第14話 悪魔の証明(2)
「俺はまだ四級魔だけど、将来は立派な魔王になるっす。だから人間の負の感情を集めるのを止めるつもりはないっす」
断固拒否するという態度で、キールは腕を組み首を振る。
階級が上がるごとに内包する力も上がる。
キールが本当に四級魔なのであれば五級神である俺たち三人がかりでも、甘く見てれば苦戦する可能性があるな。
「どうやら戦うしかないみたいね」
レナは鍋のフタを手に持ち、いつでも対処できるように構える。
初めて出会ったときは戦う前に逃走されたので実力はまったくわからなかったが、まともな戦闘となれば果たして。
「今までコツコツと溜めてきた
気合いを入れるようにキールが拳を握ってガッツポーズを取ると、腰の短剣を抜き放ちダッシュで俺に迫ってきた。
「
言っていることとやっていることがズレた相手の言動に、俺はツッコミを入れつつもハリセンで応戦する。
すると紙で出来ているそれは金属の短剣をまともに弾いた。
「やるっすね。じゃあこれならどうっすか? コア・ジール」
「──バカッ!?」
攻撃を防がれた直後、ニヤッと白い歯を見せたキールが目の前に炎球を生み出し放つ。
それを慌ててハリセンで叩くと、暴発するように破裂し盛大に炎が飛び散った。
「あっちぃ!」
「おいっ! 至近距離でぶっ放すんじゃねぇよ!」
発動させた本人も巻き込みつつ炎を撒き散らした
まさか爆発系の術を至近距離で撃ってくるとは思いもしなかった。
話す言葉だけでなく、戦闘までバカ丸出しな行動をするキールは、別の意味で侮れないことが文字通り身に染みた。
「想像以上のバカね。攻撃ってのはこうやるのよ」
キールが迫ってきたときにすかさず離れ、攻防を見守っていたレナが大きく息を吸い込むと、力強い声で美しい旋律を喉から奏で始めた。
「なっなんっすかぁぁぁぁああ!」
するとレナの歌声から衝撃波が発生しキールの周囲を巻き込むように広がると、その体を軽々と吹っ飛ばして山肌をゴロゴロと転がした。
「お前のウタ、便利だな」
「もっと褒めてもいいわよっ」
感心する俺にレナは得意げに胸を反らす。
レナは〝ウタネタ〟の固有能力によって様々な現象を起こすことができるらしい。しかも
「寄ってたかって三人でズルイっすよ」
なんとか凌いだのか、キールは急ぎ戻ってくると文句をつけ始める。
体は土で薄汚れているが、ダメージらしいダメージを負った様子はなかった。
「私、まだ何もしてないよ?」
「俺も別に攻撃はしてねぇよ?」
パルフィと俺が手のひらを振って否定するが、
「言い訳は結構っす。これでも喰らうっす!」
キールは聞く耳を持たずに左手を前へかざすと、キールの下にあった影からいくつもの黒い刃が飛び出し、俺たちに向かって直進してきた。
「喰らうかよ!」
それを見て俺は不敵に笑うと自身の影から壁状の闇を作り出し、飛んできた刃をすべて防いだ。
「なっ……なんで俺と同じ能力が使えるっすか!?」
自分だけの特権だと思っていた影の力を使われ、キールは驚き目を見開く。
「これが俺の能力〝モノマネ〟だ」
そんな
最初は上位悪魔に苦戦するかと思ったが、相手の思考回路がズレているお陰か、対処できないことはない。
レナの〝ウタネタ〟、ピコピコハンマーを生み出したようなパルフィの〝モノボケ〟能力も上手く使いつつ、冷静ささえ欠かなければ制圧することも可能に思えた。
「なんかめちゃくちゃ悔しいっす!」
攻撃を防がれ能力までマネされて、頭に血が上ったように地団駄を踏む。
よほど自分の能力に自信があったのだろう。
それにも関わらず攻撃が通らなかったことに、イラつきを隠せないようだった。
「四級魔って言っても大したことないな」
相手の冷静さを奪えれば戦いはもっとやりやすくなる。
そう思い、俺はキールを挑発するように鼻で嘲笑った。
「ひ、人のことバカにするなっす!」
「バカにする程度の実力しかないから呆れてるんだよ」
肩にパンパンとハリセンを当て退屈しているような仕草を見せる俺に、キールは顔を真っ赤にして怒った。
「ぐぬぬ……そんなにバカにするなら、これならどうっすか!」
そう言って両手を前方へと向け地面に生まれ落ちた手の影を這うように伸ばすと、影は輪になって俺たちの周囲をグルリと取り囲んだ。
「なんだ!?」
広がった影に俺は急いでハリセンを構え、影から矢が飛び出ても、縮まって拘束しにきても対処できるよう全身に力を入れた。
直後、
「邪魔者は遠くに消えるっす!」
キールが高らかに叫び、輪っかだった影が中を埋めるように円形に変わると、俺達の足元に一瞬で大きな黒い穴が広がった。
「うおっ!」「嘘でしょ!?」「わぁっ!」
瞬間、地面が消失したように俺たち三人は自由落下を始め、影の穴の中に落ちていく。
慌てて落とし穴の壁に腕をめり込ませて落下を止めようと試みる。
だが岩壁のあるはずの所には何もなく、腕は宙を掠めただけに留まった。
「せいぜい頑張って戻ってくるっすね!」
「てめぇ覚えてろよ!」
穴の上から俺たちを見下ろすキールに、俺の負け惜しみの声は暗い穴の中に反響しながら消えていき。
視界が真っ暗になった次の瞬間、落ちていたはずなのに急に浮上する感覚が体を襲ったかと思うと、影から吐き出されるように放り出された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます