第15話 悪魔の証明(3)

「ここは……」


 地面に尻もちをつく形で転がった俺が頭を上げると、視界に入ったのは白い建物の壁と明るい空だった。

 殺伐としてマグマの熱と風の音しかなかった火口とは違い、所せましと建物が並び、大人や子供が行き交う姿が多く目に留まる。

 どこかの大通りなのか歩いていた人間たちが、突然現れた俺たちを見てギョッとして立ち止まっていた。


「ここって……クイナシティじゃない?」


 レナが指を差した先に視線を移すと見覚えのある時計塔と巨大な城が、建物の向こうにそびえ立っているのが目に入った。


「影で街まで強制的に移動させられたってことか」


 永遠に落ち続ける落とし穴などでなかったのは不幸中の幸いだ。

 相手の能力によってはどんなことが起きるかわかったものではない。

 ひとまず三人とも無事でいることに安堵しつつ、俺は服についた埃を払いながら立ち上がった。


「どうする? このままキールの所に戻る?」


 ふりだしに送り返されたお礼と依頼の達成を兼ねて、レナは元凶となっている堕落魔アンチに意趣返しに行くことを立案する。


「いや。このまま行ってまた影に落とされて、今度はマグマで満たされてる火口にでも出されたら確実に死ぬからな。再戦するとしても何かしらの対策を立ててからだな」


 仮に火口に落とされなかったとしても、また別の場所に飛ばされては堂々巡りになる。

 せめて落とし穴対策を講じてから対峙するのが賢明だ。


「でも、突然現れる落とし穴を避け続けるなんて難しいわよ」

「空でも飛べればなんとでもなるんだけどな」


 戦闘になった場合、相手を警戒しながら足元にも常に注意を払い続けるのは厳しい。

 ちょっとのミスであっさりと戦線離脱させられてしまうだろう。

 それに対処する手段がどうしても必要だった。


「親父に聞けば何かわかるかもね。親父、来て」


 わからないことがあれば知ってる奴に聞けばいいと、気楽に最高神を呼び出す女神に俺はツッコむ暇すらなく。


「はいはーい。なんだいレナちゃん」


 まるで隣にいたかのように瞬時に最高神アラルが現れた。


「なんだいって、どうせ話も聞いてたんでしょ? 結論だけ教えなさいよ」

「それってもうストーカーレベルだな」


 面倒くさそうに尋ねるレナの言葉に、俺は呆れた感想を漏らす。

 一方それを気にもせず、アラルは〝お父さんに任せなさい〟と言うように意気揚々と答えた。


「神に階級があるのは知ってるだろ?」

「そんな基礎中の基礎の話はすっ飛ばして、どうすればいいかだけ教えなさいよ」

「物事には順序ってのがあるんだけどなぁ」


 素っ気ない一言にアラルは寂しそうに肩を落とす。

 しかし娘の言葉は絶対なのか、フッと息を吐くと結論を告げた。


「空を飛びたいなら四級神になればいいよ」

「四級神になると、空飛べる?」

「そうだね。神は階級が上がる毎に使える力が増えていくから。ほらっ」


 パルフィの疑問に答えるように、アラルはフワッと体を宙に浮かせて見せた。


「お空を飛ぶと気持ちよさそう」

「あの堕落魔アンチに対抗するなら、四級神になるのが最適だろうね。力も増すから戦いやすくなるはずだよ」


 地面にスタッと着地しさりげなく戦闘も監視していたと告げたアラルに、俺は一瞬ブルッと寒気を感じつつ尋ねた。


「四級神ってそんなすぐ成れるもんなのか?」

「五級から四級は、神力ジンを高めれば君たちでも割とすぐになれるよ」

「ってことは、どっかでお笑いライブやって人間たちを笑わせる必要があるな」


 アラルの後押しに俺は積極的に四級神になることを考え始める。

 空を飛べれば影穴に落とされる心配も無くなるし、力が増せばキールの攻撃にも対処しやすくなる。

 俺は視線で二人に同意を求めると、


冒険えいぎょうではなく、お笑いトリオとしての営業初舞台、いいわね」

「私もお空飛びたーい」


 レナとパルフィも表情を輝かせ、前向きに取り組む姿勢を表明した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る