第29話 再びの邂逅(2)

「人間と契約して能力を与えたのも階級を上げるため?」


 女に弱いなら私が聞けばと思ったのか、レナがバロンについての話題に触れる。


「契約した人間が集めた負の感情も俺の力になるっす。人間が人間自身を不安や恐怖に陥れれば作業が捗るっす」

「そういうところには頭回るのね」

「都合が良かったのが二人しか見つからなかったから、今後はまだまだ増やすっすよ」


 効率が高いとまでは言えないが、火山やら悪人やらを使って自分の能力を高めようとするのは、自分の存在を隠しながらやるという意味では頭良いな……って、いま二人って言ったよな? 能力を使っていたのはバロンしかいなかったはずだ。

 他にまだ契約した人間がいるってのか?


「おい、バロン以外に──」「顔はいいけど、性格とズル賢さのせいでモテない堕落魔アンチね」

「生まれるところからやり直してくるの」


 問いかけようとしたところをレナとパルフィに遮られ聞けなくなる。

 そして追い打ちをかけるような女神たちの物言いを聞いて、とうとうキールは顔を真っ赤にして短剣をブンッと振った。


「もう許さないっす! 俺の実力、味わうがいいっす!」


 戦う意思を膨らませた堕落魔アンチに、レナとパルフィもそれぞれ鍋のフタとヘルメットを装備し臨戦態勢に移行する。


「チッ、やるしかねぇか」


 まともに話を聞き出せる状況ではなくなった。

 前回の戦闘から察するに戦い慣れはしていないはずだが、逆に考えると何をしでかすかわからない怖さはある。

 至近距離にいても根源術マナの警戒も怠れない。


「これを喰らうがいいっす!」


 キールが突っ込んで来ながら左手に炎を宿らせる。

 以前より熱量が高いのか、赤に蒼い色が混じった炎はヤケドでは済まなさそうな雰囲気を帯びていた。


「コア・ジール」


 炎の球が飛来し俺に迫ってくる。

 その後ろにはキール。

 根源術マナを避けたり斬り伏せてもすぐに追撃される布陣。

 ちょっとは頭を使うようになったみたいだが、ならばこうすればいい。


「スピア・スタブ」


 地面から飛び出た岩が炎を突き破り爆発させ、さらに相手の足元からも隆起する。

 それをキールは慌てて上空へ跳んでかわすと、着地した瞬間指を突きつけてきた。


「いきなり不意打ちするなんて危ないじゃないっすか!」

「戦闘で危ないも何もないだろ」

「当たったら痛いじゃないっすか!」

「攻撃されるのが嫌なら悪さ止めて田舎に引っ込んでればいいだろ」

「人を田舎者みたいに言ってバカにしないで欲しいっす!」


 堕落魔アンチの半分はわがままで構成されているのか。

 筋の通らない言い草ばかりしてくるキールに、真剣モードになったのがアホらしくなってきた。


「ねぇ……私たち参加しないで見学しててもいい?」


 レナも同感なのか鍋のフタを下げ脱力ぎみに了承を求めてくる。

 一方、パルフィは首を傾げて俺とキールのやりとりをボーッと眺めていた。


「もう無理っす! とことんバカにするなら容赦しないっす!」

「それ何回言うんだよ……」


 事ある毎に開戦の合図を行うキールに俺は辟易する。

 直前までの記憶がなくなってるのか? いちいちデジャビュを俺に見せないで欲しい。


「おっと」


 直後、足元に開いた大きな穴にバランスを崩しかけつつも、俺は空中に浮かんで落ちないよう踏み止まる。

 レナとパルフィもまるで何事もなかったかのように、ふわりと移動し安全な地面に着地した。


「な……なんで飛べるようになってるんすか!」

「いやなんでって、一度喰らったものへの対処法を講じてくるのは当たり前だろ?」

「考えなしに同じ失敗を繰り返すほど間抜けじゃないわ」

「私たち、キールと違うの」


 意外でもなんでもないことに文句をつけてきたキールに、パルフィまでもが〝見くびらないで欲しい〟と言うようにビシッと指を突きつけた。


「ぐぬぬ。こうなったらまだ見せたことのない力、見せつけてやるっす!」


 無駄となった穴を消したキールは、力を溜めるように両拳を握って腰を落とす。

 どんな力を使ってくるのか。

 何が起きてもいいように俺は身構える。

 時間をかけているところを見ると威力が強いか広範囲に影響を及ぼす能力かもしれない。

 レナとパルフィも何が来ても防げるように鍋のフタとヘルメットに手をかけ。


「へへっ、驚いたっすか──痛って!?」


 得意げに空を縦横無尽に飛び回り始めるキールを見て、俺は足元に転がっている石を投げつけた。


「あんだけ時間かけて、やることが俺たちと一緒かよッ!」

「仕方ないじゃないっすか! 影と炎以外に使えるのこれしかないんすから!」


 痛そうに頭を擦りながら反論してくるキールに、俺はわざとらしく大きな溜め息をつく。

 空が飛べることを見せつけて、いったい何があるんだよ。

 負けず嫌いかよ。

 戦闘に関係ないだろ子供かよ。


「立派なのは見た目だけね」

「私たちもできることをやっても、カッコよくない」


 女神たちにも呆れられキールは顔を真っ赤にすると、ぷかぷか空に浮かんだまま。


「ちくしょうっ!」

「あっ逃げた」


 恥ずかしさと悔しさからか、頂上に向かって急速に飛んで行った。


「追いかけるぞ」


 俺たちも体をふわりと浮かせると、逃がすまいとその背中に追随した。

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