第二十三話

 俺は疑問に思って、聞いた。

「どうしてだ?」


 すると伊留美いるみは大きなため息をついて、答えた。

「いい? この手のゲームでこわいのは、強い敵じゃないわ。足をる、弱い味方なの! 弱い奴を仲間にするくらいなら、一人で戦ったほうがマシだわ!」


 俺は思わず、沈黙ちんもくした。確かに、そうかも知れない……。

 すると、『れる』の陽気ようきな声が会場にひびわたった。

「はーい、皆さん、こんにちはー! そろそろ第三回戦を始めるので、準備じゅんびをしてくださーい!」


 くっ、もうすぐゲームが始まる。こいつと言い合いをしている、場合じゃない! 


 俺はデスクトップパソコンが置かれているテーブルの、真ん中のパイプ椅子いすに座るとIDカードをパソコンに差し込んだ。すると画面右上にライフが三つと表示され、画面下には四つの武器のアイコンが表示された。


 ナイフとピストルとライフルと、マシンガン。俺は取りあえずマシンガンのアイコンをクリックした。すると『相手に五発、当てるとライフを一つ減らすことが出来る。弾数だんすう200』と表示された。


 なるほど。第二回戦のボスが使っていたマシンガンと、一緒にようだ。俺はステージのボスが使った武器が、次のステージで使えるようになるのではないかと予想してみた。すると、いやな予感がした。おそらくこのステージにも、ボスが出る。しかもマシンガンよりも、強力な武器を持って。くっ、一体、どんな武器を持って出てくるんだ?……。


 だがそれを考えていても、仕方しかたがない。俺はおそらく射程距離が短いだろうと思われるマシンガンではなく、やはりライフルを武器に選んだ。


 さて、ゲームが始まる……。できれば伊留美としっかり仲間になっておきたかったが、仕方がない。俺は右隣みぎどなりのパイプ椅子に座った彩華あやかさんを、ちらりと見た。すると彩華さんと、目が合った。彩華さんは、小さく微笑ほほえんだ。


 この第三回戦で死ぬかもしれないという恐怖きょうふと、それでも俺がまもってくれるだろうという安心感が混ざったような微笑みだった。


 俺は今度は左隣ひだりどなりを見てみると、景和けいわと目が合った。俺たちは何も言わずに、うなづきあった。左側の一番端いちばんはしには、第二回戦で見たことがある男がいた。第二回戦で一緒いっしょに戦った、もう一人の男はどうしたんだろうと考えていると、『れる』の声が響き渡った。


「ここで一つ、残念なお知らせがありまーす! このゲームに参加していることは他人に言ってはいけないと言ったのに、警察けいさつに相談した人がいましたー! もちろんその方は、ペナルティ・スナイパーに頭をかれましたー! 私は悲しいです、ぴえん。それでは勇敢ゆうかんにもこの場に集まってくれた方々、第三回戦を始めまーす! ゲーム、スタート!」


 くっ、おそらく警察に相談してペナルティ・スナイパーに頭を撃ち抜かれたのが、ここにいないもう一人の男だろう。だから伊留美がこのグループに、うつされたんだろう。くそっ、相変あいかわらずのクソゲーだぜ。だが俺が、このクソゲーをクリアしてやる!


 と気合を入れたはずの俺は、固まった。パソコンの画面を見てみると、灰色の壁が続いている。どこだ、ここは? このステージの場所が、理解できなかったからだ。第一回戦のステージは、ガレキがい。そして第二回戦のステージは、ジャングルだった。おそらく第三回戦も今までと違うステージだと思っていたが、ここは?……。


 俺は、取りあえず俺のキャラを真っすぐに歩かせた。すると、T字路じろにぶつかった。左右の通路を見てみたが、どちらも長く続いていた。ここはおそらく、建物の中だ。しかし、普通のビルじゃない。壁を見てみると『兵士待機室へいしたいきしつ』、『弾薬庫だんやくこ』などのパネルがられていたからだ。


 しかも壁が金属製のようだ。ところどころに、茶色いサビがある。普通のビルなら、コンクリート製のはずだ。なるほど、ここはおそらく敵の攻撃にもえられるように頑丈がんじょうに建てられた、基地きちの中だと予想よそうした。


 そう予想した時、俺は命の危険を感じた。マズイ! ここでは第二回戦のように、敵キャラよりも高い位置から攻撃することが出来ない!


 俺は取りあえず俺のキャラを、T字路を右に曲がらせた。すると壁に突き当たり、また通路が真っすぐに伸びていた。くっ、やはりここは、だ。敵キャラより高い位置から敵キャラの位置を把握はあくして、攻撃することができない!


 しかも敵キャラに接近されて攻撃されたらマズイ! 遠くから攻撃できるという、ライフルの長所をかせない! 下手へたをするとこの第三回戦から使えるようになったマシンガンに、いいように攻撃される!


 俺は、この第三回戦で殺されるのではないかという、恐怖と戦った。落ち着け、まずは落ち着け。今、俺がするべきことは何だ? 下手をすると敵キャラから、集中攻撃されるこの状況じょうきょうで! 俺は取りあえず、深呼吸をした。するといくらか、心臓の鼓動こどうが落ち着いた。


 そして結論を出した。まずは仲間と、合流ごうりゅうすることが先だ。この第三回戦でも、やはり第二回戦と同じように味方のキャラと敵キャラは、ランダムに配置はいちされたようだ。ならやることは一つ。仲間と合流して、敵キャラよりも人数的に有利になることだ!


 俺は俺のキャラを、灰色の通路を慎重しんちょうに進ませた。すると前方に、右に行ける通路が見えた。取り合えず右にキャラを曲がらせようと思った時、女のはしゃいだ声が聞こえた。

「きゃはははは! まずは一人、殺しいいいい! さあ、どんどん行くわよおおおお!」


 俺は一番右に座っている、伊留美を見た。伊留美は右手で、ガッツポーズをしていた。もう、一人、倒したのか……。さすが『スコーピオン』で国内ランキングの一位、そしてまだライフを一つも減らしていない奴の実力か……。

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