第四回戦 ステージ:川

第三十二話

 春海はるみ銀縁ぎんぶちメガネのブリッジを右手の中指で押し上げ、微笑ほほえんでいた。

「今日も総理に、かされましたよ。『まだ戦士たちは決まらないのか?』と。私が考えたプロジェクトは完璧なので、ご安心ください、もう少しお待ちくださいと答えましたが」


 鞍馬くらまは、しぶい表情になった。

「そして総理も、急かされているか……。諸外国しょがいこくから『人的支援じんてきしえんはまだか?』と……。それだけは、難しいのに……」


「そうですね。この国は海外の紛争時ふんそうじに、モノやお金は出しても人は出しませんから……」

「だが今回は、そうは行かぬか……」

「はい。諸外国はすでに、多くの人的支援を行っていますから」


 鞍馬は更に、渋い表情になった。

「この国が諸外国の圧力に弱いのは、相変あいかわらずじゃな……」


 すると春海は、自信ありげな微笑みを見せた。

「それがこの国の、いつもの対応でしょう? でも安心してください、鞍馬防衛大臣。私が考えたプロジェクトは……」


 それを鞍馬は、さえぎった。

「分かっておる。だからわしも、一応このプロジェクトの許可を出した。だがこうも死者数が多くなるとは……」


 すると春海は、銀縁メガネのブリッジを右手の中指で押し上げてせまった。

「ですが鞍馬防衛大臣、いまさらめられませんよ。我が国の戦士たちが決まるまで」


 鞍馬は、唇をかみしめた。

「分かっておる……」


   ●


 俺は俺のキャラを、建太けんたのキャラの前に移動させてかばった。次の瞬間、俺のキャラは敵キャラのショットガンを喰らい、ライフが一つ減って残り一つになった。そしてペナルティ・スナイパーに右腕をたれた。残りのライフが無くなりゼロになれば、今度は頭を撃ち抜かれるか……、と俺は死を予感した。


 だが俺は死に関して、すでにマヒしていた。多くの死人を見て、多くの死を身近に感じる経験をして。これじゃあ、ダメだな。俺はいつか死ぬなと、ふと考えた。そんな俺に、建太は聞いてきた。

「どうしてお前は俺のキャラを、いや俺を助けた?……」


 俺は、あっさりと答えた。

「ふん。お前のキャラのライフが残り一つで、俺が助けなきゃお前は殺されちまう。このゲームでは味方を一人失うと、大きく戦力が減るからな……」


 建太は感情が無い声で、答えた。

「自分の命を危険にさらして、味方をまもるか……。変わった奴だ……」


 だが俺は、言い放った。

「今、このへんには俺たちしかいない。協力しなきゃ、生き残れないぜ!」


 すると建太は今度は、力がこもった声で答えた。

「ふん……。そうだな……」


   ●


 話は、十分前のことになる。俺と彩華あやかさんと景和けいわ伊留美いるみの四人が、東京駅からバスに乗っていつもの建物に着いて中に入ると、見知らぬ大柄おおがらの男が一人いた。


 男はパソコンが五台並んでいるテーブルの、真ん中で腕組うでぐみをして座っていた。他には誰もいなかったので俺は、ああ、こいつが俺たちの新しい仲間なんだなと思った。俺は三十代と思われるその男に一応、自己紹介をした。

「俺は北村きたむら修吾しゅうご、よろしく」


 だが男は、パソコンの画面を見つめたままだった。するとなぜか、伊留美がキレた。

「ちょっと、アンタ! 名のられたら、アンタも名前ぐらい言いなさいよ!」


 伊留美は結構、礼儀れいぎきびしいようだ。意外な一面を見つけてしまった。すると男は、つぶやいた。

「俺は、青島あおしま建太だ……」


 それを聞いた伊留美は、再びキレた。

「だから、よろしくって言ってるでしょ?!」


 だが男は、無言だった。だから伊留美も、この建太という男はこういう愛想あいそうが無い男だとあきらめたようだ。だが、確認した。

「で、アンタ。ライフはいくつ、残ってんの?」


 建太は再び、呟いた。

「一つだ……」


 伊留美は、おどろいた表情になった。

「一つ?! 逆にアンタ、よく今まで生き残れたわね?!」

「俺は今だに、このゲームのことがよく分からん……。強そうな武器を選んで、撃ちまくっていただけだ……」

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