第十二話

 俺は、素早く考えた。ゲームが始まるとおそらく、味方のキャラ、敵キャラなど関係なくステージに中にランダムに配置はいちされるのだろう。さて、どうやって二人のキャラと合流したものか、と考えていると目の前の大木に気づいた。ツタがからまっていて、南国の木のように見えた。また木々の間もツタが絡まっていた。更に南国の鳥の鳴き声だろう、『ギャアギャア』という声がした。パソコンモニターの画面から、ジャングルの熱気が伝わってくるようだった。


 俺は、思った。あーあ、この大木に登れないかな……。そうすれば敵キャラよりも高い位置にいるから、ライフルを持っている俺のキャラが有利になるのに。それにうまく行けば、彩華さんと景和のキャラを見つけることができるかもしれないのに……。


 俺は画面を見てみたが、『木に登る』ボタンなんて表示されていなかった。『はあ』、と気落ちしたが木に登ることをあきらめきれなくて、大木の周りをグルグル回ってみた。そうしていると操作ミスで、大木とぶつかった。すると何と俺のキャラは、するすると大木を登り始めた。どうやら大木の前で前進のWボタンを押すと、大木に登れるようだ。画面からライフルが無くなり、俺のキャラは五メートルほど大木を登った。そこに太い枝が左に伸びていたから、俺は俺のキャラを枝にせた。すると画面では、俺のキャラは再びライフルを構えた。


 ふむ、悪くない場所だと、俺は思った。俺はさっそく、敵キャラを探し始めた。

 すると左側を探していた時、キャラ表示を見つけた。『ENEMY』ではなく、『彩華』と頭上に表示されたキャラがいた。大木が無く、見通しが良い場所だった。俺は少しうれしくなったが、どうしようかと考えた。この大木を下りて彩華さんのキャラと合流するべきか、それともここから敵キャラを探し続けるか。そうしていると、考えている場合じゃない事態が起きた。


 彩華さんのキャラがいる場所から、『パンパン』と銃声が聞こえたからだ。そのあたりをよく見てみると、『ENEMY』と頭上に表示された敵キャラがいた。マズイ、彩華さんのキャラと敵キャラが、戦闘をしている。彩華さんのキャラのライフは、残り三つだ。下手をすると彩華さんは、このステージで殺されてしまう。俺は取りあえずライフルで五発、敵キャラに撃った。すると敵キャラは、後ろにのけぞった。これがライフが一つ減った、アクションだろう。これで敵キャラのライフは、一つ減ったはずだ。


 すると敵キャラは、こっちに移動しながら銃を撃ってきた。俺は俺のキャラを素早く枝の上を移動させ、大木のかげかくした。くっ。俺のキャラと敵キャラとの間には距離があるが、それでも弾丸が届くということは、あの敵キャラが持っている武器はライフルに違いない。だが今は、俺の方が有利だ。俺のキャラはこの大木に隠れて攻撃を防ぐことができるが、敵キャラと彩華さんのキャラがいる場所は草原で隠れる場所がない。俺は敵キャラを、ライフルで撃った。撃たれた敵キャラは逃げたが、隠れる所が無い。俺のキャラは、そのままライフルを撃ちまくった。『ドウ、ドウ、ドウ、ドウ、ドウ……』


 うーむ、やはりライフルは連射ができないからきついな、と思いながらも一人目の敵キャラを倒した。すると敵キャラは、あっという間に消滅しょうめつした。ふむ、やはりこれは、普通のゲームなんだな。敵キャラを倒すと、敵キャラは消える。死体は残らない。それに納得した俺は、大木から下りた。


 そして彩華さんのキャラがいる場所へ移動すると、彩華さんのキャラと合流できた。俺は敵キャラを警戒して正面の画面を見つめたまま、右側のパイプ椅子に座っている彩華さんに声をかけた。

「大丈夫か、彩華さん? 敵キャラに攻撃されて、ライフは減ってないか?」


 すると彩華さんも正面の画面を見つめたまま、答えた。

「はい、大丈夫です。修吾さんが、敵キャラを倒してくれたから。ありがとうございます、修吾さん」


 俺は少し照れながらも、答えた。

「彩華さんは俺がまもるって、言っただろう。俺は彩華さんの、ナイトだからな」


 すると彩華さんの、はずんだ声が聞こえた。

「ふふ、そうでしたね。これからもよろしくお願いします、私のナイトさん」


 俺は画面を見ながら、右手を突き上げた。

「おう! まかせとけ!」


 そして俺は、考え始めた。彩華さんのキャラと合流できたのはいいが、これからどうしようかと。


 すると彩華さんは、とんでもないことを提案してきた。

「ねえ、修吾さん。さっきのやり方で、敵キャラを倒していきませんか?」

「さっきのやり方?」

「はい。私のキャラが地上で敵キャラを探して、修吾さんのキャラが大木の上から敵キャラを倒すんです」


 俺は、あせった。

「バカなこと言うな! それって、彩華さんのキャラをオトリにするってことじゃないか?!」


 すると彩華さんは、冷静に答えた。

「はい。そういうことになります。でもこの作戦が有効なのは、さっき証明されたと思います」

「うう……」


 俺は、考えてみた。確かにこの作戦は、有効かもしれない。さっきはたまたま大木が無い場所だったが、ここはジャングルだ。基本的に大木が邪魔で、敵キャラを探すのが難しい。でも彩華さんのキャラのライフは、残り三つだ。彩華さんのキャラに敵キャラを探させるのは、あまりにも危険だ。敵キャラを見つけた瞬間、攻撃される可能性があるからだ。


 俺が考え込んでいると、彩華さんは切り出した。

「今は他に、有効な作戦は思いつきません。だから、こうするしかないと思うんですが……」


 俺は、考えた。どうして彩華さんはこうも、自分の身の危険を考えないんだ。思えば先週の第一回戦でも彩華さんは、ライフを二つ減らす危険をおかして戦った。このゲームの優勝賞金、一億円がそんなに欲しいのか? 俺には彩華さんが、そんなにお金に困っているようには見えないが……。

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