第九話  第一回戦 終了

 俺は少し、考えてしまった。もし俺がゲームで殺されたら、もちろんもうバイトには行けない。でもそんなことは店長には、言えなかった。『れる』に『このゲームのことは、誰にも言わないように』と言われたのを、思い出したからだ。もし誰かに言えば、おそらく俺の頭は撃ち抜かれるだろう。


 そして下手へたをすると、話をした人にも危険がおよぶかも知れない。俺は大学一年の時からコンビニでバイトをしていて、店長には世話せわになっていた。コンビニのバイトなんて全然したことが無かった俺にも、店長は優しく仕事を教えてくれた。


 レジ打ちでミスをした時も、『ああ、最初はみんな、そういうミスをするんだよ』と、ミスをしない打ち方を教えてくれた。バイトに遅刻した時も、『まあ大学生だから、勉強も大事だよね。でもあまり遅刻はしないでくれよ?』と微笑ほほえんでいた。友達と遊ぶ予定が入りシフトをずらしてもらえませんかと頼むと、『いいよ、楽しんでおいて。でも次のシフトは深夜の時間帯にさせてもらうよ』と笑っていた。そんな多くの世話になり、また優しい店長に危険が及ぶようなマネはしたくない。


 だから俺は、ウソをついた。

「もちろんです。ケガが治ったら、また絶対バイトに行きます」


 バイトに行かなければ当然、仕送しおくり以外の収入は無くなる。俺は仕送りで授業料を払い、生活費をバイトでかせいでいた。でも四年間バイトをしたおかげで、少しだが貯金があった。それを使えば当分は、バイトをしなくてむ。


 そして大学は、休んだ。まだ単位を取らなければ卒業できない科目かもくがあったり、卒業論文そつぎょうろんぶんも書かなければならないが、そんなことをしている場合ではない。俺は今ゲームオーバーになったら殺される、デスゲームに参加しているからだ。


 俺は『スコーピオン』では、武器はライフルを選んだ。肝心かんじんのデスゲーム、『アーツ』ではナイフとピストルしか使えなかった。だが『アーツ』が『スコーピオン』を参考にしていると思われる以上、『アーツ』でもナイフとピストル以外の武器を使えるようになる可能性がある。そうなった時、ピストルよりも有利な武器であるライフルに徹底的にれておくことは必要なことだと考えたからだ。


 俺は『スコーピオン』の中でライフルを有効に使うため、敵キャラよりも少し高い位置で敵キャラを探して攻撃する、という作戦で戦い続けた。『スコーピオン』では敵キャラを多く倒せば、ゲームの中のランキングが上がる仕組しくみになっていた。土曜日まで戦い続けた俺は国内ランキングで、トップテンに入っていた。めし風呂ふろとわずかな睡眠すいみん以外はほとんど『スコーピオン』をやっていたので、結果が出てうれしかった。


 これは食事に気を使ったことも、影響しただろう。ゲームで勝つには、スタミナと集中力が必要だ。俺はネットでスタミナをつける食べ物と、集中力を高める食べ物を探した。その結果スタミナをつけるには鉄分が必要で、それを含むのは納豆や卵だと知ると夕食はカップラーメンではなく納豆卵かけご飯を食べた。また集中力を高めるにはブドウとうが良いと知ると、それを含むバナナを昼に食べた。


 そして俺は自信を持った。これで日曜日に行われるゲームの第二回戦でも、敵キャラに攻撃されることなく敵キャラを倒せるだろうと。第一回戦のように敵キャラと戦うこともせずに、ただ逃げ回ることにはならないだろう。そしていつの間にかあしのケガも完治していた。良いことが続いたので、俺は楽観的になった。第二回戦は、楽勝じゃないかと。


 気が付くと俺は、俺の明るい未来を暗示あんじするように煌々こうこうと輝く月が浮かぶ夜中にも関わらず、カーテンを開けた。そして心の中で叫んだ。くるならこい、ペナルティ・スナイパー! 俺は逃げねえ、俺は第二回戦に参加する! そして絶対に勝ち残る!


 だが日曜日の第二回戦は俺にとって、地獄じごくだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る