第18話 興行主(2)
「イベントを守るって、何から守るのよ?」
「もちろん。イベントを台無しにしようとしてくる輩からです」
街の興行を邪魔しにくるような暇な輩。
そんなものが世の中に存在するのかと、俺は訝しげに目元を歪めると、ルルドは両手を広げて事の詳細を話し始めた。
「実はここ最近、イベントを行うときに妨害を受けるようになったのです。時には建物の壁を壊され、時にはステージに立っている者にペンキがかけられ。イベントの進行を邪魔する嫌がらせが多発してるのです」
「人のご飯の邪魔するのダメ絶対」
「ご飯じゃねぇけどな」
悩ましそうに眉間にシワを寄せるルルドの説明に、パルフィもプンプンと怒りを露わにする。
怒りの方向性間違ってるけど。
「そんなことするなんて卑怯な奴ね」
「嫌がらせが始まった原因はあるのか?」
何かキッカケがあるはずと俺が尋ねると、ルルドは首を横に振った。
「これといった心当たりは何も。私は真面目にお客様に楽しんでいただけるイベントを開催しているだけなのですが……」
本当に苦労しているように目を伏せる姿に、俺たちは互いに顔を見合わせた。
「今日のイベントを守ったところで嫌がらせは続くだろ?」
「嫌がらせをしている犯人を捕らえるか、止めさせない限りそうなるかと思います」
「だったら俺たちが犯人捕まえてやるよ」
突然の申し出にルルドはハッと視線を上げて俺の顔を見つめた。
「本当ですか!? もし本当に犯人を捕まえていただけたならば、お礼も弾ませていただきます」
冷静さを装っていたのかワラにもすがりたかったように、ルルドは目を見開いて俺に近づき手を握ってきた。
「俺たちも邪魔の入るステージでライブやるのは嫌だからな。心置きなく全力でやりてぇし」
「そうね。初舞台なんだからちゃんと完遂したいわよね」
「お客さんも喜ぶ。私達も嬉しい」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
三人の神からの言葉にルルドは声を微かに湿らせながら深々と頭を下げた。
「そうとなれば犯人を見つける手がかりを探さねぇとな。今まで何が起きたかと被害箇所があれば教えてくれ」
まずはどんなことが起きているのか実際に目で確かめようと、俺はルルドに説明を求めた。
「こちらです」
ルルドは俺たちを建物の外に案内し壁の一角を見せる。
そこには爆発で壊されたような穴の開いた石壁があった。
「これ、嫌がらせの範疇超えてねぇか?」
落書きをするとか傷を付ける程度なら子供のイタズラかとも思えるが、さすがに専門職による修繕が必要に思える破壊は、役人が出てきてもおかしくないレベルだ。
「最初はちょっとした悪ふざけのレベルだったのですが、次第にエスカレートし始めまして。今ではイベントを途中で中止しなければならない事態にもなっています。そのせいで客足も遠のき始めて経営にも不安な陰が……」
本当に苦労しているのだろう。
ルルド自身の表情にも暗い陰が落ちていた。
「爆弾使ったみたいな跡ね」
「これでも瓦礫は片付けたのです。公演中に爆発音が聞こえて、お客様を避難させつつ確認をしたらこうなっていたんです。役人もさすがに調査に動いてくれているのですが、これといった犯人にはたどり着いていないようなのです」
「容疑者もいない感じなの?」
「容疑者は何人かいるようですが、どの方も決定的な証拠がないようです」
調査機関を持つ役所の役人ですら犯人を特定できない事件。
しかも割と過激な犯行に及ぶ相手のことを考えると、あまり長い期間をかけてはいられないようだ。
「爆弾すぐに作れるから大変だね」
「能力が使えるパルフィと違って、爆弾なんてそう簡単に作れるようなもんじゃねぇよ。火薬が手に入るような環境にいないとな。そういう人物に心当たりは?」
「花火師や採掘作業員などが火薬を取り扱う職業なので、そういった人たちにも聞き込みをしているようですが、手掛かりは何も出ないようです」
