第三話

 そして、約一時間はったと思う。バスが止まる感覚がすると、男の声がした。

「それではみなさん、アイマスクを外してください。そしてバスを降りて、正面にある建物に入ってください」


 俺はアイマスクを外して、バスを降りた。まぶしくて思わず目を閉じて、立ち止まった。外の明るさに慣れて目を開けると、やはり眩しさで立ち止まっている人がいた。そして目の前に、学校の体育館ぐらいの大きさのグレーの建物があった。入り口も見えたので、俺はそこに向かった。建物の中に入ると右側にやはり、黒いスーツと黒いサングラスの男が二人いた。


 手前の男は、無表情で告げた。

「身分を確認できるものを、見せてください」


 俺は財布さいふに入れてある、運転免許証を見せた。俺は車の運転はあまりしないが、取りあえず免許証は持っていた。


 男は免許証をデジカメらしき物で撮影すると、俺に告げた。

「今度はあなたの顔をりますので、こちらを向いてください」


 俺は言われた通りに、男に顔を向けた。すると男は撮影し、再び告げた。

「それではIDカードを、受け取ってください。大事な物なので、無くさないでください」


 するともう一人の男が、クレジットカードのような物を俺に差し出した。受け取ってみると真っ黒で、『56』と白い文字で書いてあった。


 更に男は、告げた。

「建物の奥に入りパイプ椅子いすに座り、机の上にあるパソコンの挿入口にカードを差し込んでください」


 俺は建物の奥に入りながら、考えた。パソコンを使うのか。それじゃあ、頭を使ったゲームなのか? 俺としては、ちょっとは体力を使ったゲームの方が良い。頭を使うことは、あまり得じゃないから。でもそれは、やってみなければ分からない。


 そして俺は五台のパソコンがっている、細長いテーブルを見つけた。パイプ椅子もある。きっとこれだなと思い、パイプ椅子に座った。


 目の前にはキーボードとディスプレイ、それと高さが三十センチくらいの黒い箱があった。いわゆる、デスクトップパソコンだろう。黒い箱にカードが差し込めそうな部分があったので、男からもらったカードを入れてみた。


 するとディスプレイ画面に、文字が表示された。

『あなたが使用するキャラを、マウスで選んでください』


 更に文字の下に迷彩服めいさいふくを着た若い男女、少年少女の四人が表示された。四人は日の丸が付いた、ヘルメットをかぶっていた。まるで自衛隊員だなと思った俺は深く考えずに、若い男を選んでマウスをクリックした。


 すると再び、文字が表示された。

『Wボタンは前進。Sボタンは後退。Aボタンは左移動。Dボタンは右移動。マウスの左クリックで攻撃。』


 俺は左手でキーボードのWボタン、Sボタン、Aボタン、Dボタンを押してみた。更にマウスを左クリックしてみた。なるほど、だいたいは理解した。それにしても攻撃って何だ? という疑問ぎもんは残ったが。


 するとまた、画面の表示が変わった。

『使用する武器をマウスで、選択してください』


 画面を見てみると、ポリゴンの左腕と右腕が現れた。そして右手には、サバイバルナイフがにぎられていた。俺は画面の指示通りに、画面の下に表示されているピストルのアイコンにマウスを合わせてクリックしてみると、両手でピストルを持った。


 今度はマウスを、ナイフのアイコンに合わせてクリックしてみた。するとまた、右手でサバイバルナイフを持った。更に『一回、攻撃が当たると、相手のライフを一つ減らすことができる。使用回数、無制限』と表示された。そしてもう一度ピストルのアイコンをクリックしてみると、両手でピストルを持った。更に『一発、命中すると、相手のライフを一つ減らすことができる。使用回数、100発』と表示された。


 なるほど。ナイフは使用回数が無制限だけど、ピストルは100発しか撃てないってことか。ちょっと考えてみたが、やはりナイフよりピストルの方が良いだろうと思い、クリックした。


 すると右隣のパイプ椅子に座っていた太った男が、笑った。

「何だ。ゲームって、FPSエフピーエスか。これなら楽勝だよ。僕はFPSも得意だからね」


 俺はちょっと、記憶をたどった。FPS? どっかで聞いたことがあるような……。


 と考えていると、ゲーム会場中に可愛かわいいが、大きな声が響き渡った。

「はーい! 私、進行役しんこうやくの『れる』でーす! 皆さん準備ができたようなので、これからゲーム、『アーツ』を開始します! 優勝賞金一億円を目指して、がんばってください! では第一回戦、スタート!」


 するとディスプレイ画面の説明が消えて、ピストルを持っている両手だけが表示された。どうやらゲームが、始まったようだ。俺はためしに左手でキーボードのWボタン、Sボタン、Aボタン、Dボタンを押してみた。すると画面の俺のキャラは前進、後退、左移動、右移動した。


 更にマウスを、左クリックしてみた。すると画面中央の小さな丸い印に向けて弾丸だんがんが一発、発射された。画面下を見てみるとピストルのアイコンの隣の数字が、『99』になっていた。なるほど、だいたいは理解した。でも具体的に、俺はどうすればいいんだ?


 と考えていると、再び『れる』の声が響いた。

「これから皆さんには、五人対五人のシューティング・ゲームをしてもらいます。先に敵チームの五人全員を、倒したチームの勝ちです。敵キャラの頭上には『ENEMY』と表示されます。では、がんばってください!」

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