傷者がおります。彼らをそちらに避難させたいのですが」


「エメラーダ様ですか! 我らのために、馳せ参じてくださったとは。ですが、申し訳ありません。いつグール共が襲いかかって来るかわかりません。この門を開けるわけには……」


 ドゴォン!!


 男が言い終わらぬうちに、門が震えるとともに大きな音が響く。


「この程度だったら壊せそうだ。壁の方は石が積んであるのか。石を取り出して穴を開けるのもいいな」


 マックスが力まかせに門を殴る。その度に、門が衝撃で震える。


「おやめ下さい!」

 男が慌てふためく。このままでは門が破壊されてしまう。そう思うほどに、強い衝撃を感じ取ったからだ。


 男は仲間を呼び、門を開ける。開いた瞬間、エメラーダ一行は急いで砦の中に入った。



「けっ、手間取らせやがって」

 中に入る瞬間、マックスは吐き捨てるように言った。

 砦の兵士は一行が全員中に入ったことを確認後、急いで門を閉じた。


「先程の乱暴狼藉、お許しください」

 エメラーダは男に向かって謝罪をした。


「いえ、失礼な振る舞いをしたのはこちらです。エメラーダ様を閉め出すような真似をして」


「そうだ。とっとと入れてくれりゃよかったんだ」

 マックスが割り込んできた。


「俺はこの砦を預かっているバジーリオと申します」

 バジーリオはエメラーダに向かって一礼した。


「負傷者たちは、どこに休ませればいいでしょうか?」

 エメラーダがバジーリオに尋ねる。


「そうですね。救護室があるのでそこを使って頂いて構いません。それでは、早速案内いたします」


 兵士の案内に従い、エメラーダ達は救護室に入った。そこに連れてきた負傷者を横たわらせる。


「この方たちをお願いします」

 エメラーダは兵士に負傷者の介抱を頼む。


「あいにくですが、物資が不足しております。充分な手当ができるかどうか。ですが、できる限りのことはさせていただきましょう」


「ありがとうございます」

 エメラーダは兵士に礼を言うと、バジーリオの元に行った。


「エメラーダ様。民を助けていただき、感謝の言葉もございません。ところで、彼らの身に何が起こったのでしょうか」


「それはですね――」

 エメラーダは王都に向かう途中でグールに襲撃された時のことを説明した。


「そうでしたか。せっかくエメラーダ様がわざわざお運びくださったというのに……」

 バジーリオは顔を曇らせる。


「あまりご自分をお責めにならないように。あなたは、やるべき事を果たしただけですから」

 エメラーダはバジーリオを慰めるように言葉をかけた。


「これからどうなさるおつもりで?」

 バジーリオは尋ねた。


「我々は王都に向かいます」

 エメラーダは力強く宣言した。


「かしこまりました。ですが、我らの方でも状況がよくわかりません。グール襲撃のおり、砦に立て篭もったのはいいものの、そこから一歩も外に出られない有様で」


「お気になさらずに。あれだけの数のグールを相手にしては、砦から出るのは難しいでしょうし。私としては、バジーリオさんがここにいてくれて大変助かりました」


「我らはやるべき事をしただけです。それよりもエメラーダ様達が王都にたどり着く前に、事態が好転することを祈るばかりです。では、ご武運を」


 バジーリオに見送られ、エメラーダ一同は砦を出る。そのまま、王都へ向かった。

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