第四十五話

 すると戦車の大砲たいほうが向けられているのに、伊留美いるみのキャラの動きが止まった。伊留美は、つぶやいた。

「しまった、マシンガンのたまが切れた……」


 俺たちは戦車の大砲から逃げる時も、逃げながら攻撃を続けた。だがそれが、裏目うらめに出てしまった。伊留美は、叫んだ。

「ちくしょう! もう少しで戦車をたおせたはずなのに!」


 すると伊留美のキャラに、戦車の大砲が向けられた。俺は、叫んだ。

「危ない、伊留美! 逃げろ!」


 だが次の瞬間、伊留美のキャラの前に景和けいわのキャラが立った。そして景和のキャラは戦車の大砲をらって、消滅しょうめつした。伊留美は、叫んだ。

「景和! アンタ、どうして?!」


 すると景和は、呟いた。

「だって好きな女の子は、まもりたいじゃないですか……」


 そして、微笑ほほえんだ。微笑んだまま景和は、後頭部をたれた。そしてパソコンのキーボードに、倒れた。すると伊留美は席から立ち上がり、景和の席に走って景和にしがみついた。

「景和! しっかりして、景和!」


 それを見た俺は、叫んだ。

「戻れ、伊留美! 今すぐ、戻れ!」


 自分の席から離れると敵前逃亡てきぜんとうぼうになって、ペナルティ・スナイパーに頭を撃ちかれるからだ。だが伊留美は、うえを見上げた。あきらめの表情で。


「ごめん、お父さん……。賞金しょうきんの一億円が手に入ったらお父さんの会社の借金しゃっきんを返そうと思ったんだけど、こんなアタシを好きになってくれた景和を一人にはできないわ。ごめんね……」


 そして伊留美は、頭を撃ち抜かれた。俺は、叫んだ。

「伊留美ーー!!」


 くっ、まさか、あの伊留美がやられるなんて……。俺はつい、呆然ぼうぜんとしてしまった。そして戦車の大砲が俺のキャラをねらっていることに、気付かなかった。


 気付いた時には俺のキャラの前に、彩華あやかさんのキャラが立っていた。そして彩華さんのキャラは、大砲を喰らった。俺は、聞くことしかできなかった。

「彩華さん、どうして?! どうして?!」


 すると彩華さんは、答えた。優しい声で。

修吾しゅうごさん。あなたは、死んではいけない人。私を護るナイトになるって言ってくれたこともうれしかったし、第二回戦で六人全員をあやめてもらえる特別ボーナスの百万円も、もらわなかった。ただただ、人を殺めたことを後悔こうかいしていた。そんな人は、そうはいないわ。だから修吾さん、あなたはこんなところで死んではいけないの……」


 そして彩華さんは、頭を撃ち抜かれた。俺は、考えていた。ど、どうして彩華さんまで、殺されなきゃならないんだ?……。これで生き残ったのは、俺一人になってしまった……。


 だが手が、勝手に動いていた。俺は無意識に俺のキャラを操作そうさして、戦車の大砲の攻撃をかわしていた。きっと、本能ほんのうでは分かっていたんだろう。俺が今するべきことは仲間の、愛する人の死をいたむことじゃない。このクソゲーを、終わらせることだと。


 決して人が死ぬことにれすぎて、悲しむことを忘れた訳じゃない。だから次の瞬間、俺のキャラは戦車を攻撃していた。

『ドウ、ドウ、ドウ、ドウ、ドウ……』


 だが戦車を、倒せなかった。くそっ、攻撃力が高いバズーカ砲なら倒せるが、ライフルじゃ倒すのはキツイか……。すると戦車の大砲が俺のキャラを向いたので、俺は俺のキャラを移動させて攻撃をかわした。


 かわしながら、考えた。どうすれば戦車を倒せる? 考えろ、考えろ!

すると一つ、思いついた。ライフルでも、大ダメージを与えられるんじゃないかと。俺は戦車の大砲の発射口はっしゃこうを、攻撃した。

『ドウ、ドウ、ドウ、ドウ、ドウ……』


 すると戦車は、消滅した。やっぱりな。戦車の大砲の発射口から内部を攻撃すれば大ダメージを与えられると考えたが、この考えは正しかったようだ。俺は、えた。

「残りは戦車一台だ! 俺がこのクソゲーを終わらせる!」


 そして俺のキャラは、戦車の大砲の発射口を攻撃した。

『ドウ、ドウ……』


 するとパソコンの画面に、変化が起きた。両手でかまえていたライフルが消えて、右手にナイフをにぎっている画面になった。俺は当然、混乱こんらんした。何だ? どうした? そしてパソコンの画面をよく見ると、気付いた。


 ライフルの弾数だんすうが、0になっていた。くそっ、弾切れか!  

 それで初期装備しょきそうびのナイフに武器が、もどったようだ。


 動きが止まった俺のキャラに、戦車は大砲を向けた。俺は俺のキャラを移動させて大砲をかわしながら、考えた。くそっ、どうする、どうする? 

すると、思い出した。このゲームの、第一回戦を。


 第一回戦では、自分のキャラを選ぶところから始まった。迷彩服めいさいふくを着た、成人男女と少年少女からキャラを選ぶ。次は、武器を選ぶ。初期装備はナイフだが、ピストルも選ぶことができた。


 ならばと思い、俺はピストルのアイコンをクリックしてみた。するとパソコンの画面は、両手でピストルを構えた画面に変化した。俺は、一安心ひとあんしんした。やはりナイフより、ピストルの方がマシだと思ったからだ。だが、不安もあった。ピストルでどうやって、戦車を倒す?……。 


 すると、ひらめいた。これだ、これにけるしかない! 俺は、俺のキャラを戦車の下部にせた。するとしばらくは、戦車は俺のキャラを載せたまま移動した。そして上部の大砲部分を、回転させた。どうやら俺のキャラを、探しているようだ。こい、こい、と俺はいのった。


 すると、ついにきた。戦車の上部のハッチが開き、敵キャラが出てきた。戦車を操縦して俺のキャラが見つからなかったから直接、俺のキャラを探しているんだろう。俺は敵キャラに、ピストルを向けた。


 だが敵キャラの姿を見て、俺はためらった。敵キャラの姿が、少年だったからだ。な、こ、子供?……。俺は、考えてみた。この敵キャラのプレイヤーは、少年なのか。


 おそらく、その可能性は高い。みんな、自分の状態と同じキャラを選んでいたからだ。つまり、俺と景和と建太けんたは成人男性のキャラを、彩華さんと伊留美は成人女性のキャラを選んで使っていた。

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