第十八話

 彩華あやかさんはやはり、笑顔で答えた。

「実は私はもう商社から内定をもらっているんですが、OLの給料はやっぱり安いじゃないですか? でも妹のガンの治療ちりょうには、多くのお金が必要なんです。なのでうまく行ったら、妹の治療費の全額を払えるかなって思ったんです……」


 すると景和けいわが、会話に割り込んできた。

「へー、そうなんですか。僕は今、一人きりです。なので一生、一人で生きていこうと思って、そのお金を手に入れるためにゲームに参加しました。まさかこんなことになるとは、思いませんでしたが」


 そういえばと思って俺は、彩華さんに聞いてみた。

「彩華さんは人を殺すことを、どう思ってんの?」


 彩華さんは真剣な表情で、答えた。

「うーん、やっぱり、しょうがないかなあって思ってます。父も母も働いて妹の治療費をかせいでいるんですけど全然、足りないんです。

 だから私は人を殺してでも、妹の治療費を手に入れたいと思っています……」


 そうか。彩華さんも、背負っているモノがあるんだな……。それに比べて俺は就職先が決まらないという、二人に比べれば軽い気持ちでゲームに参加した……。


 そう思うと、やりきれなくなった。そのやりきれなさから、俺はジョッキでビールを三杯飲んだ。もともと酒に強くない俺は、見事にっぱらった。

「くそー! こうなったら、優勝してやるー! 何人なんにん殺そうが、優勝して一億円を手に入れてやるー!」


 すると彩華さんも景和も、今日はこれくらいで飲みは終わった方が良いと考えたようだ。飲み代は割りかんにして居酒屋の外に出て、俺たちはLINEで連絡をできるようにしたが、俺はまだれていた。

「くそー! ちくしょうー!」


 そんな俺を二人は、心配そうに見つめた。

「彩華さん。修吾しゅうごさんは、大丈夫でしょうか?……」

「あまり大丈夫そうじゃ、ないですね……」


 すると彩華さんが、聞いてきた。

「修吾さん。修吾さんは、どこに住んでいますか?」


 俺は、わめいた。

「俺かー! 俺は立川たちかわに住んでんだー! 文句あっかー?!」


 景和は、やれやれという表情で彩華さんに告げた。

「ダメですね、これは……。どちらかが、送りましょう」

「そうですね……」

「僕は板橋区に住んでいるんですが、彩華さんはどちらに?」

「私は世田谷区です」

「そうですか……。どっちも遠いですね……」


 すると彩華さんは、ひょうひょうと告げた。

「いいです、私が修吾さんを送ります」

「え? それは僕が助かりますが、彩華さんは大変じゃないですか?」


 彩華さんは、笑顔で答えた。

「いいんですよ、今日は修吾さんに助けてもらったので。私のナイトさんに……」

「はあ、そうですか。でもそこまで言うのなら、お願いします。おやすみなさい」

「はい。おやすみなさい」


 景和と別れた俺と彩華さんは、下りの中央線に乗った。俺は電車の中でも、「ちくしょうー! ちくしょうー!」と喚いた。そのたびに彩華さんは周りの乗客に、「すみません、すみません」と頭を下げた。やっと立川駅に着いた時には完全に日が落ち、星がほとんど見えない東京の空になっていた。


 俺は彩華さんにアパートまでの道順を聞かれて、そして彩華さんに連れられてやっとアパートまでたどり着いた。

「修吾さん、かぎは持っていますか?」


 俺はふらふらしながら、ジーパンのポケットから鍵を取り出した。そしてドアを開けると、彩華さんと一緒に部屋に入った。彩華さんは「あら。結構けっこう、片付いている部屋ですねえ」とつぶやいた。俺はやはりふらふらしながらも、ベットに倒れこんだ。


 それを見た彩華さんは、やっと安心したようだった。

「それじゃあ、私はこれで。おやすみなさい」


 と部屋から出ようとした彩華さんに、俺は上半身を起こして告げた。酔いは少しめていて、俺は彩華さんの切れ長の目を見つめていた。

「彩華さん。俺は彩華さんのナイトだから、いつまでもまもり続けるよ」


 彩華さんは「ふふっ」と微笑ほほえんだ後、聞いてきた。

「それは、このゲームが終わってからも、ということですか?」


 俺はまだ、彩華さんの目を見つめていた。

「ああ。その通りだ」


 すると彩華さんは、その目をせた。

「それはダメですよ。私にはガンにかかった妹がいるって、言ったでしょう? なので修吾さんに負担ふたんをかけることになります……」


 俺はベットから立ち上がり、彩華さんの両肩をつかんだ。

「いいんだ、それでいいんだ!」


 彩華さんは、不思議そうな表情で聞いてきた。

「え? どうしてですか?」


 俺は本心を答えた。俺の中から、止めようとしても止まらない言葉が出てきた。

「俺は今まで、ただ何となく生きてきた。でもショックを受けた。重い荷物を背負っても、懸命けんめいに生きている彩華さんや景和を見て。

 彩華さん、俺に生きる目的をくれ。彩華さんのナイトになって、彩華さんを護るという目的をくれ!」

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