第17話 興行主(1)
「まずはステージに立つ手配をしないとな」
宿屋をとり本当に財布がカラになりそうなほどの食事をし、翌日。
俺たちは街をうろつきながら興行師を探していた。
「ネタも考えたし、あとは人間たちの前で披露するだけだものね」
昨晩のうちに三人でネタを考え練習も重ねた。
何度も変な方向にネタを持っていった天然
これなら本番でもイケるだろうとなり、今日はステージを探しに街へ出ていた。
「みんなから笑顔貰って、お金もいっぱい貰うの」
「間違ってねぇけど、言い方がアレだな。ってかほとんど飯代で消えてるんだけどな」
元気いっぱい宣言するパルフィに俺は乾いた笑いを送る。
実際問題、お金はあって困るものではないし、今後も旅を続けていくのだから先立つものはどうしても必要だった。
「どうせならお金もいっぱい貰えるステージがいいわね」
「そうなると大きなステージを仕切ってる興行師がいいな。確か街の中心近くに一番でかいステージがあるって話だったな」
街レベルであれば、お笑いやサーカスなどを行う興行師とステージがあるのが一般的だ。
人間はもちろん、
特に多くの集客が見込めるステージほど実入りが良い。
まずは興行師に話を通して出演交渉をするところからスタートだ。
「ステージってすぐに出られるの?」
「私たちは
パルフィの疑問にレナはあっけらかんとして答える。
人間にもお笑いはいるが、人間より長生きで場数が桁違いな
まだシロウトと大差ない俺たちではあるが、シロウトの人間よりは出演できるチャンスはあるだろう。
「あっ、あそこじゃない?」
街中を歩いてしばらく、中心部へ近づいてくると白く大きな壁の屋根つきの建物が見えてきた。
形は半円形で一軒家を二十個ほどまとめた程度の大きさがある。
イベントステージがある建物にはこういった形の物が多く、誰もが一目で興行用の建物だとわかる造りになっていた。
「誰かいるかー?」
俺たちは建物の入り口をくぐり、人気のない廊下で声をかけてみる。
おそらく開演時間よりだいぶ前なのであろう。
静まり返った室内に俺の声が景気よく反響していった。
そして三十秒ほど待つと、質のいい白シャツに黒いズボンをサスペンダーで留めた、体格のいい一人の男が廊下の奥から現れた。
「おや、神様が私の興行所に何のご用でしょうか?」
低い背に高い声の五十代ぐらいの男は、営業スマイルのような笑みを浮かべて手を揉みながら俺たちの前に立った。
「よく一瞬で神だってわかったわね」
「
軽く驚くレナにルルドは当然と言うように、柔和な笑みを返してきた。
「ここのステージでお笑いライブをやりたいんだが」
単刀直入に俺が用件を伝えると、ルルドはフムと片眉を上げて品定めするように俺たちの顔と体を眺めた。
「失礼ですが、当方への出演料は高いですよ?」
「金取るのかよッ!」
この男大丈夫だろうかと疑心を抱いていたところに金銭を要求され、思わず声が裏返える。
出演して報酬を貰うことはあっても、まさか出演料を要求されるとは夢にも思っていなかった。
「人間であろうと神であろうと当方で初ステージに立つ方には、例外なく出演料を頂戴しております。出演をし好評であればステージ報酬を弾んだり、レギュラー出演の契約を致しますが」
「私たち
「大変申し訳ございませんが、この街一番の人気興行所ですので、ステージの質を担保することは大切なのです。そのため例外なく、初めての方にはその意気込みと失敗したときの補償として、出演料を頂戴しております。ご理解ください」
レナが食い下がるもルルドは深々と頭を下げる。
理屈は通っているが金と人間たちから笑いが欲しい俺たちにとっては、出費は躊躇してしまうには十分な効果を発揮してしまう。
「ちなみに出演料は?」
「どなたも一律で一グループにつき十万コル頂戴しております」
「十万!?」
昨日パルフィに無制限に飯を食べられたときですら、かかった金額は二万だった。
場所にもよるが、十万となれば普通に生活していれば半月は暮らせる。
旅に出たばかりの俺にはさすがに払えない額だった。
「お前ら金持ってるか?」
「パルフィと一緒に行動してる私が金持ちに見えると?」
「すみません、ぜんっぜん見えません……」
「お金は天下の回りもの」
なぜか自慢げに腰に手を当てたレナとなぞの格言を口にしたパルフィに、俺は頭をガクッと下げる。
そうだよなぁ……パルフィと行動を共にしてればそうなるよなぁ……
聞いた自分がバカだったと、声に出さずに反省しつつ俺は顔だけ上げて訴えかけるようにルルドの顔を見つめた。
「お金がないのであれば、例え神様と言えど出演は辞退いただくしか……」
眉根を寄せ申し訳無さそうにするルルドに、俺は腕を組んでウウムとうなる。
他のステージもあるにはあるが、一度にたくさんの金と
何日もかけて小さなステージで数をこなす方向も考えにはあるが、キールにいつまでも火山を噴火させるわけにもいかない。
可能な限り短い期間で四級神になれるならなっておきたかった。
「金銭的なこと以外で、出演させて貰うことってできねぇか?」
「と申しますと?」
「今は正直手持ちがない。だから代わりに何か仕事なり手伝いなりをやるから、出演させてくれねぇかってことだ」
俺の申し出にルルドはアゴに手を当て考える。
これが通らなければ出演するにはお金を用意しなければならなくなる。
願うような気持ちで俺が見守っていると。
「わかりました。一つお願いしたいことがあるので、それを完遂していただけたら出演を許可しますし報酬もお支払いしましょう」
「本当!? やりましょうよ!」
「待て待て。何をやるか聞いてからだろ」
やる気満々のレナに俺は落ち着けと諭す。
条件としては高待遇だが内容によっては受けること自体を断るしかない場合もあり得る。
上手い話には罠がある。
そういう可能性も常に考慮しておく必要があった。
「神々であれば難しいことはありません。今日一日、行われるイベントを守って欲しいのです」
ルルドからの意外な依頼にレナは眉をひそめた。
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