第26話 称賛(2)

「そういうことであれば」


 俺たちの話を聞いて何を思ったのか、ルルドは周囲で事態を見守っていた民衆に向かってスッと歩み出ると。


「皆さん、お聞きください」


 大きく周囲に響き渡るような声で、視線を一気に自身に集めた。


「ここしばらく私の興行所に嫌がらせをしていた犯人を、この三人の神様たちが見事解決してくださいました。ぜひ感謝と盛大な拍手をお願いいたします」


 腕を上げ俺たちを指し示すと、それを聞いていた人たちからワッと歓声が上がり、一斉に無数の拍手が建物に反響する。


「ちょっと恥ずかしいな」


 大勢の人の前で称賛された経験がない俺は、気恥ずかしさで頬に熱を感じた。


「最高神になるには、これから何度も称賛受けるんだから」

「もっともっと人間を喜ばせるの」


 肝の座った態度で手まで振って拍手を一身に受ける女神たちに、俺は驚嘆を覚え──直後、急激に高まっていく自身の神力ジンを感じ、思わず両手のひらを見つめた。


「なんだこれ……自分じゃないみたいだ」


 全身に直接エネルギーを注ぎ込まれ、なんでもできそうな万能感が湧いてくる。

 まるで体が発熱しているような感覚に、俺は自然と声を漏らしていた。


「笑いももちろん素敵だけど、こうやって冒険えいぎょうで人間の手助けをして、神力ジンを高めるのも悪くないでしょ?」


 レナが首を傾け微笑みを俺に向けてくる。

 その身体は淡い光を放っていて、神秘的に見えた。


「人を笑わせても神力ジンは得られる。でも私たちは、一時の喜びよりずっと得られる幸せを人間に与えながら最高神を目指したい。だからこそお笑いの営業ではなく、困ってる人を助ける冒険えいぎょうをやってるのよ」


 レナはウインクをして楽しそうに笑い、再び人間たちに大きく手を振る。

 まさか人助けでここまで神力ジンを得られると思っていなかった。

 お笑いのみで成り上がろうと、躍起になっていた自分の価値観がガラガラと崩された。


「何それ、ダンゴムシのモノマネ?」

「ちっげーよ! めちゃめちゃヘコんでんだよ!」


 パルフィの問いかけに、俺は羞恥心から思わず声を張り上げる。

 お笑いこそ至高と今までツッコミの腕ばかり磨き続けてきた自分が、恥ずかしやら情けないやら複雑な気持ちになる。

 道は一つしかないと勝手に思い込んでいた。

 最高神を目指す叩笑神ツッコミとして有り得ない失態に、穴があったら埋まりたくなった。


「まーいいじゃない。お陰で私たち四級神になれたみたいだし」

「へ?」


 ふいに告げられた言葉に俺は思わず間の抜けた声を漏らす。

 その意味を確かめるように自身の内蔵している神力ジンに意識を向けると、五級神だったときとは桁が一つ変わったような、ロウソクの灯りが焚き火になったような活力を感じた。


「これが四級神の力……」


 恥ずかしさもどこへやら。

 確実にパワーアップしたという実感に意識が持っていかれる。


「アラルおじさんの言うとおりなら、空飛べるようになったんだよね?」

「そうね。ちょっと試してみましょうか」


 物は試しとレナが期待感を乗せて神力ジンを薄く全身にまとうと、静かにふわりと体が宙に浮いた。


「わーい。お空ビュンビュン気持ちいいー」


 パルフィは一瞬でマスターしたのか縦横無尽に空を飛び回り、まるで子供のようにワイワイとハシャぐ。

 俺も自分の体が浮くイメージをしながら全身に神力ジンを流すと、初めて体が浮遊する感覚を味わえた。


「これでキールとも戦えるわね」

「人間たちがパワーくれた。もう負ける気がしない」


 高揚感からかレナとパルフィも自信たっぷりに頷き合う。

 空を飛べればキールの落とし穴にも対処可能だ。

 しかも四級魔と同格になったことで、パワー面でも遅れを取ることはなくなったはず。

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