第四十一話  第四回戦 終了

 それから俺は、ねむった。疲れと特訓が終わった解放感かいほうかんで、昼過ひるすぎまで眠った。起きてから朝食を食べながら、考えた。これから、どうしようかと。俺たち五人の特訓は終わったが、俺一人で『スコーピオン』の特訓をするのもアリだ。


 だが、考えた。何か、違う。そしてさらに考えて、結論けつろんを出した。明日の決勝戦のために、みんなさらで集まろうと。直接ちょくせつ会って明日、がんばろうとはげまし合おうと。そのために居酒屋いざかやで飲むのは、どうだろう。俺はLINEで、皆に提案ていあんしてみた。


 すると彩華あやかさんと景和けいわは、賛成さんせいしてくれた。反対するかも知れないと思っていた伊留美いるみも『まあ、それもアリかもね』と賛成してくれた。建太けんたも同じように、賛成してくれた。だからいつもの居酒屋に、皆は集まった。


 ただし伊留美は、『ビールをジョッキで一杯いっぱい、飲んだら終わり』とクギをした。確かに、その方がいいだろう。明日のために今夜は、ゆっくり休むように。


 飲み始めるとなぜか景和は、伊留美に接近せっきんした。

「ありがとうございます、伊留美さん! 伊留美さんのおかげで僕たちは、強くなりました! これで明日の決勝戦も、勝てるような気がします!」


 伊留美はちょっと、うっとうしがっていたが答えた。

「当り前よ! だれきたえたと思っているの?! 『スコーピオン』の国内ランキングの一位の、このアタシよ! 強くなって、当然とうぜんなの!」


 すると更に、景和は聞いた。

「はい、その通りです。でも伊留美さんは、どうしてそんなに強いんですか?」


 伊留美は、少し考えてから答えた。アタシは高校を卒業して、就職しゅうしょくしたの。でも会社になじめなくて、すぐにめた。それから家にきこもって、ゲームばかりしていたの。その時、一番ハマったのが、『スコーピオン』だったの、と。


 なるほど、と景和は何度もうなづいた。気が付くと景和と伊留美は、話しんでり上がっていた。伊留美は今まで見たことが無い、笑顔を見せていた。俺は、彩華さんに聞いてみた。

「あの二人、これから付き合うんじゃないかな?」


 すると彩華さんは、微笑ほほえんだ。

「そうかも知れませんね、うふふ」


 そうして飲み会は盛り上がったが、ビールを飲み終わるとやはり終わることにした。もちろん明日の決勝戦のために、ゆっくり休むために。伊留美は立ち上がると、げた。

「それじゃあ飲み会は、これで終わり。でも最後に、やっておきたいことがあるの」


 それは何だろうと、皆は伊留美を見つめた。すると伊留美は、言い放った。

「彩華さん。あなたは優勝して一億円を手に入れて、何がしたいの?」


 それを聞いた彩華さんは、立ち上がった。

「はい! 妹の病気の、治療費ちりょうひにします。そして妹の病気を、治します!」


 彩華さんの答えに満足したようで、伊留美は今度は景和に聞いた。一億円が手に入ったら、何をしたいか。すると景和は、少し考えてからやはり立ち上がって答えた。

「えーと。僕は将来しょうらいのために、貯金をしたいと思います!」


 伊留美は、まあいいという表情で建太に聞いた。すると建太も立ち上がり、すぐに答えた。

「俺は一億円を手に入れて、妻と娘をむかえに行く……」


 そして、俺に聞いてきた。俺も少し考えてから、立ち上がって答えた。

「取りあえず一億円で、遊びたいだけ遊ぶぜ! そして俺は就職に失敗したから、会社を作るかも知れないぜ!」 


 すると伊留美は、頷いて宣言せんげんした。

「アタシも一億円が手に入ったら、ブランド品の指輪ゆびわや服を買いまくるわ! あと、くつも!」


 そして、続けた。

「いい? 明日の決勝戦は、きっと楽には勝てない。きびしい戦いになると思うわ。でも、苦しい時は思い出して。自分が何のために、このゲームに参加したのかを。優勝して一億円を手に入れて、何をしたいのかを。その思いが強い奴だけが、勝って生き残ると思うから」


 それを聞いた俺たちは、頷いた。俺は思わず、こぶしをり上げた。

「よーし、皆! 明日は、勝つぞ!」


 すると皆も、こぶしを振り上げた。

「おおー!」


 それから俺たちは会計をませて、居酒屋を出た。建太は、「それじゃあ、明日、会場でまた会おう」と歩き出した。だがその表情は、やる気と自信にちていた。


 伊留美も、「それじゃあ、また明日」と歩き出した。すると景和は、「ちょっと待ってくださいよー! 伊留美さーん!」とあとを追った。


 俺もアパートに戻ろうと思ったが、彩華さんが話しかけてきた。真剣しんけんな表情で。

「ねえ、修吾しゅうごさん。お願いがあるんですが……」


 俺は、聞いてみた。

「何だ? 彩華さん。俺は彩華さんの、ナイトだぜ。もちろん明日の決勝戦も彩華さんをまもるし、願いだって何だってかなえるぜ」


 すると彩華さんは、聞いてきた。

「明日の決勝戦が終わったら、デートしませんか?」



 俺は、もちろん答えた。

「何だ、そんなことか。もちろん、いいぜ。明日、デートしようぜ」


 そして俺は彩華さんに、最後のキスをした。

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