第二回戦 ステージ:ジャングル

第十話

 春海はるみは冷静に、鞍馬くらまに報告した。

「……という訳で第一回戦の脱落者だつらくしゃ、つまり死者数は四十七人です、鞍馬防衛大臣」


 鞍馬は目をせて、告げた。

「そうか……。それでは計画通りに、その四十七人の銀行口座に一千万円の『しょうじゅつ金』を振り込んでくれ」


『賞じゅつ金』とは、自衛官が公務中に死亡した場合に支払われる弔慰金ちょういきんである。


 春海は再び冷静に、鞍馬に敬礼けいれいした。

「はっ! 了解しました!」


 そして一礼いちれいして、大臣室から出て行った。


 鞍馬はそれを見届けると、涙を流した。部下の前で泣く訳にはいかなかったので今、涙を流した。


 そしてゆっくりとしずむ夕日を窓からながめ、つぶやいた。

「はあ、皮肉ひにくなものじゃな……。自国民じこくみんを四十七人も殺したわしと違って、美しい夕日じゃ……」


 美しい夕日を見続けるのが苦しくなったのか、窓に背を向けて再び呟いた。

「こうなることは、覚悟していたんじゃが……。すまん、今は、こうするしかないんじゃ……」


   ●


 日曜日。俺は再び東京駅の駅前からバスに乗り約一時間後、グレーの建物の前にいた。俺は、またきた。この、殺されるかもしれない戦場に……。だが今回は、少し自信があった。この建物の中の会場で行われるゲームで使われる、『アーツ』によく似たゲーム、『スコーピオン』でたっぷり訓練したからだ。その結果、『スコーピオン』の国内ランキングで、トップテンにも入っていたからだ。


 俺が建物に入ると、黒いスーツと黒いサングラスの男が告げた。

「IDカードを、見せてください」


 俺は無言で『56』と書かれた、IDカードを見せた。俺はこいつらに、不信感を持っていた。ライフがゼロになってゲームオーバーになると、平気で人を殺すこのゲームを運営している奴らの一員だからだ。そう考えると俺は、イライラしてきた。


 だが男は、そんな俺の不信感とイライラを無視して告げた。

「『56』番の方ですね。どうぞ奥に、進んでください」


 俺はやはり無言で、奥に進んだ。するとそこに、見覚えがある人物がいた。先週の第一回戦で俺の代わりに戦ってくれた、男と女だった。


 女は俺に気づくと、軽く微笑ほほえんでくれた。それで俺のゲームを運営している奴らへの不信感とイライラは、消えた。俺は美人に弱いからだ。俺は、ショートカットで目鼻立めはなだちが整っていて特にながの目が特徴の美人に、夢中になった。俺は取りあえず、この美人の名前を知りたいと思った。だけど、どうやって聞こうか。この美人は真面目そうだから、ナンパのような話し方はきっとダメだ。


 そして十秒間考え抜いて俺は、美人に声をかけた。

「やあ、お姫様ひめさま。先週はありがとう、助かったよ。でも今日はまかせてくれ。俺が君をまもるよ。君には借りがある。だから俺が君というお姫様を護る、ナイトになるよ。

 で、よかったらお姫様の名前を教えてくれないかな?」


 するとその美人は、キョトンとしてしまった。そして笑い出した。

「何ですかそれ? ナンパのつもりですか? アハハ!」


 俺は真面目な表情もいいが、笑顔もいいなあと思ったが気づいた。これじゃあ、ダメじゃん!


 すると気が済むまで笑ったような美人は、聞いてきた。

「私の名前を教えてもいいですけど、一つ条件があります」


 俺はこの流れを壊したくなくて、慎重しんちょうに聞いた。

「何でしょうか、お姫様?」


 美人は、微笑んだ。

「あなたの名前を、先に教えてください」


 何だ、そんなことか、と思った俺は答えた。

「俺、いや、私の名前は北村修吾きたむらしゅうごです。お姫様」


 すると美人は、また微笑んだ。

「そうですか……。ねえ、修吾さんって呼んでもいいかしら?」


 俺は丁寧ていねいに、答えた。

「もちろんです。私はあなたを護る、ナイトです。お好きなように、お呼びください」


 すると美人は、名前を教えてくれた。

「私の名前は、星乃彩華ほしのあやかです。私のナイトさん」


 俺は丁寧に、頭を下げた。

「分かりました、彩華様」


 すると彩華さんは、大笑いした。

「もうダメですよー。いつまでこんなの、続けるつもりですか?」

 そして笑いすぎて出た涙を、ぬぐった。


 彩華さんから名前を聞き出し、彩華さんと少ししたしくなれた俺は、それで満足した。

「そうだな、彩華さん」


 俺は女性にちょっと苦手なところがあり、今まで付き合ってきた彼女にも名前に『さん』を付けていた。


 すると彩華さんは、自然な笑顔を見せた。

「それじゃあ、よろしくお願いします。修吾さん」

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