第2話 ボケの女神(1)
「私がボケてから即座のツッコミ。見事だったわ」
人間で言うなら十八歳くらい。
俺と同じ年に見える女神は人差し指をビシッと突き出し、大きな瞳を笑みの形に変えながら俺を褒め称える。
「私は海神アラルの娘レナ。あなたを
「間に合ってまーす」
「ちょっと、立ち去るんじゃないわよ!」
意味不明な勧誘をスルーして歩き出そうとすると、レナは慌てて俺の前に回り込んだ。
「道端に落ちてた変な女神に、相方にするって言われてどうしろと?」
「落ちてなんていないわ。鋭いツッコミをする相方を求めてわざと倒れていたのよ」
フフンと自慢げにレナは鼻を鳴らす。
話から察するに、レナは
そういう意味ではボケたところにツッコミを入れてもらえば、相手がどんな
「いつ誰が通るかわからねぇ場所で相方探しって、んな効率の悪いことしてるなんて……末期だな」
「人を病人扱いッ!? って、
「いやいや。こんなんボケでもなんでもねぇだろ」
どちらのタイプの神でも、微塵もボケないツッコミやツッコまないボケなど古代遺物扱いされる。
それだけでやれるのは、一級神レベルの才能や経験がある
「どうせ、天才の娘ってのもボケなんだろ?」
有名神の名前を父として挙げていたレナに、俺は溜め息混じりで問いかける。
海神アラル──稀代の
そんな神の娘が地面で転がっていたというのは、明らかにボケだと思われた。
「あー、よく言われるけどそれはボケじゃないわよ?」
「わかったわかった。テンドンしなくていいから」
ボケにボケを重ねてなおも海神の娘だと主張するレナに、俺はあからさまに疑いの半目を向けた。
「信じなくてもまぁいいわ。とりあえず、あなたの身体能力も知りたいから、あなたの神具で私にツッコミ入れてみなさいよ」
レナは俺が腰に携えているハリセンを目で差し、神としての攻撃力も見せてみろと要求する。
神の勤めの一つとして、
「俺が神具使うと、例外なく相方が吹っ飛んでるんだが……いいのか?」
「構わないわよ。ツッコミの要領でハリセンで思いっきり叩いてきなさい」
得意げに指で挑発をしてくる女神に、俺は片眉を上げつつハリセンを手にした。
「どうなっても知らねぇぞ?」
手に何も持たずに向かい合い、余裕の笑みを浮かべながら待つレナに、俺はフゥと軽く息を吐いてハリセンを構える。
そしてハリセンを振り上げ思いっきり叩きつけようとした。瞬間──
「なっ……」
レナは目にも止まらぬ速さで銀光を走らせると、腰に着けた鍋のフタを右手で持ち、ハリセンが頭に当たる寸前にその動きを完全に止めた。
「受けきった……だと……」
養成所では今までどんな相手と組んでも、必ず相方が吹っ飛んでいたはずのツッコミ。
それを鍋のフタで軽々と防いだレナを見て、俺は驚愕に目を見開いた。
「ふふっ。どう? 私のツッコミ防御力とその速度」
レナは自慢するように腰に手を当て俺の顔を見つめる。
「す、すげぇ。鍋のフタって頑丈なんだな」
「そっちッ!?」
自分の
「あなた結構ボケるのね」
「ん? 今なんかボケたっけ?」
不思議そうに首をひねる俺に、レナはザザッとわずかに後ずさる。
「こ、この男。
「俺は天然じゃねぇよ」
「天然はみんなそう言うのよ」
俺の否定になぜかレナは苦笑いを浮かべる。
天然ボケが世の中に存在することは知っているが、自分がそうだと言われるのは変な気分だ。
俺は自分で考えたボケもできる
納得がいかず悶々として、自分が天然ボケなのか脳内で検証していると、レナはそんなことお構いなしに得意げに言ってきた。
「とにかく。これで私が海神の娘っての信じてもらえた?」
「娘かどうかはわからねぇけど、俺のツッコミを受けられる奴だってのはわかった」
「まぁそれでいいわ。これであなたと私がいい相方だって証明できたでしょ」
〝私があなたのベストパートナー〟とでも言うように、レナは口の端を上げる。
確かに俺のツッコミを受けても大丈夫な
「けど、出会っばかりの女神とコンビ組むつもりはねぇぞ?」
自分のツッコミを防いだ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます