第三十六話

 伊留美いるみは少し考えてから、答えた。バズーカほうは、射程距離しゃていきょりが長い。でも何とかして近づいて、攻撃するしかない……。近づいてしまえば人数はこっちの方が有利だから、集中攻撃してたおせると思うわ。バズーカ砲の弾数は20発だから乱射らんしゃしてくることは無いと思うけど、慎重しんちょうに近づくしかないわ、と。


 それを聞いた俺たちは、うなづいた。そして自分たちのキャラを少しづつ前進させて、ボスキャラとの距離をジリジリとちぢめた。だが同時にボスキャラもジリジリと後退こうたいして、距離をたもった。


 くっ、やはりボスキャラも、距離を縮められてからの集中攻撃を警戒けいかいしているか……。だが、ボスキャラは動いた。バズーカ砲を、ってきた!

『ドコーン、ドコーン……』


 俺たちは、もちろん自分のキャラを後退させてバズーカ砲の射程距離外に移動した。だが、違和感を感じた。何だ? キャラの動きが遅い? 気づくと俺のキャラは、また川の中に入っていた。しまった、川の中に入って、動きが遅くなったか。いや、これがボスキャラのねらいか!


 動きが遅くなった俺たちのキャラに向かって、ボスキャラは一気に距離を縮めてきた。バズーカ砲を、撃ちながら。

『ドコーン、ドコーン……』


 マズい、このままではみんな、バズーカ砲にやられる! 逃げなければ! だが川の流れに押されて、キャラの動きが遅い。くっ、どうする?! だがその時、ひらめいた。この川の中では、流れにさからうと動きが遅くなる。なら、川の流れを利用すれば?! 


 俺は、川が流れている方向に、キャラを動かしてみた。すると地上にいる時よりも、キャラを速く動かすことが出来た。これだ! 俺はさけんだ。

「皆! 川が流れている方向に、キャラを移動させろ!」


 すると皆は、俺のキャラをうように川の流れを利用して速く移動してきた。そしてバズーカ砲の射程距離外に逃げた。一安心したが、ボスキャラはまさかの行動をとった。ボスキャラも川に入って流れを利用して、速く移動してきた。


 マジか、これはヤバい! どうする、どうする、どうする?! すると、ひらめいた。よし、これにけるしかない! 俺は自分のキャラを、川から地上に移動させた。そして叫んだ。

「皆も、川から上がれ!」


 すると伊留美は、聞いてきた。

「川から上がってどうすんのよ?! 動きが遅くなってボスキャラに狙われるわ!」


 だが俺は、冷静に答えた。

「いや、狙われるのはボスキャラの方だ」

「どういうこと?!」

「川の流れを利用して移動すると、速すぎて攻撃できない。速すぎて狙いを定めることができないからだ!」

「な、なるほど!」


 そして皆は、自分たちのキャラを川から上げた。俺は、叫んだ。

「よし、これからボスキャラが流れてくる。そこを集中攻撃する!」


 皆が頷くと、ボスキャラが流れてきた。そしてバズーカ砲を、撃ってきた。

『ドコーン、ドコーン……』


 だが速く移動しながらの攻撃なので、狙いがさだまらず俺たちのキャラには当たらない。更に俺たちのキャラが待ちせをしていることに気づいて、ボスキャラは川から上がった。だが、もう遅い。ボスキャラは俺たちの武器の、射程距離に入っていた。

「撃てーっ!」


 俺たちは、ライフル、マシンガン、ショットガン、ピストルで攻撃した。

『ドウ、ドウ、ドウ、ドウ、ドウ……』

『タタタタタッ、タタタタタッ……』

『ドパアン、ドパアン……』

『パン、パン、パン、パン……』

『ドパアン、ドパアン……』


 俺たちの集中攻撃をらって、ボスキャラは何度ものけぞって倒れた。そして、消滅しょうめつした。次の瞬間、パソコンの画面に『ステージ クリアー』の文字が現れた。俺たちは、叫んだ。

「うおー! やったー!」

「きゃー! やったー!」

「うおおおお! やりましたー!」

「ふう。勝ったのね、私たち!」

「ふん、勝ったか……」


 すると『れる』の大きな声が、会場にひびいた。

「おめでとうございます、皆さん! 見事に第四回戦を勝ちきました! 次の日曜日は、いよいよ決勝戦です! がんばってください!」


 それを聞いて、俺はおどろいた。な、次が決勝戦?! だが俺たちには、自信があった。あのとんでもない攻撃力のバズーカ砲を持つ、ボスキャラを倒したからだ。俺たちなら、きっと決勝戦でも勝てる! だがふと、疑問が浮かんだ。俺はその疑問を、聞いてみた。

「なあ、『れる』。優勝賞金の一億円って、どうなるんだ? 決勝戦で勝ち残った奴らで山分けするのか?」


 するとやはり『れる』は、陽気な声で答えた。

「いいえ。このゲームでの優勝とは、勝ち残ったことを意味します。つまり五人の方が勝ち残れば、それぞれに一億円づつ差し上げます!」


 俺はそれを聞いて、やる気が出てきた。次の決勝戦で勝ち残れば、一億円が手に入る。このゲームを始めた頃は優勝なんてできないと思っていたが、あと一回勝てばいいんだ。


 俺は自分と仲間が死ななければそれでいいと思っていたが、この五人なら出来そうな気がした。誰も死なずに決勝戦で勝ち残り、皆が一億円を手に入れられそうな気がした。あと一回だ、あと一回勝てば一億円が手に入る! すると再び、『れる』の陽気な声が響いた。

「それでは次の日曜日の決勝戦まで、さよーならー!」

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