【連載中】ライフがゼロになると、頭を撃ち抜かれます

久坂裕介

第一回戦 ステージ:ガレキ街

第一話

 西暦二〇XX年十月。

 外は十月にふさわしい、少し冷たい風が吹いていたが、その部屋はエアコンで快適な温度が保たれていた。


 銀縁ぎんぶちメガネのブリッジを右手の中指で押し上げ、せた男が聞いた。

鞍馬くらま防衛大臣、本当にたった一億円の賞金で、うまく行くでしょうか?」


 恰幅かっぷくが良い鞍馬は、落ち着いた口調で答えた。

「うむ。例えば賞金を十億円にすると、逆にうさん臭くなるとわしは思う」

「なるほど……」

「というわけで賞金一億円で、このプロジェクトを進めてくれ、晴海はるみ君」


 晴海は鞍馬に、敬礼した。

「はっ! 了解しました!」


   ●


 取りあえず『ほっ』としたが次の瞬間、俺のひざはガクガクとふるえ出した。左隣のパイプ椅子いすに座っていた長髪の男が、パソコンのキーボードに倒れこんだからだ。よく見ると後頭部から血が流れていて、ピクリとも動かない。どう考えても死んだとしか、思えない。しかも即死そくしだろう。おそらく俺のように攻撃されて、そしてライフがゼロになったんだろう。それで頭をかれたんだろう。


 俺は、逃げることにした。こんなゲーム、やってられっか?! 一億円より命が大事だ!


 すると右隣の太った男もそう考えたんだろう、立ち上がると叫んだ。

「じょ、冗談じょうだんじゃない! 本当に殺されるなんて、聞いてないぞ! こんなゲーム、やってられるか!」


 そして後方に、走り出した。すると『パアン』とかわいた音がして、太った男は仰向あおむけに倒れた。男の顔を見てみると、ひたいから血が流れていた。どうやら額を撃ち抜かれたようだ。


 すると『れる』の大きな声が、再び会場にひびいた。

「あ! そういえばこれも言い忘れてたけど、ゲームを途中で止めて逃げた場合、敵前逃亡てきぜんとうぼうとしてやっぱり後ろにいるペナルティ・スナイパーに頭を撃ち抜かれます!」


 それを聞いた俺は、やっぱり大声でわめいた。

「ふざけんな、テメー! そういう説明はゲームが始まる前に、ちゃんと言えってんだよ!」


 するとやはりこの場にふさわしくない、『れる』の陽気ようきな声が再び、かえってきた。

「ほら、私って、おっちょこちょいだから、また説明を忘れちゃった! てへ」


 俺は再びツッコんでいる場合じゃないのに、ツッコんでしまった。

「だから、『てへ』じゃねえんだよーー!!」


 俺は必死に、考えた。とにかく、このゲームから逃げることができないことは分かった。つまり生きびるためには、このゲームをクリアするしかないってことだ。そしてこれが、とんでもねえクソゲーだってことも分かった。


 俺は撃たれた左脚ひだりあしの痛みをこらえながら、一昨日おとといの自分のバカさ加減かげん嫌気いやけがさした。世の中うまい話が転がってるわけ、ねえんだよーー!!


   ●


 一昨日の夕方。俺は家賃五万円のアパートで、スマホに送られてきたメールを読んでため息をついていた。


『選考結果のご連絡

 株式会社 遊井ゆい  新卒採用担当 鈴木です。

 北村修吾きたむらしゅうご様 この度は弊社へいしゃの新卒採用試験に応募下さり、ありがとうございました。


 北村様にご応募いただいた書類について社内で厳正なる選考を行った結果、誠に残念ながら今回はご希望にえない結果となりました。


 ご要望に添えず大変遺憾たいへんいかんですが、何卒なにとぞ了承りょうしょうお願い申し上げます。末筆まつひつになりますが、北村様の今後のご活躍を心からお祈りいたしております。』


 俺は、後悔こうかいした。はあ、やっぱり高校を卒業してもまだ働きたくなくて、更に東京に行きたくて俺でも入学できる適当な大学と学部を選んだのが、マズかったかなあ……。経済学部なら、営業の仕事が簡単に見つかるかなあって思ったんだけどなあ……。今、不景気だからなあ……。


 やっぱり工学部の方が、良かったかなあ……。そしたらどこかのメーカーに、入社できたかもなあ……。あ、ダメだ。俺、数学とか、全然分かんないんだ……。


 それから夕食にいつものカップラーメンとおにぎりを一つ食べると、フローリングの床にだいになった。そしていつものように、ツイッターを開いてみた。するとあまり景気が良くない、ツイートが流れていた。

『とうとう日本の人口、一億人を切ったなあ……』

『九千万人を切るのも、時間の問題だってさあ……。当然、自衛隊員じえいたいいんの人数も減ったんだってさあ……』

『そんなこと気にしないで、今を楽しもうぜ!』


 俺は趣味でスマホで、風景をっている。そして毎日のように、写真と一緒にツイートをしていた。俺はさっき撮った夕日の写真と一緒に、今日のツイートをした。

『そんなことより、俺はまだ内定を一つももらってないんだが(T_T)』


 そしてツイッターを閉じて気晴らしに、ヒグチアイの『悪魔の子』のMVをユーチューブで観た。しかし全然、気晴らしにはならなかった。


 だから少し早いが、寝ることにした。だがこれからのことを考えると、寝付ねつけなかった。俺は今、大学四年生。当然、就職活動をしている。だが十社受けて、全て書類選考で落とされた。


 はあ。本当にこれから、どうしよう……。もう十月下旬だぞ……。


 そして皆はどうしているんだろうと思って、ベットで横になったまま再びツイッターを開いた。『就職活動』で検索してみようと思ったら、あるツイートを見つけた。

『優勝賞金一億円のゲームを開催かいさいします! 命知らずの方を希望します。参加されたい方はDMダイレクトメールを送ってください。先着百名で、募集を終了します』


 俺は思わず、つぶやいた。

「は? 何だこりゃ?……」


 優勝賞金一億円? そりゃ、それだけの金があれば、当分遊んで暮らせるな……。いや、株とか買ってうまく運用すれば、働かなくてもいいかも! そして決意した。これはこのゲームに参加するしかない! 『命知らずの方を募集します』って書いてあるけど、実際に死ぬことは無いだろう。だってゲームだし。死ぬゲームなんて、聞いたこと無いし。


 だから俺はそのツイートに、ゲームに参加したいとDMを送った。そして本当に一億円が手に入ったらどうしようかと考えていたら、いつの間にか眠っていた。

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