第39話 光と影の攻防(2)
「攻撃を止めた!?」
地面を陥没させるほどの一撃から身を呈してキールを守ったルルドの行動に、俺はすかさず距離を取る。
いくら影の鎧で身を固めているとはいえ、真正面からの強撃を弾かず受け止めた。
先程の自分の強固な意思を示したときと違い、キールを守るために飛び込んできたのだ。
その身を呈した行動にレナとパルフィも目を見開いていた。
「
「どんなに後先考えない男でも、あなたたちを排除するには不可欠な存在ですからね」
あくまでビジネスライクな理由だと述べるルルドの姿勢に〝不要となったらいつでも切り捨てる〟という冷淡さも垣間見えた。
「体が痺れて上手く動かないっす……」
「私がやります。キール、もっと影を寄越してください」
「頼むっす」
しばらく任せると告げるように、キールは自身の影を伸ばすとルルドの鎧にまとわりつかせる。
すると見る間に鎧が巨大化していき、鎧の形状はそのままに高さ五メートルはある黒いゴーレムのように変化した。
「でかくなりゃ良いってもんじゃねぇだろッ!」
何も考えずにとりあえず大きくしたとしか思えない姿形に、反射的にツッコミを入れてしまった。
「これはいい。小さな神など簡単に押し潰してしまえそう──ですね」
そう言いながら操った拳を叩き地面を揺らすルルドの顔を俺は睨む。
こんなものが街の中へ出ていけば人も建物も甚大な被害は免れない。
「この力と私の催眠があれば、興行ではなく実力で街を支配するのも可能かもしれませんね」
力を手に入れた故の支配欲が出て来たのか、ルルドは堪えきれず自然と黒い笑みをこぼし興行所の出口を見つめた。
「マジかよ──」
笑顔の意味に気づき俺が動揺で体を強張らせる。
その姿をルルドはフッと鼻を鳴らし一瞬だけ見ると、地面を割りながら出口を吹っ飛ばして外へ走っていった。
「あいつ何考えてるのよ!?」
ガラガラと地面に落ちる壁の瓦礫を眺め、レナが声を裏返しながら吠える。
キールも予想外だったのか、ルルドの消えていった方向を見つめながら時が止まったように動きを停止していた。
「自分の欲を抑えきれなくなったか」
「頭の良い人ほど、悪い方向に頭が働くと暴走するの」
チッと舌を打つ俺の横でパルフィは妙に納得顔をしている。
以前に似たようなことでもあったのかとツッコミたくなったが、今はそんなことをしている場合ではない。
ルルドがどこへ向かって何をするつもりかはわからないが、放置していい問題でもないのも確かだった。
「あいつを追うぞ」
「うん、止めなきゃね」
俺の掛け声にパルフィは即座に反応して一足先に外へと駆け出す。
「キールはどうするの?」
「惜しいけど後回しでいい。今は一刻を争う」
動けず守る者もいないキールを制圧する絶好のチャンスだが、影で抵抗ぐらいはしてくるはず。
あれだけ大きな鎧ならば見失うことはないだろうが、その間に取り返しのつかないことをされたら目も当てられない。
俺はレナに迷う暇を与えないように出口へと向かった。
「ルルドはどっち行った?」
先に外で街を眺めていた小さな背中に俺が問う。
「なんか街の真ん中の方へ行ったよ」
パルフィは中心街の方向を指差す。
その先を目で追うと、人間たちが慌てて逃げていく大通りの先から土煙が舞っているのが目に入った。
「あっちって王城よね?」
後から出て来たレナが眉間を寄せる。
この街は王城を中心に円形に広がる街並みをしていたはずだ。
となると中心に向かっているということは、王城を目指している可能性が高い。
「まさか城を陥落させるつもりなんじゃ」
「そんなの、城の警備や軍隊が黙ってないわよ」
「いいや、あいつには催眠がある」
例えどんな人間が立ちはだかろうと、催眠状態にしてしまえば意のままに操れる。
それこそ王を手中に収めてしまえば、この街のみならず国を支配することも可能だ。
「とにかく、止められるのは俺たちしかいねぇ。これ以上大事になる前にケリをつけるぞ」
すでに充分すぎるほど街では悲鳴が聞こえ大事になっている。
大通りはルルドの通った跡で石畳がひしゃげまくり、部分的に崩れた建物もある。
街レベルが国レベルの災害になる前に野望を叩き潰す必要があった。
「俺たちも走るぞ」
まだ土煙は城までたどり着いていない、今なら到達前にギリギリ追いつけるはずだ。
俺は足に力を入れると足元の石畳を跳ね上げ、人間には出せないスピードで巨大な足跡が目立つ大通りを疾走した。
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