第4話 ボケの女神(3)
「レナちゃん、お父さんって呼んでよー」
「は? ええっ!?」
突然出てきたよく知った顔に、俺は後ろにあった木をなぎ倒しながら大きく後ずさった。
「か、海神アラルッ!?」
アラルの単独お笑いライブを昔一度だけ見たことがあった。
そのときの抱腹絶倒の面白さと感動は今でも忘れられない。
そんな憧れを抱いている最高神が目の前にいるのだ。
落ち着けと言うほうが無理な相談だろう。
「あー、アラルおじさんだー」
「やぁパルフィちゃん。相変わらず天然してるかい?」
パルフィとも既知の関係なのか、気楽に迎え入れられ海神は嬉しそうに手を振った。
「ねー親父。この男神の父親って誰か知ってる?」
少し面倒くさそうにアラルを親父と呼び、レナが親指で俺を差すと。
「ん? なんだ、ギリアの息子のゼノ君じゃないか。でっかくなったな」
海神は気さくな口調で、俺に向かって最高神ギリアの名を口にした。
「お、俺が地神の息子!?」
当たり前のように告げられた言葉に、俺はショックで倒れそうになり、近くにあった木を思わず押し倒してしまった。
「ボケ……だよな?」
「はっはっはっ。
腰に手を当て愉しそうに笑うアラルにボケ独特の空気もなく、冗談ではない雰囲気も確かに伝わってくる。
それを感じ、俺は自分の腕を見てワナワナと声を震わせた。
「俺が最高神である地神ギリアの息子……マジかよ」
「マジもマジ大マジ〜。なんだ知らなかったのかい?」
アラルはアゴを擦りながら不思議そうに俺の全身をゆっくりと眺める。
「ギリアの若い頃にそっくりの顔、声質。しかも
やたら軽いノリで伝えられた真実に、俺はツッコむことすら忘れて佇む。
残念ながらギリアを直接見たことはなく、似顔絵や銅像だけ目にすることはあった。
しかも自分と同じ
そんな神が自分の父親であると聞かされた衝撃は、混乱に混乱を重ねるように俺の頭を駆け回っていた。
「物語とかだと、旅の先で〝まさか俺は地神の子〟とか〝その力、もしや地神の息子か〟なんて重い雰囲気で知るって展開が多いのに……」
「あー、そーゆーノリってあるわよねー。でもそんなのは物語の中だけってことでしょ」
最後のひと押しをするように、レナも両腕を後頭部に乗せながら気楽に言う。
現実は物語のようには行かないと言われることもあるが、まさか物心ついた頃から不明だったことを、こうもアッサリ知ることになるとは思ってもみなかった。
「じゃあなんで俺の父親……ギリアは俺のこと施設に預けたんだ?」
本当に父親が最高神ギリアだとして、なぜ手元から離されたのかわからなかった。
「あーそれはギリア本人に聞いて?」
「そっちは教えてくれないんかいッ!?」
父親のことは望まずとも教えてくれたのに、手放した理由は曖昧にする最高神に、俺は本能赴くままにツッコんでしまった。
「いやいや、実際の話知らないんだよねー。ギリアって自分のプライベートな話をほとんどしないタイプだし。ゼノ君にも君が小さい頃にたまたま一度会っただけで、実は奥さんのこともよく知らないんだよね。変な男だよねギリアって」
アハハと笑って済ますアラルに、俺は思いっきり脱力してしまう。
どうやら俺の父親は予想以上に変わり者のようだ。
さすがに息子が会いに来れば理由くらいは話してくれるだろうが。
「なんにしても俺とカイウスとギリア、
「トマト? あー、あの果物も美味しいよね」
サラリと天神の娘だとアラルに確定されたパルフィは、手にした毒果実を食べ終えて幸せそうにしていた。
「俺、まだ正式にトリオになるって決めたわけじゃあ……」
「ん? なんだ、そんな話してたから組んだのかと」
「大丈夫よ親父。こいつを誘惑してちゃんと落としてみせるから」
「なんだ、レナちゃんが本気なら父さん安心だ。ふつつかな娘だけど、よろしくねゼノ君」
まるで恋人にするかのようなレナと、結婚させようするアラルの発言に、俺は完全に固まってグギギとパルフィを見た。
「ゼノも果物食べたいの?」
それを要求と受け取ったのか、パルフィはググザの実を木からもぎとって近づいていき、俺の手にちょこんと乗せた。
「じゃあ後は若い者に任せて、私は退散するよっ」
「どうせ暇なときには私の行動見てるんでしょ。用は済んだからさっさと帰って」
「レナちゃんは冷たいなー。何かあったらまた呼んでくれてもいいんだよ?」
「はいはいわかったわかった。じゃあね親父」
抱きつこうとする父親を避けパルフィにくっ付く娘を見て、最高神は寂しそうにバイバイと手を振ると、フッと水になって消えてしまった。
「どうしよう。ツッコミたい所が多すぎてツッコミきれねぇ……」
レナとパルフィの素性、最高神の出現、自分の出生。
何から何までズバ抜けた驚きの連続で、
「さて。話もまとまったし、さっそく大きな街へ行って仕事を取るために〝えいぎょう〟するわよ」
「はーい。ガンガン稼いで美味しい物食べよう」
俺にとっては異常な出来事だったのが二人には日常のことだったように、歩き出したレナに従い、パルフィは片腕を突き上げてやる気を見せる。
「だ、大丈夫かなぁ……」
そんな二人の背中を見つめ一抹の不安を抱きつつ、俺は当初の目的だった街へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます