第37話 氷薬②
仲間たちのサポートのおかげで、エメラーダは、グライスの猛攻を切り抜けることができた。
「皆様、本当にありがとうございます……」
礼を言ったあと、前方を見据える。ヌイグルミが地響きを立てながら、歩き回っていた。
エメラーダは、短剣になっている蒼き剣を取り出す。剣は光を放つと、元の長さに戻った。
「ロビン! いきますよ」
エメラーダは、蒼き剣を掲げる。剣から放たれた光が、背中を纏う。纏った光は、蝶の羽根になる。
「はぁあああ!」
エメラーダは己に喝を入れると、ヌイグルミに向かって駆け出した。走った勢いで一跳びすると、背中の羽根を羽ばたかせる。エメラーダは、空高く飛び上がった。
ヌイグルミは、エメラーダの存在を認めると、腕を振り回した。叩き落とそうとしているのだ。
猛攻をエメラーダはスレスレのところで掻い潜る。
「やぁああああ!」
掛け声とともに、頭上に斬撃を与える。ヌイグルミに、縦に切れ込みが入る。切れ込みは、そのまま縦方向に入っていく。下の方まで届くと、ヌイグルミは真っ二つになった。
そのままエメラーダは地面に降りる。
着地してして体勢を整えた後、エメラーダは真っ二つにしたヌイグルミに目を向けた。
特に物を破壊しているでもない。ましてや、生物に危害を加えたりするようなことはしない。ただ、歩き回っていただけだ。
けれども、その規格外の巨体故に、いるだけで危険を及ぼす存在になってしまったヌイグルミのことを。
――ヌイグルミだって好きで暴れたわけじゃないでしょ。本当はアナセマスに帰りたかったんじゃないの。――エメラーダはかつて、ロビンが言っていたことをを思い返していた。
「エメラーダちゃーん。だいじょうぶー?」
ヘッジが、エメラーダの元に駆け寄ってきた。マックスらも、あとから続く。
「ヘッジさんも、ご無事でなによりです。私は大丈夫です」
エメラーダは、ヘッジに無事であることをアピールした。
「一体全体、どういうことだ。あのデカブツが、真っ二つになるとは」
マーリンがヌイグルミの元に来る。ヌイグルミは、頭の方から綺麗に二分割されている。断面は、白く、ふわふわだ。
「こやつもまた、奇妙奇天烈だな。内蔵はともかく、骨が見当たらん。なにより、血が出ていない。この白いふわふわは、綿か?」
マーリンは、ヌイグルミの死骸を観察していた。
「そういえば、ゴーレムという生物の名を聞いたことがある。体が石でできておるそうだ。こやつも、ゴーレムの仲間なのか?」
マーリンは、マックスに話を降った。
「だから俺にそういう話をするな」
マックスはうんざりした様子で返す。
「それと、もうひとつ。そなたはどうやって、あのデカブツを真っ二つにしたのだ」
マーリンは、エメラーダの方を向いた。
「それはですね……」
エメラーダは、短剣に戻った蒼き剣を見せる。
「これは……」
マーリンは目の前に出された蒼き剣に、顔を寄せる。
「ご存知ですか?」
「いや、これも初めてだ。これはなんだ?」
エメラーダは、蒼き剣のことを説明した。
「妙な植物に、巨大生物。そして摩訶不思議としか言いようがない蒼き剣。やはり……」
マーリンは考え込んだ。それとともに、顔は深刻な面持ちになる。
「そんなことより。ヌイグルミも倒したんだ。とっとと城に戻ろうぜ」
マックスは、ドラフォン城に向かって歩き出した。
「は、はい。ヌイグルミを倒したことも、報告せねばなりませんしね。お話は、歩きながらでもよろしいでしょうか?」
エメラーダは、マーリンにことわりを入れる。
「確かに、こんなところで油を売っても仕方がない。急ごう」
マーリンもマックスの後に続く。一同は、ドラフォン城に戻った。
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