宵暁皇紀〜双子の皇女は抗えぬ恋をする
三木桜
序章 白夜
青紺の空を
その雄々しき姿を仰いで、
とても美しい空だと思った。この空をあんなに自由に飛ぶのは、きっと感じた事のない清々しさなのだろうと、箱庭に佇む小夜は只々その鳶を
「ここにおられたのですね、母上」
「――
ふと地上に視線を戻すと、小夜のすぐ側に凛々しい顔つきの青年が立っていた。その大きな瞳にあどけなさを残しつつも、もうすっかり大人の顔つきと体格となった我が息子。いつの間にか背も追い越されて、もうここ数年は小夜が見上げる立場だ。
「もうすぐ式の準備が始まるからと、女官たちが探していました」
「ああ、そうでしたわね。行きましょうか」
今日は陽仁の大切な儀礼の日。
「珍しいですね、母上がお庭に出るなんて。何を見ていたのですか?」
「鳶を見ていました」
鳶は遥か彼方へと飛び去ってしまったが、まだ少しその雄姿が向こうに見える。
「……懐かしいわ。貴方の御父上が成年の儀を執り行った日も、こんな雲一つない快晴でした」
「御父上――陛下の成年の儀ですか?」
小夜は頷くと、当時の事を思い出してクスクスと声を立てた。
「あの日は色んな事がありました。私が儀式の当日に皆の目を盗んで宮廷を抜け出して」
「母上が?」
陽仁は目を丸くした。
「ええ。私だけでなく、陛下――貴方の御父上も」
「陛下も?」
ますます
「そうですよ。母が幼い頃です。私と、陛下と――
「れい?」
「……私の双子の妹。貴方の叔母上にあたる人です」
黎。その名前を紡いだ瞬間、随分奥深くにしまい込んでいた記憶が解き放たれた。黒く
陽仁は黎の名前を聞いて深く眉を寄せた。
「叔母上は確か、皇籍離脱なされた方、でしたよね?」
「正しくは、離脱ではなく
「はい。叔母上は若い頃、共産主義者と共謀し国家の転覆を
陽仁は半信半疑で難しい顔をしていた。確かに、話に聞くだけでは到底信じられない事ではある。皇籍に連なる人間が国を裏切ろうとするなんて。でも、
「本当の事ですよ。貴方が生まれる直前、彼女は私や陛下、そして民を
その答えに陽仁は少なからずショックを受けたようだった。
「彼女のお話はこの皇居では禁止ですからね。侍従長や内大臣の前ではなさらないように。渋い顔をされますから」
「はい……」
陽仁は素直にうなずいたが、まだ何かを言いたげな顔をしていた。ここには小夜と陽仁の二人だけだ。この広大な
だから小夜は、この庭を抜けるまでの間だけ内緒話をしようと思った。
「……黎はね、とても優しかったのです。穏やかで包容力があって、誰よりも気高く、この国を
「母上……?」
「私たちは瓜二つの双子で、でも黎は、私に無いものを沢山持っていた。憧れだった」
ピィーと、鳶の鳴き声が空に響き渡った。小夜は今一度空を見上げる。再び舞い戻ってきた
「たとえ国民全員があの子を反逆者と
目を閉じると、あの幼い日の事が昨日の事のように感じられる。まだ何も知らなかった無垢な時代を思い出す。
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