第三十八話

 そして次の日の、午前九時。俺たちは自分たちの家で一斉いっせいに、『スコーピオン』にログインして特訓とっくんが始まった。『スコーピオン』は通常、五人対五人で戦うので俺たちはチームを組んだ。


 更に決勝戦で使う予定の武器を、選んだ。建太けんたは『スコーピオン』でプレイするのが初めてなので武器を買う金が無かったが、伊留美いるみがバズーカほうを買って建太のキャラに渡した。


 そして伊留美の提案ていあんで俺たちは、フォーメーションを組んだ。マシンガンが武器の伊留美、ショットガンが武器の景和けいわ、ピストルが武器の彩華あやかさん三人が前衛ぜんえい、更にライフルが武器の俺が後衛こうえい、バズーカ砲が武器の建太は超後衛だ。


『スコーピオン』は『アーツ』と違ってゲームが始まると、チームを組んだプレイヤーは近くにまとまって配置はいちされる。だから俺たちはゲームが始まるとすぐに、フォーメーションを組んだ。そしてゲームが始まったが、ハッキリ言って強かった。


 相手のチームが初心者の集まりらしく、チームワークが無くバラバラだった。そこに『スコーピオン』の国内ランキングの一位の伊留美のキャラが、俺たちのキャラに一番近い敵キャラに攻撃する。すると彩華さんと景和のキャラもその敵キャラに、攻撃する。更にダメ押しで、俺のキャラもライフルで後衛から援護えんごする。


 すると集中攻撃をらった敵キャラは、あっさりとやられて消滅しょうめつした。二人目、三人目、四人目、五人目の敵キャラも俺たちの集中攻撃を喰らって、あっさりと消滅した。俺と彩華さんと景和は、楽勝で勝てて喜んだ。パソコンのマイクに向かって、感想を言い合った。

「やったぜ、俺たち、最強じゃねえか?」

「うん、そうね!」

「これなら僕たちが、優勝間違いなしですよ!」


 しかし伊留美は、ため息をついた。

「はあ、ダメね、これじゃあ。全然、特訓にならないわ……」


 俺は疑問に思って、聞いた。

「どうしてだ? 俺たちは一人もやられずに、勝てたじゃねえか?」


 すると伊留美は、またため息をついた。

「まあ、確かにね。でも、だから特訓にならないのよ。決勝戦で戦う相手が、こんなに弱いわけがないでしょう? ひょっとすると、私たちよりも強いかも知れない。初心者の集まりに勝っても全然、特訓にならないの!」


 俺は、反論はんろんできなかった。た、確かにそうだ……。すると伊留美は、続けた。

「そして一番問題なのが、建太よ!」


 俺は再び、疑問を聞いた。

「どうしてだ? 建太のキャラもやられてないぞ?」


 すると伊留美は、キッパリと答えた。

「確かにね。でも建太のキャラは、攻撃した? してないでしょう? 決勝戦では建太のキャラのバズーカ砲も、たよりにしないといけないの。そうしないと勝てないと、アタシは思う。なのに攻撃しないんじゃ、建太の特訓にならないじゃない!」


 俺は、納得なっとくした。た、確かに伊留美の言う通りだ……。でもそれなら、どうすればいいんだ? すると伊留美は、提案した。ゲームはアタシたち五人がチームを組んで始めるが、戦うのは建太だけ。武器はもちろん、バズーカ砲。建太一人で五人を倒してもらうわ、と。


 なるほど、俺たちもやった特訓か。確かにそれなら建太が戦うことになって、特訓になるだろう。そして建太一人の、特訓が始まった。


 だが建太は一回目のゲームで、あっさりと負けた。すると伊留美は、告げた。

「もう一度やれ。ゲーム開始!」


 しかし建太は再び、あっさりと負けた。すると伊留美は、聞いた。

「アンタ、どうして負けたか分かる?」


 建太は、つぶやいた。

「いや……。気づいたら、負けていた……」


 それを聞いた伊留美は、告げた。

「そう……。それじゃあもう一回、戦って」


 だが建太は、しぶった。

「いや、もういい。どうせ俺は決勝戦で、負ける……」


 すると伊留美は、怒鳴どなった。

「はあ? ふざけんな! 戦う前から負ける気でどうする! それにお前は、どうしてこのゲームに参加したんだ?!」


 すると少しして、建太は答えた。優勝賞金の一億円を手に入れれば、愛想あいそうかして出て行った妻と娘が戻ってくるかも知れないと。それを聞いて伊留美は、再び怒鳴った。

「だったらそれを、忘れるな! いいか、アタシたちが参加しているゲームは、オール、オワ、ナッシングのデスゲームだ。一億円を手に入れて願いをかなえるか、死ぬかのどっちかだ! それを忘れるな!」


 すると建太は、少しやる気になったようだ。

「分かった。もう一度、やってみる……」 


 だが俺は思わず、二人の会話にんだ。

「ちょ、伊留美! もうちょっとアドバイスをした方が、良いんじゃないか?!」


 すると伊留美は、冷静に答えた。

「いや、それはしないわ……」

「どうしてだよ?!」


 俺の疑問に伊留美は、やはり冷静に答えた。確かに今、アドバイスをすれば勝てるかも知れない。でもそれは、本当の実力じゃない。命がかかった決勝戦になったらアタシのアドバイスなんて、頭から吹っ飛ぶわ。決勝戦で役に立つのは、本当の実力だけ。自分で考えて気づいて、理解したことだけが出来るの。いざという時は、それしか出来ないの、と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る