第16話 悪魔の証明(4)

「そうと決まれば、街に戻ってお笑いライブやれる場所探すぞ」


 次にやることが決まり、俺は人前での初舞台に気分を高揚させる。

 今までは養成所で同級生相手にネタの披露しかしていな……相方が吹っ飛ぶせいでネタ見せすらできていなかったのだ。

 人前でちゃんとしたお笑いネタが見せられることにワクワクするのは当然といえよう。


「ネタ披露ってやったことないよ?」

「それはネタ作って練習しておけば大丈夫だ」

「何かあれば全部ゼノのせいにするから問題ないわよ」

「人のせいにすんなよッ! ってか、上手く行かなかったら四級神になれねぇんだから、しっかりやれよ」


 不安を煽る女神たちに俺は鼻息荒く発破をかけるとアラルに向き直った。


「教えていただき、ありがとうございます」


 ストーカー気質な最高神ではあるけども、先輩へのお礼はちゃんとしておこうと丁寧に言葉をつづる。


「堅苦しい礼なんていらないよ。うちの娘と組んでもらってるんだ、私のことはお父さんだと思って──」「それはお断りしますッ!」


 まるでレナと婚約しているかのような物言いに、俺は全力で手のひらを横に振って拒絶する。

 優しさに感動しそうになったが、とんでもない地雷を投げ込んでくるクソ最高神の頭に、思わずハリセンを叩き込みそうになるのをグッと堪えた。


「いい返事だ。それでこそ期待のし甲斐もあるというものだよ」


 なぜか満足そうにウンウンと頷くアラルに、レナはハァと溜め息を吐く。


「どうせなら親父が私たちにいろいろレクチャーしてよ」

「それをやったら君たちの成長に繋がらないだろ? 最高神を目指すなら自分たちで努力しないと」

「……わかったわよ。ネタも自分たちで作ってやってみるわ」


 娘にゾッコンの割にまともなことを言うアラルに、俺はへぇーと感心を寄せる。

 レナの動向を随時チェックするほどの父親なら娘に激甘かと思われたが、ちゃんと本人の成長を促す思考も持ち合わせているようだ。


「あっでも、人間たちがネタを見て笑わなかったら強制的に笑わせるから安心して」

「最高神が人間操ろうとしてんじゃねぇよッ!」


 前言撤回。

 どこまでも親バカなアラルに、俺は力の限り吠えた。


「ハハハッ。ボケに決まってるじゃないかー嫌だなー」

「じゃあなんで棒読みなんですかねぇ」


 たどたどしい返しに俺はジト目でアラルを見つめる。

 なんでもできると言われている最高神のチートで四級神にされては、爆笑神おわらいとしても面白みも何もない。


「まっ冗談はさておき、君たちのことは手は貸さないけど陰ながら応援してるから。ガンバってね」


 そう言ってアラルはウインクをして親指を立てると、現れたときと同じように一瞬で消え去った。


「娘にはいつでも手を出していいからねぇ」

「出すかよッ!」


 声だけ空気に響かせてとんでもないことを許可するアラルに、俺は無意味だとわかりつつ叫ぶ。

 どこまでが冗談かわからない守笑神ボケの相手は疲れる……

 俺は頭をポリポリと搔きながら、二人の女神へと振り返った。


「さて、やるべきことは決まったし宿でも取るか」

「ネタ作って練習もしなきゃね」

「その前にご飯食べたーい」

「そうだな。腹が減ってはなんとやらってやつだな。景気づけにパーッとやるか」

「そうね。ゼノの財布の中身を二人で空っぽにしましょ」

「ちょおいっ、どんだけ食うつもりだよ」

「お店の食材が無くなるまでー」

「勘弁してくれー」


 イタズラっぽい笑みを浮かべるレナと本気で嬉しそうなパルフィに、俺は大げさに頭を抱える。


「あら。景気づけにパーッとやるって言ったのに、男に二言があるの?」

「嘘つくのカッコ悪い」

「お、男に二言はねぇよぉ?」


 視線を泳がせながら意地を張ると、二人の女神は手のひらを互いにパンッと合わせて跳ねた。


「……ライブ成功させて、さらに依頼も達成して稼がねぇとなぁ」


 俺は肩を落とし小声で決意を新たにする。

 ライブは盛況だと多くのおひねりが貰えると聞いている。

 その金と依頼達成の報酬を合わせて足りるか不安に感じつつ、ゆっくりと宿を目指して歩き始めるのだった。

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