第四十六話  決勝戦 終了

 そして俺は、思い出した。第一回戦が始まる時、東京駅でこの会場にくるためにならんでいた人々の姿を。そこには、老若男女ろうにゃくなんにょの姿があった。


 つまり、少年少女の姿もあった。だからおそらくこの敵キャラのプレイヤーは、少年だろう……。


 だが俺は、ピストルをった。悪いが、死んでもらう。でも俺が必ず、このクソゲーを終わらせるからな。

『パン、パン、パン、パン、パン……』


 すると少年の姿と共に、戦車は消滅しょうめつした。そしてパソコンの画面に、『ステージ クリアー』の文字が表示された。終わったか……、と思い俺はイスから立ち上がりまわりを見回みまわした。


 建太けんた景和けいわ伊留美いるみ、そして彩華あやかさんの死体が確認できた。みんな、頭を撃ちかれていた。おそらく、即死そくしだったろう。


 せめて、苦しまずに死んだのか。俺には喜びも、悲しみの感情もかなかった。皆の、仲間の死体を、抱きしめることもしなかった。彩華さんの死体さえも。俺には、やることがあったからだ。すると『れる』の、陽気ようきな声が会場にひびいた。


「おめでとうございます、北村きたむら修吾しゅうごさん! あなたの優勝です!」


 それを聞いた俺は、言ってみた。

「そうか。なら優勝賞金の、一億円をくれよ。『れる』、お前の姿を見せて」


 すると『れる』は、答えた。

「はい、はーい! 今、行きますよー!」


 少しすると会場の入り口から軍服ぐんぷくを着て、こしまで伸びた黒髪と大きな目が特徴的な可愛かわいい女が現れた。『れる』は俺に近寄ちかよってきて、笑顔で挨拶あいさつをしてきた。

「はーい! 私が、『れる』でーす! こうやって会うのは、初めてですね!」


「そうだな」と答えた俺はズボンのポケットからスマホを取り出して、『れる』に向けた。すると『れる』は、不思議そうな表情をした。

「え? 何ですか、それは? ひょっとして私と電話番号の交換こうかんをしたいとか?」


 俺は、冷静にげた。

「もちろんまだ、やったことは無いが、おそらくこのスマホでも人は殺せる……」


 それを聞いた『れる』は、興味深きょうみぶかそうな表情になった。

「へえー、どうやってですか?」


 俺は、真剣しんけんに答えた。まず、このスマホの側面そくめんでお前の首の横をえぐる。このスマホは刃物はもののようにうすくはないが、首をえぐることはできるだろう。それくらいは、薄い。そうすれば出血多量しゅっけつたりょうで、お前を殺すことができる。『れる』はやはり、笑顔でうなづいた。

「なるほど、なるほど」


 そして俺は、付け加えた。それに、このスマホはかたい。つまり、鈍器どんきになるってことだ。鈍器でお前の頭を何度もなぐれば、やはりお前を殺せるだろう、と。だがやはり『れる』は、笑顔だった。

「なるほど、なるほど、確かに。つまりあなたは、この私を殺したいんですか?」


 俺は、怒鳴どなった。今までしずんでいた感情が、一気に爆発した。

「殺されたくなかったら、言えってことだよ! このゲームの目的、考えたヤツ、実行したヤツ、全部だ! ことわったら今すぐお前を殺す!」


 だが『れる』は、冷静だった。

「もし私を殺したら、優勝賞金の一億円が手に入らなくなるかも知れませんよ?」


 俺は再び、怒鳴った。

「そんなもんは、どうでもいい! 今すぐ話せ、全部話せ!」


 俺は、本気だった。もし『れる』が、『優勝賞金の一億円は渡すが、ゲームについては何も話さない』と答えたら『れる』を殺す気だった。そしてこの建物から出て、このゲームについて知っているヤツを見つけて、殺すつもりでこのゲームについて聞くつもりだった。


 だから俺は、かまえた。スマホをにぎっている右手を引き、左手を前に差し出した。『れる』が答えなかったら、俺のスマホで『れる』の首の横をえぐる。もしよけられたら後ろから『れる』の首を左腕でめて動きをふうじて、スマホで頭を殴り殺す。


 俺の本気が伝わったのだろう、『れる』も真剣な表情になった。だが同時に、余裕よゆうも感じられた。軍服を着ていることからも『れる』は、おそらく軍人ぐんじんだろう。


 そして体術たいじゅつなどの、格闘技かくとうぎも出来るだろう。だからもし俺が『れる』を殺そうとしても、かわせる。そういう余裕が感じられた。


 俺が『れる』を殺そうとおそえば逆に、俺は『れる』に殺されるかも知れない。だがそれでも俺は、『れる』を殺すつもりだった。もしこのゲームについて、何も答えないと言ったら。俺はもう一度、聞いた。

「話せ、全てを……」


 すると『れる』は、微笑ほほえんで答えた。

「分かりました。それでは北村修吾さん、あなたにすべてをお話します。さあ私に、ついてきてください」


 そして『れる』はり向き、会場の出口におどるような足取あしどりで向かった。もちろん俺も、ついて行った。

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