第28話 再びの邂逅(1)

「さて、キールの奴いるかな?」


 翌日昼。

 再びギギアル山に登りキールと戦った場所に赴いた俺たちは、すべての元凶となっている堕落魔アンチを捜した。


「パルフィ、なんか怪しげな場所あるか?」


 前回も隠れていた相手を見つけたのはパルフィだった。

 能力なのか勘がいいのか知らないが、今回もキールの居所を探り当ててくれる気がして聞いてみた。


「ここの近くに変な所はないよ。でも火口近くが変な感じする」


 山のさらに上を差す指を追って俺も山頂を見上げる。

 パルフィの言うような変な感じは一切わからないが、勘を信じるなら火口を探索してみるのがいいだろう。


「これくらいの距離なら走って行きましょ」


 この高さまで来る道程も軽く走って登ったが、山頂は二百メートル程先に見える。

 走ればものの一、二分でたどり着けるだろう。

 先行するレナに従い俺とパルフィも走り出すと、景色をどんどん背中に追いやりすぐに頂上が見えてくる。

 火口にキールがいればいいが、いなければ捜すところから始めなくてはいけない。

 事態を収拾するためにも山頂にいて欲しいと願いながら走り──


「──ッ!? ゼノ、避けて!」


 山頂まであと少しの所で急制動をかけたパルフィが、俺に向かって警告を発した。

 直後、


「うおっ!」


 俺の眼前を影の槍が通り過ぎ、山肌に突き刺さった。


「あっぶねー」


 俺の心臓がバクバクと激しい鼓動を奏で始めるら。

 今の声かけがなかったら確実に横腹に直撃していただろう。


「くっそ当たらなかったっす」


 影の飛んできた方向に視線を送ると、何も無い場所に水溜まりのように不自然に存在する丸い影が目に入った。


「レイ・ピアース」


 パルフィが影に向けて雷を落とす。

 しかし予見していたように影からキールが飛び出すと、華麗に地面に着地してピースサインを送ってきた。


「さすがに二度目は当たらないっす」

「コールド・バレット」

「うわったたたっ!」


 続けざまにレナが氷の散弾を放つと、キールは右往左往しながらギリギリで避け切る。


「ちょっと何するっすか! いきなり攻撃してくるなんて卑怯っす!」

「自分が何してきたか顧みてから言おうか」


 自分のことを棚に上げて文句をつけてくるキールに、俺は呆れながら溜め息をつく。

 どうしてキールって奴は他人のことばっかり指摘して自分のことには気づかないのか……


「人が頑張って人間の負の感情を集めて階級を上げようとしてるのに、邪魔しないで欲しいっす」


 〝仕事を妨害するな〟と言うように頬を膨らませる堕落魔アンチに、俺はビシッと指を差し宣言した。


「それが迷惑だってんだよ。これ以上悪さしようってんなら、田舎に帰りたくなるまで痛めつけるからな」


 堕落魔アンチを殺さずに悪行を辞めさせる手段。

 考えた末に導き出したのは、泣いて謝るまで反省させることだった。

 堕落魔アンチ爆笑神おわらいと同じように人間の負の感情を集めなければ生きていけないわけではない。

 高みを目指すことを諦めさせればいいだけ。

 それならば悪行を働くことを後悔して辞めるまで、おしおきしようという結論になった。


「そ、そんな脅しに屈しないっすよ!」


 痛めつけるという単語が出た途端、ガクガクと足と声を震わせ始めたキールを俺は鼻で笑う。

 やっていることがセコいだけでなく、苦境にもビビる程度の覚悟しかないなら、四級神になったいま相手を恐れる必要はなくなった。


「最高魔を目指してる男がこの程度でビビって情けない」

「男ならドンと吹っ飛ばされる覚悟するの」

「吹っ飛ばされること確定っすか!?」


 女神たちから男気を見せろと指摘されキールは目を見開く。

 敵対している割にはノリのいい奴ではある。

 堕落魔アンチにしておくのが惜しい男ではあった。


「そもそもなんで最高魔になんてなりてぇんだよ?」


 動機がわかれば悪事を止めさせることができるかもしれない。

 結果を断つには原因からと俺が尋ねると、キールは鼻をフンと鳴らしながら言いのけた。


「そんなの決まってるっす! 最高魔になればハーレムも夢じゃないっす! 物語の主人公みたいに女の子を連れ回してウハウハしたいっす!」

「男ってバカね……」


 欲望に忠実で典型的な願望に、レナは蔑むようなジト目を向ける。

 男たるもの一度はハーレムに憧れる気持ちはわかるが、それを本気で目標としているのを客観的に聞くと物凄く滑稽に思えた。


「って、よく考えたらお前ハーレムじゃないっすか! ズルいっす! 羨ましいっす!」

「初対面で道に落ちてた奴と毒入り果実食ってた奴にときめいたりしねぇよ」


 子供のように地団駄を踏むキールに、俺は頭を掻きながら数日前を思い返す。

 はたから見ればレナは美人だしパルフィは可愛いので両手に花と言えないこともないが、二人の性格を知っている身としてはどうにも賛同しかねた。


「羨まけしからん奴は倒してやるっす!」

「私情挟みすぎだろ」


 理不尽な理由を述べて戦闘態勢を取るキールに、俺もハリセンを構えて応戦する意思を見せた。

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