第三十四話

 俺は建太けんたにこのゲームに参加した理由を思い出させて、やる気、いや生きようとする力を取り戻して欲しかった。そうでなければこのゲームには、生き残れないからだ。少し待っていると、建太は話し出した。


 建太には、七歳の娘がいる。だがこの不景気ふけいきで会社をクビになり次の仕事も見つからない建太に、建太の妻は愛想あいそうかして離婚りこんした。娘は妻が引き取った。だが建太はこのゲームで優勝して一億円を手に入れれば、また妻と娘は自分のもとに帰ってくるのではないかと考えたそうだ。


 しかし、その考えは甘かったと建太は続けた。FPSなどという、建太はやったことも無いゲームで、自信を無くした。建太のキャラのライフが残り一つとは言え、今まで生き残ったのが不思議だという。ただ運が、良かっただけだと説明した。


 俺は、言ってみた。運だけじゃ、このゲームには生き残れないと。建太が今まで生き残ってこれたのは、心のどこかで生きびたい、娘と妻ともう一度、暮らしたいという強い願いがあったからだと。


 すると今度は、建太が俺に聞いてきた。なぜ俺が、このゲームに参加したのかと。俺は、正直に答えた。俺は今、大学四年生だが全然、内定ないていをもらえず就職しゅうしょくが決まらない。だから優勝賞金の一億円で、人生を変えるためだと。それを聞いた建太の表情は、少し柔らかくなった。そしてお前も大変だなという、同情した表情になった。


 俺は、答えた。まあ、お互い様だなと。そして二人で、笑った。だが次の瞬間、あの絶望的な発砲音はっぽうおんがした。

『ドパアン、ドパアン……』


 俺は必死にマウスを操作そうさして、敵キャラをさがした。あの音はマズイ。あの音は間違いなく、ショットガンだ。そして俺は俺のキャラの後ろに、敵キャラを見つけた。マズイ、ここは一旦いったん、逃げなければ。うかつにも俺は建太と話をしていて、敵キャラに気づかなかった。


 そのスキに敵キャラは接近してきて、ショットガンの射程距離になってしまった。建太も建太のキャラを振り向かせて、攻撃しようとした。だが、ダメだ。そのスキに敵キャラは、建太のキャラにねらいをさだめてショットガンをってきた!

『ドパアン!』


 俺は俺のキャラを、建太のキャラの前に移動させていた。次の瞬間、俺のキャラは敵キャラのショットガンを喰らい、ライフが一つ減って残り一つになった。そして当然、ペナルティ・スナイパーに右腕を撃たれた。残りのライフが無くなりゼロになれば、今度は頭を撃ち抜かれるか……、と俺は死を感じた。


 だが俺は死に対して、マヒしていた。多くの死人を見て、多くの死を身近に感じる経験をして。これじゃあ、ダメだな。俺はいつか死ぬなと、ふと考えた。そんな俺に、建太は聞いてきた。

「どうしてお前は俺のキャラを、いや俺を助けた?……」


 俺は、あっさりと答えた。

「ふん。お前のキャラのライフが残り一つで、俺が助けなきゃお前は殺されちまう! このゲームで味方を一人失うのは、イタイからな……」


 建太は感情が無い声で、答えた。

「自分の命を危険にさらして、味方をまもるか……。変わった奴だ……」


 だが俺は、言い放った。

「今、このへんには俺たちしかいない。協力しなきゃ、生き残れないぜ!」


 すると建太は、力がこもった声で答えた。

「ふん……。そうだな……」


   ●


 俺は建太に、俺が考えた作戦を伝えた。すると建太も、なるほどとうなづいてくれた。そして建太のキャラは、敵キャラからはなれた。敵キャラのショットガンの、射程距離外になるまで。そして俺も、俺のキャラを敵キャラから全力で離した。俺のキャラが持っている武器、ライフルの射程距離ギリギリまで。そして俺のキャラはライフルで、敵キャラに攻撃した。

『ドウ、ドウ、ドウ、ドウ、ドウ……』


 敵キャラにとっては攻撃をしない建太のキャラよりも、攻撃をしている俺のキャラをやっかいだと思うはずだ。そしてその予想通り、敵キャラは俺のキャラに近づいてきた。ショットガンを撃ちながら。

『ドパアン、ドパアン……』


 俺はもちろん俺のキャラを、敵キャラから逃がした。ライフルで反撃しながら。だから敵キャラは、俺のキャラを追ってくる。だがそこに、スキができた。俺は、叫んだ。

「今だ、建太!」


 建太のキャラはショットガンで、敵キャラの後ろから攻撃しだした。

『ドパアン、ドパアン……』


 その銃声に気づいた敵キャラは、振り向いて建太のキャラに反撃する。

『ドパアン、ドパアン……』


 すると今度は、俺のキャラが敵キャラの後ろから攻撃することになる。

『ドウ、ドウ、ドウ、ドウ、ドウ……』


 結局、俺たち二人にはさちにされた敵キャラは、倒れて消滅した。俺はドヤ顔で建太に言ってやった。

「な。協力すれば、生き残れるだろ」


 建太は、笑うしかなかったようだ。

「ふふ、そうだな。それにこうやって仲間と協力して敵キャラを倒したのは、初めてだ……」


 そして俺は、言い放った。

「よし、この作戦は使えるぜ! どんどん敵キャラを倒してやるぜ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る