第16話 ソーディアン

 ――ラプソディア城。


 一同は、ロビンに案内され、城へ向かった。マックスに抱えらているエメラーダは、気を失ったままである。


「何者だ!」

 入り口にいた門番が叫んだ。


「ロビンだよ! いつも、エメラーダと一緒にいるでしょう」

 門番はまじまじとロビンを見た。


「ロビンか……後ろのものは……エメラーダ様?!」

 門番は、エメラーダの姿を認めると、仰天した。


「貴様ら! エメラーダ様に何をした?」

 門番は一同に向かって武器を構えた。


「すごい! 何言ってるのかわかるよ! ルシエルちゃんのおまじない効果はバッチリだね」

「お前は黙れ」

 ヘッジは喜んでいたが、マックスが黙らせた。


「俺達はエメラーダを返しに来たんだ。何かするつもりだったら、わざわざ返しに来ないだろ」

「黙れ! 怪しい奴め!」

 マックスは弁明したが、門番は聞く耳を持たない。


「待って、この人達はエメラーダを助けてくれたんだよ!」

 ロビンは必死に訴えた。


「助けただと? じゃあ、なんで意識がないんだ!」

 門番はロビンに詰め寄った。

「それは……」

 ロビンは言葉に詰まる。


「ねぇねぇ、そんなことより、エメラーダちゃんをこのままにしていいわけ?」

 ヘッジはにこやかな笑顔を浮かべながら、割って入った。


「そ、そうだ! 早く部屋の中で休ませてよ!」

 ロビンはこれ幸いと、ヘッジの言葉に乗る。


「そうか……ならば、仕方あるまい。通れ」

 門番はしぶしぶと道を開けた。一行は城内に入った。


「ふざけた野郎だとばかり思ってたが、今回ばかりは助かった」

 マックスは助け舟を出してくれたヘッジを褒めた。

「褒められちゃった! 言い方が引っかかるけど!」


「エメラーダ様のお部屋は、こちらになります」

 使用人は一同を部屋の中に入れた。マックスは、エメラーダを寝台の上に寝かせる。


 あとから、男が二人、エメラーダの部屋の中に入ってきた。


 一人は、金髪の青年で、背が高いということもあり、洗練された印象を与える。

 もうひとりは銀髪の壮年の男だ。しっかりとした体躯を持ち、年齢を感じさせなかった。


「話は聞かせていただきました。エメラーダをここまで連れてきていただき、ありがとうございます」

 金髪の青年が深々と頭を下げた。


「誰だ? こいつら」

 マックスはロビンに尋ねた。


「金髪の方がファビオ。エメラーダのお兄さんだ。銀髪の方がロベルト。エメラーダのお父さんで、この人がソーディアン侯爵だよ」

 ロビンはマックスに耳打ちするように囁いた。


 すると、エメラーダの目が見開き、ガバッと身体を起こした。部屋の中にいたものは、一斉にエメラーダの方を見る。


「あああああぁぁぁ!!!」

 叫び声と共に、エメラーダは寝台を抜け出そうとした。マックスがそれを押さえつける。


「離せぇぇ! 怪物があぁぁぁ!!」

 エメラーダは、マックスに押さえつけられて身動きが取れない。それでも、手足をじたばたさせていた。


「なんか縛るの持ってこい!」

「エメラーダを縛り付ける気か?!」

 エメラーダを縛ろうとするマックスに対し、ロベルトは怒鳴りつけた。


「父上。今朝からエメラーダの様子がおかしいのです。無事に帰ってこられたからよいものを、もしかしたら、また抜け出すかもしれません。拘束はやむを得ないでしょう」

 ファビオは冷静な口調でロベルトに言った。


「ううむ……」

 ロベルトは渋い顔をする。


「縄を持ってまいりました」

 部屋に、縄を持った使用人が入ってきた。マックスはその縄を使い、ベッドにエメラーダの手首を縛りつける。


「このような事をさせてしまい、申し訳ありません」

 ファビオは再度、頭を下げた。


「……あなた方は見たところ、旅の方とお見受する。お礼と言ってはなんだが、少しの間、我が家でお休みになってはどうだろうか」

 ロベルトが提案した。


「そいつは助かった。では、お言葉に甘えさせていただくとするか」

 マックスは即答した。


「では、我々は出るとしよう……窓とドアをしっかりと施錠するんだ」

 皆が部屋を出る時、ロベルトは使用人に施錠を徹底するように使用人に言いつけた。


「はー、やっとゆっくり出来るぜ」

 マックスは、案内された部屋にあるベッドに横になった。


「……これから、どうするの?」

 ロビンはマックスに尋ねる。そんなロビンを、マックスは睨みつけた。

「なんでお前がここにいるんだ」


 ロビンはマックスに凄まれ、萎縮してしまった。

「だって……エメラーダのところにいられないし……」

 ロビンは涙目になったが、マックスはそっぽをむいた。


 昼間は話しかけてくれたが、今はつっけんどんになっている。結局のところ利害関係はあれど、親しくなりたいとは思っていないということだ。ロビンは泣きそうになった。


「あ、蒼き剣、だ。ここに持ってきたんだね……」

 ふと、ロビンは部屋の片隅に立て掛けてある蒼き剣が目に入った。


「そういえば、蒼き剣はなんでここにあるの?」

 ロビンは気になったので、マックスに尋ねる。マックスは大きく口を開け、あくびをした。


「真面目な話なんだけど」

「うるせぇな。俺は早く寝たいんだよ」

 疲れからだろうか。マックスは不機嫌になっていた。


「なんも言われなかったから、俺が持つことにしたんだよ。馬鹿正直に『蒼き剣はここにあります』って言った方がめんどくせぇことになるだろ。俺はもう寝るぞ」


 マックスはベッドに横になると、目を閉じる。寝息を立てているので、すぐに眠りに入ったようだ。


「……もっと話したかったんだけど……色々あったから、疲れてるのはわかるけど……」

 頭ではわかっているが、内心モヤモヤしているロビンであった。


 ロビンは今一度、蒼き剣に目を向けた。今度は蒼き剣を食い入るように見つめている。


 蒼き剣は、世界を救う剣ではなく、世界を滅ぼす剣ではないか――ロビンはそう思った。

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