第十七話

 まだ午後四時ごろだったので、店はガラガラだった。俺は少し、安心した。今はあまり、人と関わりたくなかったからだ。


 四人掛よにんがけのテーブルに俺と彩華あやかさんが並んで座ると、正面に景和けいわが座った。


 そしてテーブルに置いてある、タッチパネルを操作しだした。

「えーと、取りあえず生ビールでいいですよね?」


 すると彩華さんは、うなづいた。

「はい。それでいいです」


 更に景和は、俺に確認を取った。

修吾しゅうごさんさんも生ビールで、いいですよね?」


 俺は思わず、怒鳴どなった。

「ふざけんな! 人を殺した後に、酒なんか飲めるか?!」


 すると女性店員が、何ごとかとこちらを振り向いた。

 俺は頭を抱えて、続けた。

「お前らに人を殺した俺の気持ちが、分かんのか?!」


 すると景和と彩華さんは、あっさりと頷いた。

「分かりますよ。僕は一回戦で、二人殺しましたから」

「すると私は、三人ということになります」


 俺は信じられないと思い、再び怒鳴った。

「じゃあ、なんでそんなに平気そうなんだよ?!」


 景和は少し考えてから、答えた。

「ひょっとしたら、そうじゃないかと思ったんですよ。第一回戦が終わった時に。

 ああ、敵キャラも多分、人間のプレーヤーが操作してて、頭を撃ち抜かれたんだろうなあって……」


 俺は、唖然あぜんとした。だが聞かない訳には、いかなかった。

「それじゃあまた人を殺すために、第二回戦に参加したのか?!」


 景和は冷静に、答えた。

「まあ、そういうことになるかも知れませんね。大体、第二回戦に参加しなかったら、僕の頭が撃ち抜かれますから」


 俺は、何も答えられなかった。確かに第一回戦が終わった後、『れる』は告げた。第二回戦に参加しなかったら敵前逃亡てきぜんとうぼうとみなして、その人物の頭をペナルティ・スナイパーが撃ち抜くと。

 でも、だからって……。


 すると景和は、俺の目をまっすぐに見つめて告げた。

「修吾さん、人は死にますよ?」


 そして景和は、自分の過去を語った。景和の両親は、景和がまだ小学校低学年の時に悪質なドライバーにあおられて事故を起こして死んだ。それから景和は、児童養護施設じどうようごしせつで暮らした。


 世界の理不尽りふじんさに傷つきながら。一瞬にして優しかった両親と幸せを奪われた、世界の理不尽さに傷つきながら。そして高校を卒業すると、今、働いている会社に入社して三年がつと。


 俺は景和の過去を聞いて、何も言えなかった。こいつはそんな、壮絶そうぜつな人生を生きてきたのか。俺は今まで何の苦労もせず、ただただ生きてきた……。


 だから自分がずかしくなった俺は、景和を茶化ちゃかすことしかできなかった。

「っていうことはお前は、二十一歳?! 童顔どうがんなのに?!」


 すると景和は、何ごともなかったように微笑ほほえんだ。

「童顔は止めてくださいよ。気にしてるんですから」

「でも安心したー! これから未成年者が生ビールを飲むのかと思ったー!」


 それを聞いた景和は、微笑みながら聞いてきた。

「そういえば修吾さんは、何歳なんですか?」

「お、俺か? 俺は二十二歳だ。大学四年生だよ」


 すると景和は、おどけた。

「へー、そうなんですか。修吾さんは大人おとなびた顔つきだから、三十歳ぐらいだと思ってましたよ」


 俺は思わず、ツッコんだ。

「誰が三十歳だ?! 俺はまだピチピチの二十代だ!」


 すると景和は、声を上げて笑った。俺は少し、『ほっ』とした。この理不尽な世の中で、景和が笑ってくれたからだ。


 すると彩華さんが、会話に入ってきた。

「え? そうなんですか? それじゃあ、私と同じです。私も二十二歳で、大学四年生です」


 あ、そうなのか。彩華さんも二十二歳で大学四年生なんだ、と思いながら俺は言った。

「まー、見た目通りの年齢だな……」


 すると彩華さんは、ほほふくらませた。

「えー、それって喜んでもいいんですか?!」


 それでも目が笑っている彩華さんを見て、ちょっと怒った顔をも可愛いなと思いつつ俺は疑問を聞いてみた。

「そういえば彩華さんはどうして、このゲームに参加したんだ? お金に困っているようには、見えないけど……」


 すると彩華さんは、笑顔で答えた。

「はい。私には十六歳の妹がいるんですが、ガンなんです」


 俺は意外な答えに、驚いた。

「え?!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る