第八話

 だが俺は、気をかなかった。五人目の敵キャラがいるはずだからだ。俺は俺のキャラに屋上おくじょうを一周させて敵キャラをさがしたが、見つからなかった。また、攻撃もされなかった。五人目の敵キャラは、俺のキャラと相当そうとうはなれた場所にいるらしい。俺は少し危険だが、俺のキャラを地上に下ろして敵キャラを探すことにした。街の中を歩かせていると、ふと気づいた。敵キャラも見つからないが、味方のキャラも見つからない。ひょっとして五人目の敵キャラに全員やられたのか? と嫌な予感がした。


 俺は慎重しんちょうに、俺のキャラを前進させた。すると突然、ダメージを受けた。どこだ? どこから攻撃してきた? と俺はマウスを操作して敵キャラを探した。すると弾丸のあとは、頭上にあった。俺は思わず、舌打したうちした。ヤバい。攻撃してきた敵キャラを操作しているプレイヤーも、頭上からの攻撃が有利だと分かっていると思われたからだ。


 俺はSボタンを押して、俺のキャラを後退させた。すると敵キャラが再び攻撃してきたので、敵キャラがいる建物が分かった。俺はマウスを操作して、敵キャラがいる建物よりも高い建物を探した。すると運よく右側に敵キャラがいる建物よりも高い、建物を見つけた。俺はすぐに俺のキャラに、その建物を上らせた。


 そして屋上まで上らせて、敵キャラを探した。だが俺はあせった。敵キャラがいるはずの建物の屋上に、敵キャラがいなかったからだ。俺は混乱こんらんした。バカな、確かにあの建物の屋上から敵キャラは攻撃してきたはずなのに……。少し考えていると、嫌な予感がした。まさか!


 俺は俺のキャラを屋上のはしに行かせ、地上を見た。すると敵キャラは、地上を移動していた。しかもその先には、俺のキャラがいる建物よりも高い建物があった。マズイ。このままここにいたら敵キャラは、俺のキャラよりも高い位置から攻撃してくるに違いない。


 俺は急いで俺のキャラを建物から下ろした。そして地上に下りると敵キャラがいるはずの建物よりも、高い建物を探した。だが敵キャラはそのすきをついて、建物の屋上から地上にいる俺のキャラを攻撃してきた。俺は更に焦った。このままでは、負ける……。


 だが、ふと考えた。このゲームでは、負けたっていい。このゲームではライフがゼロになって負けても、頭をち抜かれることは無い。それよりもこの『スコーピオン』というゲームをプレイして分かったが、『アーツ』は間違いなくこのゲームを参考にして作られている。だからこのゲームをやりこんで、このゲームで勝つためのコツを見つけた方が良い。


 このゲームでは負けても殺されることは無い……。あらためてそれを確認すると、気分が楽になった。そして考えた。このゲームで勝つコツを。俺はまずマウスを操作して、周りを見回みまわした。


 このゲームの舞台ぶたいは、近未来の世界だと思われる。地面は舗装ほそうされた道路で、高さが違うカラフルな建物が多く建っている。上るには、建物の中央にある階段を使う。だが建物には壁があるので、上り下りしている時に攻撃される心配はない。だが建物をよく観察してみると、壁が無い建物もあった。こんな建物を上り下りするのは危険だな……、と思っていると、ある考えが浮かんだ。そうか! これならイケるかも知れない!


 俺はまず壁が無い建物に、俺のキャラを途中まで上らせた。そして地上に意識を集中した。待て、待つんだ。そうすれば敵キャラは必ず、現れるはず……。そして五分くらいった時、地上に敵キャラが現れた。やはりな! いくら待っても建物の屋上に俺のキャラが現れないから、地上で俺のキャラを探すために下りてくると思ったぜ! 俺はマウスで敵キャラをライフルでねらうと、左クリックを連打した。


「うおおおお!」


 そして敵キャラに、大ダメージを与えた。すると敵キャラのプレーヤーも、同じことを考えたようだ。壁の無い建物に向かった。そして建物に上り俺のキャラと同じ高さになったら、攻撃するつもりだろう。だが、それは良くない。なぜなら俺のキャラは敵キャラが上ってくる、壁が無い建物の階段をすでにライフルで狙っていたからだ。俺はすでに、待ちせしていたからだ。そして階段を上ってきた敵キャラに俺は再び、ライフルを撃ちまくった。そしてようやく、五人目の敵キャラを倒すことができた。


 そして俺は、このゲームのコツをつかんだ。このゲームでは武器がライフルの場合、相手よりも高い位置から攻撃する方が有利だ。それは何も、建物の屋上から地上の敵キャラを攻撃することではない。ほんの少しでも相手よりも高い位置にいれば、それで十分だ。そしてこのコツはあのクソゲーの、『アーツ』でも使えるはずだ。それが分かった俺は一旦いったん、『スコーピオン』からログアウトした。


 時刻はもう午後四時で、日がかたむきかけていた。オレンジ色にまる雲をながめていると、やっとゲームのコツをつかんだ喜びが体の奥からいてきた。それと同時に、腹が減っていることに気づいた。いつものようにコンビニでカップラーメンとおにぎりを買って食べようと一瞬考えたが、止めた。そんな物を食べても、体力は付かない。


 次のゲームが始まる日曜日まで、まだ時間がある。それまで俺は『スコーピオン』をやりこんで、もっとこのゲームにれる必要がある。そのためには、体力を付けなければならない。だから俺はスーパーで、牛丼を買ってきて食べた。それから明日に備えて、ベットで寝た。


 次の日、朝起きて朝食を食べると俺は当然のように、『スコーピオン』にログインしていた。第二回戦が始まるまでこの『スコーピオン』で、特訓するためだ。もちろんバイトも大学も休んだ。


 バイト先のコンビニの店長には直接、電話をした。

『すみません、店長。実はちょっと脚を怪我けがしてしまって、しばらくバイトには行けません』


 すると店長に、はげまされた。

『そうか、それは仕方しかたないな。お大事だいじに。早く怪我を治してくれ。今、人手不足だから北村君に休まれるのは正直、痛い。だから怪我が治ったら、また働いてくれないか?』

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