第52話 結実のとき(4)
「さて、これからどこ行こうかしらね」
一方で腰に手を当て街の外を遠目に見つめるレナは、あっけらかんとして次の目的地のことを考えていた。
「こんなことがあった後に、よく次のことすぐに考えられるな」
軽蔑ではなく尊敬の念で目をやる俺に、レナは〝意外ね〟と言うような表情で問いかけてきた。
「
「そりゃそうだけどよ。お笑いと今回のは内容が違うだろ?」
お笑いと戦闘を同じように考えているかのような発言に、俺は意味がわからず眉間にシワを寄せる。
娯楽に笑いはあっても戦いに笑いはない。
思考に付いていけない俺が何を言いたいのか視線で先を促すと、レナはじっくりと語り始めた。
「確かに一緒ではないわ。でもね、神だって人間だって生きている限りは先に進んでいくし、いつかは必ずまた新しい出来事に出会って、嬉しいことも悲しいことも経験していくのよ」
生きている限り様々なことがこれからも起きる。
今回のことはそのうちの一つだと女神は告げる。
「落ち込んでいて何かが良い方向に変えられるならいいかもしれない。けれど何も変わらないなら、私はさっさと顔を上げて前へ進むわ」
レナは未来を見据えるように街の外に向けて指をビシッと差し、口角をキュッと上げて笑みを浮かべる。
確かに反省することは大事だが、ただ落ち込んでいるだけでは何も変わらない。
笑わせる側が笑っていなければ、誰も笑顔にすることなんてできない。
そう言いたいのだろう。
「何があっても前へ、か……」
俺だっていつまでも思い悩んで立ち止まっているつもりはない。
失敗は反省はすれど、次に活かすための大きな経験だと受け止めれば、また困難に出遭ったときには、むしろ良い結果を残せる可能性だってある。
そう考えれば、レナの言葉にも心にズシッとくるものがあった。
「そうだよな。このままじゃ自分らしくないよな」
仲間が明るく一歩踏み出そうとしている姿に、
自分一人では今回の出来事に対処することも解決することもできなかっただろう。
それだけレナとパルフィの存在は大きかった。
「ゼノはきっとお腹が空いてるの。だから元気出ないの。これから三人でご飯を食べに行くの」
「腹減ってるのはパルフィの方だろッ」
反射的にツッコミを入れた自分にハッとする。
やはり染みついた
そんな自分に思わず笑みがこぼれた。
「ゼノはこれからどうするの?」
パルフィが少し寂しそうに俺の今後の行動を問うてくる。
おそらく一度だけ
このまま一緒に
それを聞きたいけど聞きたくない、と言うような不安な表情がパルフィから垣間見えた。
「俺は……」
軽く俯いた俺の顔をレナも言葉を待つように静かに見つめる。
今回の
ただひたすら養成所で笑いを学んできた俺からすれば畑違いのことだし、苦労も辛い思いもした。
これが何度も続くことを思えば、別々の道を行くのが当然だろう。
「レナとパルフィ、二人だけじゃ解決できるもんも解決できないだろ」
けれど俺は自分の本心に素直に従った。
「
どちらか一方しか選べないのではない。
どちらも選ぶという強欲な回答に二人の女神の瞳には驚きと期待の光が宿った。
「わがままで欲張りかもしれねぇけどな。でもどちらか一つしか選べない人生を生きるくらいなら、やりたいことどちらも手に掴む人生にしたいって思った。それが俺らしいし、
「それってつまり……」
パルフィの表情が喜びに満ちていくように明るくなっていく。
その思いに応えるために、俺はハッキリとした口調で言った。
「レナ、パルフィ。三人で
途端、抱きついて来たパルフィに驚きつつ俺は慌てて受けとめる。
「やった! ゼノと一緒、嬉しいの!」
「ははっ、そこまで喜ばれるとなんか恥ずかしいな」
俺の腰をギュッと抱きしめる小さな女神の素直な感情に、思わず頬を掻いてしまう。
養成所では邪魔者扱いされて、楽しくもなく経験すら積めなかった。
そんな俺にこんなに素直に好意を向けてくれる仲間と、今までの人生を覆すような経験ができた。
ピンで活動していこうと決めていた俺にとっては、レナとパルフィという二人の仲間ができたこと。
それが何よりも嬉しかった。
「これでパルフィのお守りを押し付けられる奴が増えたから、私もすっごく楽になるわー」
「そこはせめて二人で頑張ろうとか言えよッ」
良い雰囲気を台無しにするボケをかます女神に思わずツッコミを入れる。
それを心なしか嬉しそうに見つめてくるレナに、俺は苦笑いをして雲のない青い空を見つめた。
笑わせ神には福来たる~ボケ女神たちとツッコミ男神がアンチから世界を救う!? 最高神の子供たちが最強を目指す~ タムラユウガ @tamu51
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます