ゲームの正体

第四十七話

 俺は『れる』のあとをついて、会場から出た。するといつも通る、左右に木がえられているまわりが見えない道に出た。『れる』は無言でその道を通り、俺たちがこの会場にくる時に乗ってきたバスに乗った。


 少しするとバスが移動して、木が植えられている道から出ることができた。すると『れる』も、バスから降りた。おそらくバスの運転手に、バスを移動するように命じたのだろう。とにかく俺は、初めて見た。このゲームが行われた会場の、外の景色けしきを。


 俺が灰色はいいろの建物を見ていると、『れる』は聞いてきた。

「どうですか? ここはあなたが予想よそうした通りの場所ですか、北村きたむら修吾しゅうごさん?」


 俺は、答えた。

「ああ。俺の、予想通りだ……」


 そうだ、ここは神奈川県横須賀市にある、防衛大学校ぼうえいだいがっこうだ。ネットの画像で、何度も見た。俺は東京駅からバスで約一時間移動することから、ここは埼玉県、茨城県、千葉県、神奈川県のどこかだと考えた。


 そしてこのゲームには、自衛隊じえいたいがからんでいると考えた。理由は、ペナルティ・スナイパーだ。日本で迷彩服めいさいふくを着てライフルを持っているなんて、自衛隊しか思いつかなかった。更に俺は自衛隊の中で、陸上自衛隊に目を付けた。


 理由はやはり、ペナルティ・スナイパーだ。海上自衛隊や航空自衛隊がライフルを持つことは、俺には想像できなかったからだ。

 そして俺は埼玉県、茨城県、千葉県、神奈川県の陸上自衛隊が関係する施設を調べた。


 まずは陸上自衛隊が駐屯ちゅうとんする、駐屯地だ。埼玉県には、朝霞あさか駐屯地がある。茨城県には百里ももり駐屯地、霞ケ浦かすみがうら駐屯地、土浦つちうら駐屯地がある。千葉県には習志野ならしの駐屯地、下志津しもしづ駐屯地、松戸まつど駐屯地、木更津きさらづ駐屯地がある。神奈川県には座間ざま駐屯地、横浜よこはま駐屯地、武山たけやま駐屯地、久里浜くりはま駐屯地がある。


 だがどれも、ピンとこなかった。俺の予想は、最初から間違っていたのか?……。


 だが、見つけた。神奈川県に、防衛大学校があった。これだ、これに間違いない! と俺は考えた。俺たちのような戦闘の素人しろうとが集まる場所として、学校ほどふさわしい場所は無い。そうすると、このゲームの目的は……。


 そう考えていると『れる』が防衛大学校に入っていったので、俺も後に続いた。そして上部に、『来賓室らいひんしつ』と書かれたパネルがある部屋の前で止まった。そしてそのドアを、ノックした。

「失礼します! 『れる』陸曹長りくそうちょうです!」


 すると部屋の中から、返事がした。

「うむ、入ってくれ」


 『れる』はドアを開けて中に入り、一礼いちれいした。

「ゲーム、『アーツ』の優勝者、北村修吾を連れてきました!」


 俺も部屋の中に入ると、恰幅かっぷくのいい男が答えた。

「うむ、ごくろう」


 俺はその男の顔を、見つめた。こいつ、どっかで見たことがあるな……。そしてもう一人の、せて冷酷れいこくみをかべている男がいることに気づいた。うーん、こいつは全然、見たことが無い……。すると『れる』は恰幅のいい男と、冷酷な笑みを浮かべている男の二人を紹介した。

「こちらは、鞍馬くらま防衛大臣。そしてもう一人は、春海はるみ大臣補佐官ほさかんです」


 鞍馬は「うむ」とうなづき、春海は右手を軽く上げた。なるほど、防衛大臣か。そういえばテレビのニュースで、見たことがある。すると鞍馬は、きびしい表情でげた。

「まずはゲームの優勝、おめでとうと言わせてもらおう」


 俺はその言葉に、イラついた。

「何が、おめでとうだ?! このゲームで一体、何人死んだと思ってるんだ?!」


 すると鞍馬は、厳しい表情のまま答えた。

「九十九人じゃ。このゲームには百人に参加してもらったが、生き残ったのは君、ただ一人だけじゃ……」


 くっ、九十九人だと……。俺は鞍馬の両肩をみ、えた。

「教えろ! このゲームの目的を教えろ! あんたなら、何もかも知ってるだろ?!」


 すると春海が、不快ふかいな笑顔を見せて聞いてきた。

「あなたにはもう、予想よそうがついているんじゃないですか、このゲームの目的が。ねえ、北村修吾君?」


 ねばっこい、いやな言い方だった。だが俺は、考えた。鞍馬の肩から両手を放して、春海をにらみつけて答えた。このゲームの目的はおそらく、自衛隊員を増やすことだ。


 最近は日本の人口が減って一億人を切って、そして自衛隊員の数も減っているからな。だが、ただ人を集めるだけじゃ、ダメだ。自衛隊員の、適性てきせいを調べなければならない。それがこのゲームの目的だろ? 

 更に優勝して自衛隊員の適性があると認められれば、すぐに防衛大学校に入学させて自衛隊員として教育しようとしている。違うか?!


 すると春海は、やはり不快な笑顔を見せて答えた。

「うーん、しいですね。いい線をいっているんですが、肝心かんじんなところが分かってない。君はニュースを、見ないのかい?」


 俺は、疑問に思いながらも聞いた。

「ニュース? 何のニュースだ?!」

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