「なるほどな。となると、相手が仕掛けてくるのを待って現場を取り押さえたほうが早そうだな」
今から聞き込みを始めても、犯人にたどり着くまで何日もかかってしまう可能性が高い。
であればイベント中に待ち伏せし、現行犯として捕まえるのがベストだと思えた。
「今日の公演は昼からです。夜にも公演がありますが、まずはそちらの警戒をお願いできますでしょうか?」
「わかった。三人で手分けして張り込みして、怪しい奴がいたら合図して三人で捕まえる。それでいいな?」
「了解。私はステージ外を見るわ」
「私は外を見てたい! 美味しい屋台見つけたい!」
必然的に俺はステージ周辺の見回りになる。
犯人一人なら神一人でも余裕で取り押さえられるが、犯人が複数の可能性もある。
三人で対処するのが肝心だ。
「では私は公演の準備がありますので失礼します。後はよろしくお願いします」
そう言ってルルドは建物の中へ消えていくと、俺は二人に口を開いた。
「まさかこんな流れになるなんてな」
「お金が無いから仕方ないとはいえ、妙なことになったわね」
「人助け大事。私も頑張るっ」
「頑張るのはいいけどよ。パルフィが食いまくらなければギリギリ金足りたんだが」
「生きるための食事も大事。ケチったら駄目」
「そう言うならガッツリ稼いでくれよ」
ハァと溜め息をつきつつ、俺は周囲をグルリと見回す。
街は活気に満ちていて多くの人々が行き交っている。
伝わってくる雰囲気からは陰気なものは一切なく、爆弾を使うような輩がいるようには全然見えなかった。
「四級神になるためにも、犯人を捕まえなくちゃな」
「もちろんっ。ご飯のためなら頑張れるのっ」
「最高神を目指すんだから、人助けはしっかりやらないとね」
三者三様、それぞれの思いを胸に興行所を見上げる。
「そういやなんでお前らは
俺自身が最高神を目指す理由は、なんでもできると言われる最強の力を手にしたいという野望からだが、二人の理由は聞いてなかったなと思い、何気なく聞いてみる。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「ちっとも知らん」
すでに言っていたつもりだったらしく、レナはキョトンとして目をパチパチさせた。
「そりゃもちろん、世界中の男たちを私のしもべに」
「あーボケはいいから、真面目なところ聞かせてくれよ」
わざとらしい言葉を冗談だとバッサリ断ち切り本音を言えと迫ると、レナは不満そうな顔を一瞬見せた後に俺たちにだけ聞こえるトーンで言った。
「いつも最高神っていう肩書を持った親父が近くにいて、私に危険が迫ると最終的には助けてくれるのよ」
嬉しいような煩わしいような、そんな複雑な表情でレナは続ける。
「でもそういうことされると、自分の無力さを感じちゃってね。ちゃんと自分で物事を乗り越えられるようになりたかったってのが本音ね」
冗談で言ってはいないのが伝わってくる瞳の光を感じて、俺は「へぇー」と驚嘆の声を自然と漏らしていた。
「割と真面目な目的だったんだな」
「
息をフッと吐き自嘲ぎみな笑みを見せるレナ。
その顔は女神というより、人間の可愛いらしい女の子のようだった。
「私はレナと一緒に世界中の美味しい物を食べながら旅をして、最高神になったら世界にない美味しい物を作りたいの」
一方、仲間と食のためと元気いっぱいに豪語するパルフィは、いつの間にか手にしていた携帯肉を食べていた。
「ハハッ。パルフィらしくていいな」
どんな理由であれ
「よし。とにかくまずは四級神だ。レベルアップしてキールをギャフンと言わせてやろうぜっ」
「おーっ! じゃあ先に屋台巡りしよう!」
「見張りの仕事忘れないでねッ!?」
勢いよく右手を上げ歩き出したパルフィのヘルメットを掴み、目的を見失うなと念を押す。
そんな前途多難な不安が脳裏をよぎらせながらも、俺たちは興行所の警備をするためにバラバラに散っていった。
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