第十九話

 すると彩華あやかさんは、また微笑ほほえんだ。

「それじゃあ私たちは、他人じゃいられませんね?」


 あ、そうだなと思った俺は、彩華さんに告げた。

「彩華さん、俺と付き合ってくれ! 俺はナイトになって一生、彩華さんをまもる!」


 すると彩華さんは、真剣な表情で答えた。

「告白してくれて、ありがとう。でもこの返事は、ゲームが終わってからにしますね」


 しかし彩華さんのうるんだ目を見つめていると、返事は『はい』だと俺にも分かった。だから俺は彩華さんに、キスをした。彩華さんはそれを、こばまなかった。それどころか両手を、俺の背中に回した。俺はこの流れのままに、彩華さんを抱いた。


   ●


 次の日の朝。ベットで目を覚ました俺は、あせった。昨日きのうの夜のことを、全て思い出したからだ。やべー、正式に付き合ってないのに、やっちゃったよ……。俺は何のとりえもない男だが、女と金については、ちゃんとしていた。借金をしたことも無いし、どんなに好みの女でもその場の雰囲気でやったことは無かった。ちゃんと付き合ってから、やった。それなのに昨日の夜は……。


 と俺が悩んでいると、キッチンにいる彩華さんから声をかけられた。

「あ、起きたんですね。おはようございます」


 俺は思わずベットの上で、正座せいざした。

「あ、こちらこそ、おはようございます……」

 しかも敬語になっていた。


 すると彩華さんは、笑顔で続けた。

「冷蔵庫を見てみたんですけど、あまり食材が無くて。でも卵があったので、目玉焼きを作ってみました。あと食パンがあったので、食べますか?」


 俺はまたしても、敬語で答えた。

「ありがとうございます。俺はいつも、そんな感じの朝食を食べます。食パンをフライパンで焼いたりして」

「あ、なるほど。それは良いですね」と彩華さんはフライパンに、食パンを入れた。


 き、気まずい……。こういう時、どうしたらいいんだ……。俺は取りあえず、聞いてみた。

「あ、あのー、彩華さん……。昨日の夜は、ここにとまったんですか?」


 俺はそう聞いてしまってから、後悔こうかいした。ダメだー! 今、一番、聞いてはイケないことを聞いてしまったーー!!


 だが彩華さんは、笑顔で答えた。

「はい、そうですよ。取りあえずねむる前に同居どうきょしている親に、今夜は友達の家に泊まると電話しました」


 と、友達……。そうだよな、まだ付き合っていなから、友達だよな。俺はその友達と……。


 そして、ふと思った俺は、聞いてみた。

「え、えーと、彩華さんは、親と同居しているんですか?」

「はい、そうですよ。一人暮らしするとその分、お金がかかっちゃいますから。そのかかるお金を、妹の治療費に使いたいですから」


 しまったーー!! 墓穴ぼけつを掘ってしまったーー!! ガンの妹の話は、雰囲気が暗くなるーー!!


 と俺が落ち込んでいると、彩華さんはガラステーブルの上に皿をせた。皿には食パンと目玉焼きが載っていた。


 そして、微笑んだ。

「それじゃあ私も一緒に、いただきますね。私のナイトさん」


 俺は『ナイト』というその一言で、まよいが吹き飛んだ。

「ああ、いいよ、食べてくれ。そしてゲームに勝とう! そして付き合おう!」


 彩華さんはやはり、笑顔で答えた。

「はい!」


 朝食が終わると彩華さんは、これから大学に行くと言って俺のアパートから出て行った。まだ、卒業論文そつぎょうろんぶんができていないからだそうだ。俺は命がかかったゲームで頭がいっぱいで卒業論文のことなんて考えられなかったから、彩華さんはしっかりしてるなあと感心した。


 それから俺はノートパソコンを立ち上げ、『スコーピオン』にログインした。もう、俺が生き残るだけじゃダメだ。彩華さんも護らないと。だから『アーツ』に似ている『スコーピオン』で、もっと訓練したいと思った。


 そして画面を見てみると、またゴールドがたまっていた。俺はそれで、今度はマシンガンを買ってみた。『アーツ』では、マシンガンを持っている敵キャラが現れた。すると『アーツ』でも、マシンガンを使えるようになる可能性がある。もし『スコーピオン』でマシンガンを使ってみてライフルよりも有利なら、『アーツ』でも使ってみようと考えた。


 だが、ダメだった。確かにマシンガンは、ライフルよりも連射れんしゃのスピードが速い。だが射程距離しゃていきょりが短く、敵キャラの近くで戦わなくてはならない。俺のキャラは敵キャラの攻撃を、ガンガンらった。ライフルの射程距離にれた俺には、使いにくい武器だった。それに気づいた時はもう夕方で、腹が減った俺は体力が付く納豆なっとう卵かけご飯を食べた。

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