第六話

 それから十分くらいつと、女は医務室いむしつから出てきた。やはりちゃんと手当てあてをしてもらったんだろう、取りあえず一人で歩けるようになっていた。


 女は振り返ると、やはり笑顔を作って俺に告げた。

「次、どうぞ」


 俺も笑顔を作って、答えた。

「ありがとう」


 医務室に入ってみると、そこはせまい部屋だった。ベットが一つと無表情の白衣の男と、やはり無表情の看護師らしき女がいた。


 看護師らしき女に「ベットに、うつせで寝てください」と言われたので、俺は白いシーツがいてあるベットにうつ伏せになった。


 すると男の声が、聞こえた。

「ちょっと痛むだろうが、我慢がまんしてくれ」


 俺は何をされるんだろうとちょっと不安になったが、すぐに左脚のふくらはぎに激痛げきつうが走った。

「いてっ」と思わず声を出したが、激痛は一瞬で終わった。 


 男は、冷静な口調で告げた。

弾丸だんがんは取り出した。あとは止血をするから、もうちょっと待ってくれ」


 少しすると、男は言った。

「よし、止血も終わった。君、あとは頼む」


 すると女の声が、聞こえた。

「はい。それでは包帯ほうたいを巻きます。それで手当は終わりますから、もう少し待っててください」


 俺が左脚に包帯が巻かれている感覚を感じていると、女は告げた。

「はい。これで手当ては終わりです。でも二、三日は無理をしないでください」


 やはり彼らは医師と看護師なのだろう、しかも腕の良い。左脚の痛みは、だいぶやわらいだからだ。俺は建物を出るとバスに乗り、アイマスクを着けた。するとやはり三十分くらいで、東京駅に降ろされた。俺は再び中央線に乗り立川駅で降りて、自分のアパートに戻った。


 取りあえずベットに横になると、大きな後悔こうかいおそわれた。優勝賞金一億円に目がくらんで、とんでもないことに巻き込まれた。そして恐怖にも襲われた。まだ夕方前ゆうがたまえ、日の光は赤ではなく黄色だが、俺は急いでカーテンを閉めた。向かいのビルからライフルを持ったペナルティ・スナイパーに、頭をち抜かれそうな気がしたからだ。


 はっきりと『れる』は、言った。来週の日曜日の第二回戦に参加しなかったら、その人物をペナルティ・スナイパーが頭を撃ち抜くと。俺は当然、今度こそ殺されるかも知れない第二回戦には参加したくなかった。でも参加しなかったから……。


 俺は思わず壁を背に、しゃがみこんだ。そして目の前にあるテレビ、その隣にある本棚ほんだな、電子レンジ、冷蔵庫をながめた。だが良い考えは、思い浮かばなかった。ユニットバスになっている風呂ふろに入ってシャワーでも浴びようかと考えたが、そんな気になれずやっぱり止めた。


 そしてこれからどうしようかと考えたが、やはりゲームで勝ち続けるしかないと思った。それにしてもあのゲーム、どこかで見たことがあるような気が……。


 その時ふと、ゲーム会場で右隣にいた太った男の言葉を思い出した。このゲームはFPSエフピーエスだと。FPS……。俺は取りあえずスマホで、ググってみた。


 そしてFPSとはファースト・パーソン・シューティングゲームという、主人公と同じ視点で操作するシューティングゲームだということが分かった。そしてスマホの画面に多くのFPSが表示された。俺はその中に、ユーチューブの広告で見たことがあるゲームを見つけた。『スコーピオン』というゲームだ。


 詳しく調べてみると、架空かくう惑星わくせいで五人対五人の撃ち合いをするというゲームだった。俺はこれだ! と確信した。俺が見たことがあるFPSは、『スコーピオン』だと。それですぐにガラステーブルの上にあるノートパソコンを立ち上げて、『スコーピオン』をダウンロードした。ゲームを始めてみると、まず操作方法のチュートリアルが始まった。


 俺はそれをやってみて、確信した。ゲーム会場でプレイした、『アーツ』と似ている。いや、『アーツ』はこういうFPSを参考にして作られたんだと、確信した。そして考えた。このゲームで練習すれば『アーツ』という、あのとんでもないゲームで有利に戦えるんじゃないかと。俺は早速さっそく、『スコーピオン』を始めた。武器を選べるので俺は取りあえず、ピストルを選んだ。


 ゲームが始まると、俺は取りあえず前進した。ステージは近未来的な建物が立ち並ぶ、街中まちなかだった。どんどん進むと、頭上に『ENEMYエネミー』と表示された敵キャラが現れた。これも『アーツ』と同じだなと思いながら俺は、ピストルを撃ちまくった。すると敵キャラも銃を撃って、反撃してきた。すると100あった俺のライフは、どんどん減っていった。


 しかしこの『スコーピオン』はどんなに俺のキャラのライフが減ろうが、俺自身が撃たれるわけではない。だから俺は敵キャラに反撃されながらも、ピストルを撃ちまくった。だがもう一人の敵キャラが現れて、二人の敵キャラに攻撃されるとあっけなく俺のキャラは、やられた。そこで俺は、冷静になった。このゲームではどんなに攻撃されようが、俺自身が撃たれるわけではないことを再確認した。


「ふう……」と息を吐きだしもう一度、冷静になってゲームをプレイした。今度は何も考えずに前進するのではなく、建物にかくれながら前進した。すると、敵キャラが現れた。俺は取りあえず、建物の壁に隠れた。そしてどうやって敵キャラを倒そうかと考えていると後ろから敵キャラに、攻撃が始まった。味方のキャラが撃ったのだ。 


 俺は味方のキャラに攻撃されてひるんでいる敵キャラに、攻撃した。すると更に、味方のキャラがやってきた。三対一になるとやはり有利なのか、あっさりと敵キャラを倒すことができた。


 そうやって俺のキャラを含めた三人のキャラは、敵キャラを見つけると三対一の戦闘に持ち込んで次々と敵キャラを倒していった。そうして気が付くとすべての敵キャラを倒して、そのステージをクリアしていた。次のステージになって俺たち三人のキャラが攻撃を始めると残りの二人のキャラも攻撃に参加して、五人のキャラで一人の敵キャラを一斉攻撃いっせいこうげきするようになった。

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