第二十話  第二回戦 終了

 食べ終わった頃、景和けいわからLINEがきた。

『『スコーピオン』をダウンロードしてみたんですけど、これって五人対五人で戦うじゃないですか。修吾しゅうごさんと一緒に、戦いたいんですが……』


 なるほど。確かにそうだ。俺も一緒に戦った方が景和にアドバイスができるな、と考えた時、ふと思った。彩華あやかさんも一緒にプレイした方が、いいんじゃないかと。


 俺が彩華さんにLINEで、俺と景和と一緒に『スコーピオン』をプレイしないかと提案すると、すぐに返事が返ってきた。

『あ、それ、良いですね。私も『スコーピオン』をダウンロードするので、ちょっと待ってください』


 十分ほどすると彩華さんから、準備ができたとLINEがきた。それで俺と彩華さんと景和がログインして待っていると、見知みしらぬプレーヤーが二人ログインしてきたので五人のチームを組んだ。


 俺は武器はライフルを選んで、彩華さんと景和はピストルを選んでプレイしてみた。初めは彩華さんと景和は、ダメダメだった。このゲームではライフが減っても、ペナルティ・スナイパーにたれる訳ではない。更にピストルは射程距離が短いので、敵キャラと接近して撃たなければならない。なので二人はゲームが始まると、ひたすら敵キャラに突っ込んでいきダメージを受けまくった。


 だが俺が、建物にかくれながら敵キャラに見つからないように接近してから攻撃した方がいい、とアドバイスすると二人のプレイは変わった。建物に隠れながら敵キャラに接近して攻撃し、敵キャラに反撃されても建物のかげに隠れてダメージを受けないようになった。


 そうして敵キャラを倒していくと、彩華さんと景和にもゴールドがたまった。景和はライフルを買ってプレイするようになったが、彩華さんはピストルのままだった。『アーツ』でもピストルを使い続けたいから、ピストルの使い方を練習したいとのことだった。一方、景和は、射程距離が長いライフルは便利だ、敵キャラを離れたところから攻撃できると喜んでいた。『アーツ』でもライフルを使ってみたいと、言い出した。


 取りあえず俺は、一安心ひとあんしんした。彩華さんと景和の戦い方が、上手うまくなったからだ。これで『アーツ』でも二人は、戦力になるだろう。『スコーピオン』での訓練は、彩華さんの大学と景和の仕事が終わってから毎日、続けた。金曜日の夜まで続けた。


 金曜日の夜の『スコーピオン』の訓練が終わると、俺は二人にLINEで聞いてみた。

『明日の土曜日はどうする? 明日なら景和の会社も彩華さんの大学も、休みだと思うけど。だから丸一日まるいちにち、訓練できると思うけど?』


 すると景和は、ことわった。

『いや、僕は止めておきます。昼は会社で働いて夜は訓練するのに、疲れてしまって……。だから明日は本番の日曜日にそなえて丸一日、休もうと思います』


 俺は、それもそうだな、そうした方が良いかも知れないなと思い賛成した。彩華さんも、やはり明日は休みたいとのことだった。俺はやはり、ずっと訓練ばかりしてきたから日曜日に備えて休んだ方が良いかも知れないと答えた。それにもう俺は、二人は『スコーピオン』で訓練する必要は無いかもな、とも考えていた。


 すると彩華さんは、明日は妹のお見舞みまいに行きたいと切り出した。妹を見舞って、何が何でも優勝賞金の一億円を手に入れる決意をしたいと。俺はふと、俺もお見舞いに行きたいと提案してみた。単純に彩華さんの妹がどんな人か、興味があったからだ。すると彩華さんは、あっさりとOKしてくれた。


 土曜日の朝、俺と彩華さんは、彩華さんの妹さんが入院している世田谷区の病院で待ち合わせた。彩華さんはグレーのワンピースを着ていて、大人っぽく見えた。俺と彩華さんが妹さんの個室に行くと、妹さんはベットで上半身を起こしていた。美人の彩華さんとは違い可愛かわいらしい顔立ちで入院生活が長いせいか、透き通るような白い肌をしていた。そして病人とは思えない、見るものを明るくさせる表情に俺は、驚いた。


 そして妹さんのテンションは、一気に上がった。

「え? 誰? お姉ちゃんの彼氏? 名前は? お仕事は何を?」


 俺は妹さんのテンションにされながらも、答えた。

「えーと、俺は北村きたむら修吾っていいます。大学四年生です。お姉さんとの関係は……」


 俺が、どう説明したらいいかと考えていると、彩華さんは笑顔であっさりと答えた。

「修吾さんは、私のナイトさんなの。うふふ」


 すると妹さんのテンションが、さらに上がった。

「え? ナイトさん? それって、どういうこと? ねえ、教えて、教えてー!」


 さすがにデスゲームのことは言えないでいると、妹さんはダダをこねた。

「ねえ、お姉ちゃん! いつものオレンジジュース、買ってきて、三本! 何も出さないなんて、修吾さんに失礼だよ~」


 彩華さんは小さなため息をつくと、俺に目で合図をして病室から出て行った。俺ももちろん、デスゲームのことを話すつもりは無かった。


 すると妹さんはベットに座ったまま、頭を下げた。

「修吾さん! お姉ちゃんをまもってあげてください!」


 俺は意表いひょうかれて何も言えなかったが、妹さんは続けた。

「お姉ちゃんは、いえ、お姉ちゃんだけじゃない、パパもママも無理してるの。私がガンになっちゃったから……」


 俺は素直に、うなづいた。

「そうだね……」

「だからもう無理はしないように、お姉ちゃんを護ってください! 修吾さん、いえナイトさん!」


 妹さんの目には、涙が浮かんでいた。今までも彩華さんが無理をしてきたことを、知っているんだろう。そして今も……。


 俺は苦手な笑顔を作り、そしてあらためて彩華さんを護る決意をして頷いた。

「ああ、まかせてくれよ。なんたって俺は、彩華さんのナイトだからな!」


 それから三人でオレンジジュースを飲みながら、雑談ざつだんした。

 俺は彩華さんと、妹さんの病室を出ると言ってしまった。

「良かったよ。妹さん、結構、元気そうで」


 すると彩華さんは、歩きながら答えた。

「でもあの子、今の高額こうがくな治療を受け続けないと、もうもたないの。それに新しい治療法が見つかるまで、生きなきゃならないの」


 俺はなぜ彩華さんたちが、がんばっているのか、分かったような気がした。あの妹さんの笑顔を護りたいからだ。でも大丈夫。彩華さんは安心して妹さんを護ってくれ。その彩華さんは、俺が護るから。


 そして第三回戦が始まる、日曜日の朝になった。俺は妹さんのためにも、彩華さんだけは護らなければならなかったのだが……。

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