第30話 ドラフォン③
「この妖精はなんだ? 羽が六枚あるなんて……」
突然現れたルシエルに、ハーマンは目を丸くする。
「ハーマン卿は、ルシエルに会うのは初めてでしたね」
エメラーダは、ハーマンにルシエルの話をした。――『呪われた地』から来た、ということは言わなかったが――。
「ルシエルと申すもの。そなたは、この現状を打破する手立てがあるというのか?」
ハーマンは、ルシエルを見つめながら問うた。
「なんとかするのは、あたしじゃないわよ」
「じゃあ、なんで面を出したんだよ」
マックスが突っかかる。ルシエルは無視して話を続けた。
「このあたりに、水の妖精の気配がしたのよね。水の妖精なら、なんとかできそうじゃない?」
「水の妖精か……」
ハーマンは、険しい顔になった。
「なにか、知ってるの?」
ハーマンの様子が気になったのか、ルシエルは訊いた。
「かつて、ドラフォンには自らを『魔術師』と称した女がいたのだ。彼女は、水の妖精を使役していた」
「妖精を使役してたのか。とんでもない女だな」
マックスは関心するように言う。
「その女の名は、マーリン。彼女は自然を熟知していた。森羅万象から力を引き出す術を持っていたのだ。
マーリンは、それ魔術と呼び、また自らを魔術師と称した。彼女の魔術は、病を癒し、人々の必要を満たした。ドラフォンに対し大きな貢献を果たした、と言っても過言ではなかろう」
「そのような方がおられたのですね」
エメラーダは関心するように頷いた。
「だが、ロニ王はマーリンを『国家転覆を目論む反逆者』とみなしたのだ」
「ロニ王とは、ウォノマ王国の先代の王ですね」
「そうだ。しかし、ロニ王は何故マーリンを反逆者とみなしたのか。ドラフォンにとっては欠くべからず存在だ。害をなしたことは一度もない。王は、それを知らぬはずはないのだが」
ハーマンは唸った。
「ところで、マーリンはどうなったのでしょうか?」
「分からぬ。ロニ王は追放したと言っていた。以来、誰も姿を見たものはいないのだ」
マーリンについて、一通り語り終える。ハーマンは、一息ついたあと、目を閉じた。
「マーリンって水の妖精を使役してたんでしょ。ということは、水の妖精のいるところに、マーリンもいるかなって思ったんだけど」
ルシエルは腕を組みながら言った。
「でも、話を聞く限りでは、マーリンちゃん行方不明だよ。例え水の妖精ちゃんを見つけても、一緒にいるとは限らないよねー」
ヘッジが横から入ってきた。
「マーリン『ちゃん』とはなんだ」
妙に馴れ馴れしいヘッジの態度を見て、ハーマンの眉間にシワが寄る。
「申し訳ありません。この男は見境がないんです」
マックスが代わりに謝る。
「見境がないとは心外だ。俺ちゃんは博愛主義者なの」
ヘッジはうそぶいた。
「でも、ヘッジさんの言う通りです。水の妖精を見つけても、一緒にいるとは限らない」
エメラーダが同調する。
「別にぃ、マーリンがいなくてもいいでしょ。水の妖精はマーリンに力を貸してたんだもの。それって人間のことをほっとけないってことでしょ。なにより今の状況は、正しくグレイセスの危機だし」
ルシエルはあっけらかんと言った。
「で、お前は水の妖精がどこにいるのかわかってんのか」
マックスは質問する。
「それがねー。わからないのよ」
ルシエルは首を振った。
「はぁ? どういうことだ。お前は、全ての妖精の居場所を把握してるんじゃなかったのか」
マックスはルシエルをなじる。
「気配を感じたから、意識を飛ばしてみたの。そしたら、障壁を張られちゃったのよ」
「なるほど。どうやらそいつは、お前が邪悪な存在だとわかったんだな」
マックスは納得したように、首を縦に振る。
「なによ、その言い草ー!」
ルシエルは頬を膨らませた。
「でも、どこにいるのかわからないとなると、探しようがないではありませんか。手がかりは全くありませんし……」
一同は、頭を悩ませた。解決の糸口が途絶えてしまったからである。
重々しい空気に戻る中、ルシエルはエメラーダの方に飛ぶ。
「ちょっと、いいかしら?」
ルシエルは、エメラーダの耳元でささやいた。
「もしかしたら、ロビンの助けを借りれば探し出せるかもしれないわ。少しでいいから、蒼き剣を貸してもらえないかしら?」
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