第50話 結実のとき(2)

「バリアが……壊れちゃうの……」


 ピシピシと徐々に割れ目が拡がっていく空にパルフィさえも顔に歪みを浮かべる。

 このままではバリアが破れた瞬間、街は粉々に破壊されてしまう。

 それだけは絶対にさせまいと、俺も黒剣を投げ捨て両手を上げ、全力で神力ジンを注ぎ込む。

 そこに、


「風よ踊れ うねりよ舞い上がれ……」


 レナのウタが耳に届く。

 それは力強い波動となって天に響くように広がりバリアに接触すると、空気の層を形成して土台となりバリアを押し上げていく。

 それは倒れそうな体を背中から優しく支えてくれているような温かさを感じた。



「堪え……切れっ!」

 バリアから零れた余波が街の外に落ち、大地に穴を開け土砂を舞い上げる中、音に掻き消されぬように俺は声を張り上げ仲間を鼓舞する。

 体が無意識に震えるほど力のすべてを守りに注ぎ、空から降ってくる暴力を退け続ける。

 三人の力が突き破られれば、人が、街が、自分たちさえも消え去るしかない。

 それだけは絶対に防がなければいけない。

 その想いで俺は両腕を天へと向けて上げ続けた。


「もう限界……なの……」


 力を使い果たしそうなのかパルフィが片膝を着く。

 その視線の先では、二重に張ったバリアに縦横無尽にヒビが走り、気を抜けば砕け散ってしまいそうになっていた。


「レナ、借りるぞ!」

「ゼノ、何を!? きゃっ!」


 最悪な結末が頭をよぎりそうになるのを堪え、俺はレナの大盾をぶんどって一気に飛翔する。

 その瞬間、空が盛大な音を立てて割れた。


「おおおおおおおぉおぉぉぉおおおぉおおっ!!」


 隕石が落ちてくるように落下してくる黒い光を、俺は大盾に全身を押し付けながら押し返す。

 しかし防ぎ切れなかった余波が跳ねて街中へ次々と落ちていく。

 粉々に弾ける建物や地面に、無数の悲鳴が聞こえてくる。

 俺はそれを知覚しながら必死に体を押し込む。

 それでも徐々に体を押され建物の屋上の高さまで下げられるが、なおも大盾に神力ジンを送り、守りの出力を極限まで高めた。


「いい加減に……しやがれ!」


 止まない力の放出に俺が吠えると、大盾の左右に二人分の細い腕が加わる。


「絶対負けないんだから!」

「みんなを笑顔にするのが、爆笑神おわらいの役目なの!」


 レナとパルフィが残った力を振り絞るように神力ジンを注ぐと、大盾から白い光の膜が出現し黒い光を押し返し始める。


「これで終わらせる!」


 ゆっくりだが確実に空へと引いていく黒に、俺は自分たちの可能性を信じて声を張り上げる。

 街を人間を自分たちを救うため。

 将来への道を閉ざさないため。

 全身全霊を込めて全身に力を入れ、枯渇するまで神力ジンを大盾に──


「うおっ!」「きゃっ!」「わっ!」


 ──と、急に支えを失った体が前のめりに倒れ込み、俺たちはバランスを失って地面に落ちた。

 全力で押し返していたせいで制御できず落下してしまった上体を起こし、何があったのかと空を見上げる。


「っつつ……なんだ急……に……」


 するとそこには急激に縮小していく黒い光が目に入った。


「小さくなってく……」


 巨大な太陽のようだった黒が一気に一軒家サイズの球体になり、ジリジリと表面を振動させながらゆっくりと萎んでいく。

 それは空気の抜けていくゴムボールのようで、溜め込んでいた魔力カオスを空気中に霧散させているようだった。

 そんな光景を肩で息をしながら見守っていると、やがて最後には小さな影だけを残して黒い暴力は消滅した。

 直後、


「何か落ちてくるの」


 パルフィが指差すまでもなく、俺が対象の姿を確認しすぐさま走り始めると、グングン迫って来ていた影が民家の壁に当たって落下した。

 そして一度だけ地面をバウンドすると、ゴロゴロと転がり崩れた瓦礫の山にぶつかってそれは止まった。

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