第二十二話

 明らかに俺と女の雰囲気ふんいきが悪くなったので、彩華あやかさんと景和けいわが間に入った。

「ちょっと、修吾しゅうごさん! 落ち着いて!」

「そうですよ、この人にも何か事情じじょうがあるんですよ、きっと。一億円が必要な事情が」


 するとその女は、夢見るような表情で語った。

「当り前じゃない! 一億円よ、一億円! 一億円があったら、ブランド品のバックが買いたい放題だわ! それに服に指輪に……」


 俺は、すっかりあきれた。

「はあ、もういいよ……。好きにしろ……」


 だが彩華さんと景和は、女に話しかけた。

「ねえ、あなた。私たちと仲間にならない?」

「そうですよ! 仲間はいた方が、いいですよ!」


 女は少し、考え込んだ。

「仲間ねえ……。まあ、強い仲間なら、いた方が良いわね。ちょっと聞くけど、あんたたちのライフは、今いくつ?」


 彩華さんと景和は、答えた。

「私は、三つです」

「僕は、四つです」


 すると女は、ため息をついた。

「はあ?! あんなヌルい一回戦と二回戦で、ライフを減らしてんの? ダメダメ、そんな弱い奴とは仲間になれないわ。ちなみに私のライフは、五つのままよ!」


 それを聞いた景和は、ちょっとくやしかったのだろう、言い返した。

「確かに僕は弱いかも知れませんが、修吾さんは強いです! 何てったって第二回戦では、たった一人で六人全員を倒したんですから!」


 すると女は、目を見開みひらいた。

「え? 第二回戦で、六人全員を倒したって……。まさかそれなのに、百万円の特別ボーナスをもらわなかったやつなの?!」


 俺は一応、答えた。

「ああ、そうだ。それがどうか、したか?」


 すると女は、俺の足から頭のてっぺん、両腕までながめた。

「へー、あんたがねえ……。ウワサには聞いてるわ。特別ボーナスの百万円をもらわなかった、バカがいるって」


 俺は当然、キレた。

「何だよ、バカって?! じゃあお前だったら百万円を、もらってたのかよ?!」


 女は、真剣な表情で答えた。

「当り前じゃない。十万円だって一万円だって、もらってたわよ」


 俺は更に、キレた。

「お前は人を殺してまで、金が欲しいのか?!」


 女はやはり、真剣な表情で答えた。

「当り前じゃない。いい? この世は、お金が全てなの。お金が無い奴は、生きていけないの」


 俺は反論はんろんしようと思ったが、女があまりに真剣な表情をするので出来なかった。

「くっ……」


 すると女の真剣な表情が、少しやわらいだ。

「でもまあ、いいか。仲間になっても。私は第二回戦では、五人しか倒せなかったからね。ボスは倒したけど」


 俺はこの女の強さに、少し寒気さむけがした。第二回戦で、五人倒した? しかもボスも? なのにライフは一つも減ってないだと?!

 俺は、聞かずにはいられなかった。

「お前、一体、何者だ?……」


 すると女は、当り前のことを言う表所で答えた。

「え? アタシ? アタシはただの、『スコーピオン』の国内ランキングの一位ですけど?」


 俺は予想外よそうがいの答えに、おどろいた。

「い、一位?! 『スコーピオン』の国内ランキングの一位?!」


 女は、めんどくさそうに答えた。

「だから、そう言ってるじゃない」


 俺は、その言葉を疑わなかった。『スコーピオン』というFPSでは、敵を倒せば倒すほどランキングが上がる。俺もこのゲームのために、『スコーピオン』で特訓した。その結果、国内ランキングのトップテンに入ることができた。だが最高順位は、六位だった。当然だ。一位から五位までは、倒した敵の数のけたが違っていたからだ。それなのに一位……。


 俺はだまって、女を見つめた。だがそれなら、納得できる。『スコーピオン』とこのゲームは、似ている。『スコーピオン』の国内ランキングの一位なら、第二回戦でボスも含めて五人倒すことも出来るだろう。それもライフを、一つも減らさずに……。


 すると女は、俺に心をゆるしたような笑顔で聞いてきた。

「あんたの名前は?」


 俺は少し動揺どうようしながらも、答えた。

「あ? 俺? 俺は北村きたむら修吾だ。それがどうかしたか?」


 女は笑顔のまま、答えた。

「アタシは桜井さくらい伊留美いるみ。あんたとなら、仲間になってあげる。ヨロシク」


 だが俺は、キッパリと答えた。

「ダメだ。仲間になるんなら、彩華さんと景和とも仲間になれ」


 すると今度は、伊留美がキッパリと答えた。

「ダメ。それはことわる」

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