第三回戦 ステージ:基地内

第二十一話

 春海はるみは銀縁メガネのブリッジを右手の中指で押し上げ、報告を始めた。

「X国とY国の戦況せんきょうですが、変わりありません。すでに両国の兵士、民間人、合わせて三十万人以上の犠牲ぎせいが出ています」


 四年前、大国たいこくXは突然、北の隣国の小国しょうこくYに攻め込んだ。しかしこの一方的なX国の侵攻しんこうに各国は反発はんぱつし、Y国に物的人的支援ぶってきじんてきしえんを始めた。そしてX国とY国の戦力は同等になり、二国に多数の死者が発生して戦況は泥沼どろぬまと化していた。


 鞍馬くらまうなづくと、告げた。

「報告、ご苦労。今後も二国の戦況を、注視ちゅうししてくれ」


 春海は、敬礼した。

「はっ! 了解しました、鞍馬防衛大臣!」


 そして春海は、大臣室から出て行った。鞍馬は唇をかみしめ、つぶやいた。

「このプロジェクトが間違っているのは、分かっておる。じゃが、生き残ってくれ、我々の戦士たち……」


   ●


 日曜日。俺がゲーム会場に行くために東京駅の駅前に行くと、すでに景和けいわ彩華あやかさんがいた。二人は、張り切っていた。

「あ、きましたね、修吾しゅうごさん! 今日も、がんばりましょう!」

「そうですね。今回も生き残りましょう!」


 だが俺は、張り切れなかった。俺たちは『アーツ』というFPSのようなゲームで、戦わなければならない。だが敵を倒すということは、その敵を殺すことになるからだ。


 甘いと思われるかもしれないが、俺はもう、誰も殺したくない。たとえ、自分が殺されても。だが、と考えた。俺は殺される訳にはいかない。俺は彩華さんのナイトになって、彩華さんをまもると約束したからだ。それに出来れば、景和にも死んでほしくない。


 そのためには、どうすればいいか? 優勝して、このクソゲーを終わらせるしかないと今は考えている。正直もう優勝賞金の一億円なんて、どうでもいいと思っていた。俺はただただ知っている奴を護りたい。そして一刻も早くこのクソゲーを終わらせたいと考えていた。今の俺がゲームで戦う理由は、それだった。俺は護りたい奴らの挨拶あいさつに、答えた。

「おう。今日もがんばろうぜ!」


 そして俺たちは、バスに乗り込んだ。俺は出発したバスの中で、このゲームについて考えた。今回で第三回戦になり、気持ちにも少し余裕が出てきた。


 まず、このゲームの目的は何なんだ? 全く分からない。おそらく『れる』に聞いても、教えてくれないだろう。教えるつもりなら、とっくに教えているだろうから。


 なら、場所はどうだ? バスの中でアイマスクをされ、更に窓にはカーテンを閉めているから、どこに連れられているのか分からない。分かるのは約一時間、移動しているということだ。


 一時間……。おそらくは、埼玉県か茨城県か千葉県。いや待て、神奈川県という可能性もある。だが時間的に、東京都という可能性は低いだろう。バスで一時間も移動すれば、東京都から出てしまうだろう。埼玉県、茨城県、千葉県、神奈川県。これらに、何がある? 防衛省に関係がある、何か。俺はぼんやりと、このゲームには防衛省が関係していると考えていた。


 そう考えた理由は、ペナルティ・スナイパーだ。奴らは迷彩服めいさいふくを着ていて、ライフルを持っている。しかも人を、殺している。そんなことが出来るのは、個人とは思えない。どう考えても団体だ。しかも戦力を持っている、団体。俺の頭ではそれは、防衛省の自衛隊しか思いつかなかった。


 しかしそうなると、その目的は何だ? と考えていると、バスは停まった。いつも通りに灰色はいいろの建物に入る時、俺はあたりを見回みまわした。だがバスから灰色の建物までの道は左右に大木たいぼくが並んでいて、他の建物は見えなかった。


 しょうがない、今はゲームに集中しよう。今、俺のライフは三つだ。いつゼロになってペナルティ・スナイパーに頭を撃ち抜かれるか分からない。そう思いながら建物の入り口で黒いサングラスをかけ黒いスーツを着た男にIDカードを見せて、中に入った。


 そこには先にバスを降りた、彩華さんと景和がいた。俺が二人に声をかけようとすると、二人は戸惑とまどった表情をしていた。

「誰なんでしょうね、あの人?……」

「やたらとテンションが、高いんですが……。高すぎてちょっと、引くんですが……」


 俺が二人の視線しせんの先を追うと、テーブルの一番右に髪がセミロングの女が座っていた。

「やったー! マシンガンが使える! 第二回戦では、苦労させられたからねー。よし、今回の武器は、マシンガンにしよう!」


 俺はその様子を見て、ちょっとムカついた。

「てめえ! 何、喜んで武器を選んでるんだよ! そんなに人を殺してえのかよ?!」


 するとその女は振り返って、俺を見た。少し、キレているようだ。

「はあ? 何、あんた? 一億円のためだったら、何だってするわよ。人くらい、殺すわよ」

「くっ、てめえ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る