第43話 交差する神と魔(1)
「行くっすよ!」
格上の余裕か手に影の剣を生み出すと、真正面から突っ込んでくる。
そんな相手に俺は黒剣を握る手に力を入れると、キールはフッと笑いながら火花を散らして黒と黒を噛み合わせた。
「くっ……重い……」
以前とは比べ物にならないほど重みのある一撃に、俺は思わず声を漏らす。
筋力が増したわけではないが、今までより強く
ジリジリと押されていく黒剣に、俺の顔から自信の気力は削られていく。
「ハハッ、気持ちいいっすね」
反対に愉悦の声を出し興奮しているキールは、調子に乗ってさらに影剣に力を注ぐ。
すると俺の腕は痺れ始め、耐えきれなくなった地面が徐々に陥没し始めた。
このままでは押し負ける。
そう思い俺が打開策を巡らせようとしていると。
「私達のこと忘れてるんじゃないわよ!」
レナが鍋のフタをブン回しながら突進してくると、キールはフッと笑いながら大きく飛び退き、近くの民家の屋根からこちらを見下ろした。
「じゃあ次はこういうのはどうっすか? コア・ジール」
お返しとばかりにキールは特大サイズの火炎球を放つ。
「ちょっとデカ──キャァ!」
そのあまりに巨大さにレナは慌てて鍋のフタを構えるが、衝突した瞬間炸裂した爆風で吹き飛ばされ、俺と一緒に民家を突き破りながら転がった。
「痛って……レナ、大丈夫そうか?」
「大丈夫だけど、家メチャクチャにしちゃったわね」
木のテーブルや椅子がバラバラに砕け、壁も崩れ落ちてしまった家を見てレナはなんとか立ち上がる。
「
同じ術でも以前は片手を伸ばしたくらいのサイズだったはずだが、さっきは大人の体ほどの大きさがあった。
破壊力も増しており、視界の先に見える民家は何軒も壁や窓が破壊され、爆発に一番近かった家からは火の手まで上がっていた。
「どうすんの。周りに被害出さないように戦うなんて無理よ」
互いに四級のままであれば被害を最小限に留めることもできたかもしれないが、同じ術であれだけ威力の格差があった。
人も建物もない場所に戦いの場を移せればいいが、さすがのキールでもそんな魂胆を覗かせれば逆に街そのものを引き換えにされかねない。
避難は人間たちに任せつつ、建物は諦めて人的被害だけを抑えながらやると覚悟を決めるべきだろう。
「気が咎めるけど仕方ねぇ。最悪、人間だけ守れればいい」
命があればいくらでも建物も街も再興できる。
心苦しさはあるが三級魔相手に四の五の言っていられない。
何かあれば責任を取る気概で俺はバッと崩れた家を飛び出した。
「パルフィ!」
大通りに戻り最初に目に入ったのは、ドーム状になった影が何かを押し潰そうとしている光景。
状況から考えてバリアを張ったパルフィを影で襲っているとしか思えない様子に、俺は叫んで犯人を見上げた。
「仲間をいたぶってるんじゃねぇぞ!」
地面をガッと蹴り上げ一気に跳ぶと、民家の屋根の上にいたキールに肉薄し、思いっきり息を吸い込み屋根を踏み締め割り砕きながら、斬り抜くように黒剣を一閃する。
田舎に帰らせるという穏便な形で済まそうと思っていたが、ここまでの事態になってしまったのならやむを得ない。
後で大勢の犠牲を出して後悔するより、何がなんでも今ここで止める。
その一心で振り抜いた黒剣だったが。
「なっ……」
確実に上下に分かたれたと思ったキールの体が霧のように空気に溶けると、次の瞬間にはドーム状の影の横に立っていた。
「偽者!?」
「陽炎っす。影を使ってるから影炎っすかね。見た目は本物と変わらないから見事に引っかかったっすね」
してやったりと得意顔で見上げてくるキールに、俺は黒剣を握る手に血管を浮かせる。
今までとは比べ物にならないほどの力もそうだが、見たことのない技まで駆使してきた。
まるで思考力まで向上したかのような攻防は別人と見間違えそうだ。
「パルフィを救出しないと」
今も影が半球状に地面を覆っている。
まだバリアは破られてはいないようだが、それも時間の問題。
俺は再び飛びかかろうと足にグッと力を入れると。
「おっと。危ないっす」
声で相手の位置を割り出したのか、キールの頭上に巨大なハンマーが出現すると、害虫を叩き潰すがごとき勢いで地面を打った。
「真っ暗で怖かったの……」
周囲を覆っていた影が消え急いでレナの横に移動したパルフィが、仲間の背中に隠れるようにしながら顔だけを出して襲った相手を見た。
「私の可愛いパルフィを怖がらせた罪。重いわよ」
本当に怒っているのかピリピリとした空気を周囲に放ちながら、レナはキッと相手を睨み据える。
妹のように大切にしている仲間に恐怖を与えた行い万死に値すると、瞳にメラメラと炎を燃やしていた。
「セイバー・スラッシュ!」
パルフィのお返しとばかりに、レナが水の刃を放つ。
それをキールは余裕のバク宙で避けるが。
「セイバー・スラッシュ! セイバー・スラッシュ! セイバー・スラッシュ!!」
レナはこめかみの血管をブチッと切れさせると、怒りをぶちまけるようにいくつもの水刃を無差別に放ち始めた。
「ちょっとやめるっす!」
近くにあった家まで切り刻むレナに、キールは制止の声をかけるが聞く耳持たず。
炎によって燃えていた家が両断され、ガラガラと崩れる中を
「女神のくせに凶暴すぎるっすよ! どういう教育受けてきたっすか!」
パワーアップして見下してきていたときの態度もなんのその、いつもの調子のキールの姿に俺はフッと肩の力が抜ける。
力を得ても人間性まで変わるわけではない。
気が大きくなって一時的に冴えた動きを見せていただけで、メッキが剥がれればなんてことはなかった。
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