第十六話

 俺はふと、左側を見た。すると二人の男も、立ち上がっていた。良かった、今回は誰も死なずにんだようだ。


 そして俺は、彩華あやかさんを見つめた。今ならイケる! 彩華さんをデートに誘うなら、今だ! 


 すると黒いスーツと黒いサングラスをした男が近づいてきて、俺に封筒ふうとうを渡した。俺が何だろうと思って中身を出してみると、それはおびがされた札束さつたばだった。


 俺はまさかと思って、聞いてみた。

「お、おい、これは?……」


 すると男は、表情を変えずに答えた。

「はい、百万円です。受け取ってください」


 や、やっぱりと思った俺は、こおどりした。ひゃ、百万?! いいの? まだ二回戦で勝っただけなのに、百万円もらっていいの? よし、決まりだ。この百万円で彩華さんと、豪華ごうかなデートだ!


 だが俺は、ふと、気になった。百万円をもらったのは、俺だけだったからだ。

 俺は、『れる』に聞いてみた。

「おーい、『れる』ー! どうして俺だけ、百万円をもらえたんだ?」


 すると『れる』の陽気な声がかえってきた。

「はーい! それはあなたが、からでーす!

 なのでそれは、特別ボーナスでーす!」


 俺は、わけが分からなかった。は? 俺が六人を殺した? 何、言ってんだ、こいつ。俺が殺したといえば小学校低学年の時、友達とふざけてアリをみ殺しただけだ。いや、まてよ、もしかすると……。


 俺は嫌な予感を、『れる』にぶつけた。

「おい、まさか、敵キャラの『ENEMY』も、他のキャラが操作そうさしてんじゃねえだろーな?!

 俺がライフをゼロにして倒したから、そいつらはペナルティ・スナイパーに頭を撃ち抜かれたんじゃねえだろうな?!」


 するとやはり、『れる』は陽気に答えた。

「はーい! その通りでーす! 敵キャラの『ENEMY』のプレーヤーは、他の場所でこのゲームをしていまーす!」


 俺は嫌な予感が当たって、呆然ぼうぜんとした。

 そして次の瞬間、百万円が入った封筒を床にたたきつけた。

「ふざけんな! どこの世界に人を殺して金がもらえるゲームがあるんだよ?!」


 するとゲーム会場は、しばらく静まり返った。

 だが『れる』が、その沈黙ちんもくをやぶった。

「それではあなたは、その百万円を受け取らないんですか?」


 俺は百万円が入った封筒を、みつけた。

「当り前だ!」


 そして俺は、具合が悪くなった。俺が人を殺した? それも六人も? 俺は思わず、自分の両手を見た。俺の両手が人の血で、真っ赤にまったような気がしたからだ。


 すると『れる』は、今までの陽気な声ではなく、低い声で聞いてきた。

「あなたのお名前を、教えてください」


 俺は、キレながら叫んだ。

「ああ?! 俺の名前?! 俺の名前は北村修吾きたむらしゅうごだ! 文句あっか?!」


 すると『れる』はまた、低い声でつぶやいた。

「北村修吾さん……。おぼえておきます、あなたの名前は……」


 そしてしばらくすると、『れる』は再び陽気な声で告げた。

「はーい! それでは怪我けがをされた方は、医務室で治療を受けてください!

 来週の日曜日、第三回戦でまたお会いしましょう! さよーならー!」


 俺が呆然としていると、彩華さんが声をかけてきた。

「大丈夫? 修吾さん……」


 俺は力なく、答えた。

「いや、あんまり大丈夫じゃない……。それよりも彩華さん、知ってたか? 敵キャラの『ENEMY』にもプレーヤーがいたって?」


 彩華さんは、首をった。

「いいえ、今、知ったわ。私は敵キャラの『ENEMY』は、普通のゲームのようにコンピューターだと思っていたわ……」

「ああ、俺も、そう思っていた……」 


 すると彩華さんは、気丈きじょう振舞ふるまった。

「とにかく修吾さんは右脚を撃たれたんだから、治療してもらいましょう」

「ああ……」


 そして彩華さんに肩をしてもらい、俺は治療室で治療を受けた。そしてバスに乗って、東京駅の駅前に降ろされた。


 一緒に降りた景和けいわと彩華さんは、元気だった。

「あー、良かったー! 僕はまだ、生きてるー!」

「ふふ、本当ね」


 だが俺は六人を殺したショックから、まだ立ち直れないでいた。

 すると景和は、提案した。

「ちょっと時間が早いですけど、飲みに行きませんか?」


 彩華さんは、あっさりと同意した。

「いいですね、行きましょう。もちろん修吾さんも、行きますよね?」

 俺はまだ、呆然としていた。だが無理やり二人にうながされ、居酒屋に連れていかれた。

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