第八話 ダージャオ族の少年②
◆
テルネシア大陸の内陸部。大陸東部の
けれどもその平穏はある日突然壊された。
事の発端は亜州の大国、西華で革命が起こった事。革命ののち西華は帝政から共和政に移行したものの、立ち上がった新政権は安定せず各地で紛争を起こし、やがて
星輝の村も標的にされ一夜にして滅ぼされた。村を襲ったのはトライベインの支援を受けていた
幼かった星輝は何も出来ぬまま父や母、兄や姉に守られた。最初に祖父と父が物置にしまってあった猟銃を手に飛び出して行って、それから村の中心で怒号と銃声がして騒がしくなった。母の判断は迅速で、祖母と兄夫婦に姉と星輝を連れて逃げるように命じた。
「大丈夫、大丈夫よ。星輝」
母は最後に星輝の頬を愛おし気に撫で、その手首に母はスカーフを巻いてくれた。母が
それから姉に引きずられて家を出た。その時たぶん星輝は泣きわめいていた。星輝の側に祖母と兄とその奥さん、それから年の近い従妹がいた気はするが、村を抜け出した頃には近くには姉の姿しか見当たらなかった。
「大丈夫よ、シン。私がついてる」
姉は何度も星輝の頬を撫でてくれた。それは母が最後に星輝にしてくれた仕草と一緒で、姉自身が恐怖を
だが、ある村で郭軍が星輝たちを見つけた。一人の兵士がダージャオ族を
「あんたはここに隠れていなさい」
宿の裏手のゴミ捨て場に星輝を押し込むと、姉は愛おしそうに星輝の頭を撫でた。
「大丈夫、大丈夫よ。星輝」
それは最後に見た母と同じ表情と仕草。姉はもう戻ってこない事はわかっていた。
――置いていかないで。
星輝は必死に叫ぼうとした。でも、怖くて声が出なかった。遠ざかる姉の背中に
星輝は動けなかった。恐ろしかった。あの怖い黒づくめの連中に連れて行かれる事が何より怖くて。
姉を助けなければいけないのに、星輝は自分の身が危険に晒される事が怖くて。
――姉を見殺しにした。
それからしばらく星輝はごみ溜めの中から動けなかった。悪臭や
それでいいのかもしれない。自分は大好きな姉を見捨てた。姉だけでなく、父も母も祖父母も、兄も、叔母も従妹も。
生きる価値なんてない。そう思った、矢先の事。
突然腕を掴まれて星輝は暗いごみ溜めから引き上げられた。悲鳴を上げる事すら出来ず星輝は首根っこを引っ掴まれて宙に吊るされる。
「おいおい、随分でけぇ粗大ゴミだな」
最初は自分を捕まえに来た兵だと思って恐怖に身体が
「へぇ、こいつは
無機質な兵とは違う、
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