第二十七話

 俺はすぐに、さけんだ。

「きっと、このステージのボスキャラだ! みんな警戒けいかいしろ!」


 するとやはり、『れる』の陽気ようきな声が聞こえた。

「はーい、皆さん! このステージの、ボスキャラの登場でーす! 武器は、ショットガンでーす! 射程距離しゃていきょりは短いですけど、一度に十発撃ててピストルよりも有利なので、五発当たるとライフが一つ減ります。弾数だんすうは、200発です。それではがんばって、たおしてくださーい!」


 俺は背中に、冷汗ひやあせが流れるのを感じた。一度に十発?! そんな攻撃をらったら、あっという間にライフが一つ減るじゃねえか! ダメだ、今は取りあえず逃げるしかねえ!


 皆も同じことを考えたようで、銃声じゅうせいから離れるように自分のキャラを逃がした。伊留美いるみでさえも、自分のキャラを逃がしていた。だが確実にライフを減らす銃声は、ひびいた。

『ドパアン! ドパアン!』


 そして男の声も、響いた。

「ひいいい! た、助けてくれっ!」


 だが俺たちは、自分のキャラを逃がすことで精一杯せいいっぱいだった。そして男の声がしなくなった。俺はいや予感よかんがしながらも、男が座っている席を見た。そこにはパソコンのキーボードに倒れ込んでいる、男の姿があった。おそらくライフがゼロになって、ペナルティ・スナイパーに頭をかれたのだろう、男はピクリとも動かなかった。


 だが、同情どうじょうしている場合じゃない。一度に十発撃てる、ショットガンは強力だ。俺も、あの男のようになるかも知れない……。すると伊留美は、叫んだ。

「皆、今は逃げて! ショットガンが弾切たまぎれになるまで!」


 俺は、思わず聞いた。

「弾切れ?! どういうことだ?!」

「さっき、説明があったでしょう? ショットガンは一度に十発撃てて、弾数は200発だって! つまり、二十回しか撃てないのよ。ショットガンは確かに強力だけど、弾切れになったらこっちのものだわ。だからそれまで、逃げ切るの!」


 俺はなるほどと思い、叫んだ。

「よし、皆! ショットガンが弾切れになるまで、逃げきるんだ!」


 そして俺たちは、ショットガンを持ったボスキャラから自分のキャラを逃がし続けた。それでもボスキャラは、ショットガンを撃ち続けた。

『ドパアン! ドパアン!』


 俺は、確信かくしんした。これならイケる。ボスキャラはショットガンの威力いりょく過信かしんしているのか、考えなしに撃ちまくっている。これならすぐに二十回撃って、弾切れになる。そこを一気に攻撃すれば倒せる! 


 そして、その時がきた。ショットガンを撃つ音がんだ。俺は通路の脇道わきみちから、かくしていた自分のキャラを出した。そして慎重しんちょうに、ボスキャラを探した。すると通路の向こうに、『BOSS』と表示されたキャラがいた! 俺は試しに、ライフルを撃ってみた。

『ドウ、ドウ……』


 攻撃は確実に、ボスキャラに当たった。だがボスキャラは、反撃はんげきしてこなかった。俺は確信した。奴は弾切れだ、倒すなら今だ! そして俺は、ライフルを撃ちまくった。

『ドウ、ドウ、ドウ……』


 するとボスキャラは、一瞬いっしゅんのけぞった。よし、これで奴のライフは一つ減ったはずだ。イケる! 俺はライフルを撃ちまくった。

『ドウ、ドウ、ドウ、ドウ、ドウ……』


 ボスキャラは反撃せずに、通路を真っすぐに進んでいた。なので攻撃が当たり、また一瞬のけぞってライフを一つ減らしたようだ。俺は攻撃を続けようとしたが、ボスキャラが素早すばやくT字路で右に曲がったので、俺は取りあえず追うことにした。


 だが俺には、勝算しょうさんがあった。いくら逃げようとも、この基地内きちないから出ることは出来ないはずだ。そして隠れる所も、通路の脇道くらいしかない。奴の姿が見えなくなってもそれらを丹念たんねんに探せば、見つけられるはずだ。それに何と言っても、奴は弾切れだ。この勝負、もらった! 俺は奴を追い続けた。


 するとボスキャラはもう一度、右に曲がった。俺ももちろん自分のキャラを、右に曲げて追った。すると奴は、通路に面している部屋に入った。俺は少し、おどろいた。確かにこの基地内には、『兵士待機室へいしたいきしつ』などのパネルがられている壁があった。そこに本当に、入れるとは!


 だが、それがどうした。部屋に入ったのなら、もう逃げることは出来ないはずだ。俺ももちろん、部屋に近づいた。だがその部屋のドアの上に貼られているパネルを見て、俺は嫌な予感がした。そのパネルには、『弾薬庫だんやくこ』と書かれていたからだ。ま、まさか?!


 俺がどうしたらいいかまよっていると、ボスキャラは部屋から出てきた。嫌な予感がしていた俺は、自分のキャラを後退こうたいさせた。だがやはりボスキャラは、ショットガンを撃ってきた!

『ドパアン! ドパアン!』


 攻撃をまともに喰らった俺のキャラのライフは一つ減り、残り二つになった。それと同時に左腕に、激痛げきつうが走った。見てみると、血が流れていた。くそっ、ペナルティ・スナイパーに撃たれたか……。だが俺は、俺のキャラをこの場から逃がすことに集中した。これ以上、攻撃を喰らう訳にはいかない! 


 俺のキャラが後退して通路を曲がると、彩華あやかさんと景和けいわのキャラと出会った。俺は思わず、叫んだ。

「こっちは危険だ! ここから逃げろ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る